第53話 ダンジョン「視察団と東の森」
翌日の早朝。
領軍の視察団を待たせるわけにはいかないので、早めに宿を出る。
いつもより早い時間にもかかわらず、朝食とお弁当を用意してくれる、宿屋タナヤのタナヤさんには、頭が上がらない。
調理場からタナヤさんが、気を付けるんだぞと、ぶっきらぼうに声を掛けてくる。
オリウさんには、安全な森の案内、と伝えているのに、気を付けるようにと頭を抱いて心配してくれる。
恥ずかしいし嬉しいし、目が潤む。
フミが、寝癖の酷い顔で、気を抜けた声を掛けてくるのに癒やされる。
「気を付けて行ってきます」
「ああ、気を付けてね」
「行ってらっしゃ~い」
装備は、冬用の森に入る何時もの装備だ。
宿を出て、顔を軽く叩き、気合を入れる。
「行ってきます」
振り返り宿に向かって、改めて挨拶して歩き始めた。
コウの町の、東の門には朝の鐘の音が鳴る前なのに、すでに視察団が待機していた。
「遅れました、すいません」
「いや、時間前だ、それに我々は朝の訓示をしていた。 丁度良い所で来てくれた」
注意事項を伝えていたのか。
宿泊している場所でやるよりは、真剣に聞くだろう。
「以上が、連絡事項となる。
我々にとっては初めての森だ。 危険度は低いが、注意を怠るな。
さて、案内役のマイが来たので、本日の工程を説明する。
これから移動、東の森の入口で小休止と昼食。
その後、本日目的の森の中の休憩エリアに到着の後、拠点を構築。
明日以降に依頼の調査の行動を行う。
疑問点はあるか?」
メンバーからは何も無い、事前に情報の共有済みなのだろう。
ということは。
「私から1つ。 ご存じの通り私は時空魔術師です。
容量も現在十分余裕があります、私の輸送能力を使えるようなら使って下さい」
昨日の説明では、私の役割が案内としか聞かされていなかった。
しかし、私の時空魔法を使わない手は無い。
「それは、ありがたい。
実は当てにしていて、荷物を分けてある。
大樽半分にもない程度だか問題ないか?」
「生きている物がなければ、問題ありません」
生きている物を収納出来ることは、かなり貴重な能力だ知られたくない。
「うむ、よろしく頼む。 報酬の追加もしよう」
話をしながら、周囲を見る。
視察団長ギムさんの大声が東の門に響く。
これは、周囲の人に対してのアピールかな?
依頼で来ているのであって、用が済めば居なくなるという。
あと、本来の目的の内容はぼかしている。
これなら、狼の調査と思われるだろう。
このコウの町は、大きい町ではない。
殆どの人が顔見知りだ。
なので、旅人以外の人に対しては、慎重になる。
ましてや住み着こうとすると、溶け込むには時間と忍耐が強いられる。
私がこの町に溶け込めたのは、ひとえにタナヤさんたちの信用という後ろ盾があるからだ。
一番最初、タナヤさんと一緒に食料品の買い付けに来たときに私に向けられた、懐疑的な目線が視察団に向けられている。
私が、収納について訪ねたのも、今回限りの間柄であるということをアピールしたかったからで、ギムさんもそのつもりで合わせてくれた。
「では、全員準備が完了次第、移動開始だ」
丁度、朝の鐘の音が鳴る。
■■■■
東の門を出て移動を開始した。
当たり障りなの無い雑談をする。
「今の装備を見て判るように、私達は元々冒険者を主にして活動していたチームでね、
今の領軍の隊長と一緒に仕事したときに、誘われたんだよ。
で、チームごと入隊したと言うわけ。
ハリスだけは、立場上は出向扱いだけどね」
と、話しかけてきているのは、シーテさん。
魔術師だ。 得意な属性は風と火と土。 魔術師としては比較的よくある組み合わせだ。
私が基本魔法が苦手なのを知るとドヤ顔してた。
なんか、妹が居るそうで、その代わりなのか私を構ってくる。
あ、ギムさんから冒険者として扱うようにとのことで全員さん付けだ。
先輩冒険者という位置づけだね。
「ハリスさんだけ?」
「ハリスは教会所属なのよ、聖属性の魔法使いね。
経験を積むために同行しているの」
ほー、聖属性の魔法使いって始めて会った。
まだ実戦で使えるほどの聖魔法が使えず、修行を兼ねたているのか。
しかし、今回は修行になるのかな?
とはいえ、実際に聖魔法を使う所は見てみたい。
「はい、とはいえ未だ未だ半人前でして、修行中の身です」
ハリスさんが、穏やかな口調で話す。
「教会の方に会うのは幼い頃以来なので、教会のこととか教えて貰えると嬉しいです」
「では、休憩の時にでも。教会のことを知って頂くのも、教会に居る者としての義務ですので」
「固いこと言わずに、まずは興味を持って貰えば良いんじゃないかな?」
ハリスさんの言葉にブラウンさんが割り込む。
この人は、柔らかい口調で、丁寧だ。
弓と長剣を持っている。
中衛から前衛をこなすタイプかな?
「うむ、知りたいと思う気持ちが、なによりも大切だし、身につく」
言葉少なく、うんちくを述べるのは、ジョムさん。
大盾とバトルアックスという、純粋な前衛職だ。体格も前後左右に筋肉が発達している。
それだけじゃない、周囲への観察を欠かさない。
先頭を歩くギムさんは会話には入ってこない。
冒険者の剣士として一般的な長剣と金属の軽装甲装備だ。 様になっている。
しばらくは、農地に出る人や、牛を牧草地に移動する人が居たが、畑が途切れ、草地になった辺りで、ギムさんから声が掛かる。
「念のための確認になるのだが、魔物は見ていないんだな? マイ」
多少砕けた口調に少し驚くが、これが素なのだろう。
「はい、ダンジョンの中には生き物の気配が皆無でした。
空を飛ぶ物が居たかもしれないので、絶対では無いですが」
「ふむ、今のところ空を飛ぶ魔物は、ある程度大きい魔物しか記録に残っていない。
今回の規模なら、居ないと想定しても良いだろう」
「でも、消滅したダンジョンを調査する意味が私には判りません。
何か理由でもあるのでしょうか?」
「発生時期と場所、規模は必ず調査することになっている。
これは、国命だな。
500年前の魔物の氾濫の再来を阻止するための処置と聞いている」
「そうですか。 魔物の氾濫の前兆があったのかと思ってしまいました」
ビクッ
ギムさんの視線に身体が震える。
「えっ?」
「余計な詮索はしないことだ」
つまり、そういうことなのだろう。
「わかりました」
「すまんな、俺も詳しくはしらない。
が、ここ最近はこの手の視察依頼が増えてる、注意することだな」
「いや、詮索するなと言いながら、教えてくれるんですね」
私が、ギムさんを見上げるようにのぞき込むと、そっぽを向いて鼻の頭をかく。
「そういうリーダーなんですよ」
ブラウンさんが、補足する。
うん、冒険者チームとして、言い関係を築いているんだな。
うらやましい。 私にも仲間といえるチームが出来るのだろうか?
予定通り、東の森の入口で小休止し昼食を取り、森の中に入る。
さて、これからが本番だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます