第52話 ダンジョン「視察団」

 ダンジョンとダンジョンコアを見つけたから、十数日経った。

 その間、宿の仕事を中心に、町中の雑用依頼をこなしていた。


 雨が多く、森に入るのが難しかったからだ。

 とはいえ、何度か森に入っている。 この時期にしか捕れない薬草があるからだね、成果は芳しくなかったけど。


 宿の方は、常連が定期的に来ているのだろう、泊まり客が途切れることは無かった。

 タナヤさんの料理目当てで、この宿を利用している人も多いようだ。


 おかげで、思考の沼に沈む時間がたっぷり取れた。


 幾つか試した新しい時空魔術もある。



 その1つが、自分の収納空間に入り、その空間から実際の空間に対して攻撃を仕掛ける。

 攻撃力さえ上がれば、急所に当たれば、確殺の技だ。



 実際、発動自体は問題なかった。

 しかし、制約もある。

 取り出す位置を事前に決める必要がある。

 私が収納空間から攻撃できる場所は、自分を収納した場所と、目視で確認した遠隔取り出しとして指定した場所の2つのみ。


 制約が厳しいが、かなり安全な場所から一方的に攻撃できる。



 もう一つが、飽和収納による収納爆発だ。


 自分の収納量を超えた収納を行ったとき、どんなことが起きるかは色々あるが、その中でもっとも多いのが、収納した物が全て一気に爆発的に飛び出してしまうこと。


 なので、時空魔法を使う人は、自分の収納量を把握して、収納量を超えないように細心の注意を払う。

 これを意図的に行う事が出来ないか、で試した物の成果だ。


 これは、以前の経験を思い出して再現中に発覚した。

 最前線の砦から戻るときに、年老いた狼を収納して、収納空間内で窒息死させた。


 この時に、私は無意識に収納空間の中にもう一つの収納空間を作っていた。

 生き物が収納出来ない空間、もしくは生き物が生きていけない空間を。


 この空間の収納量の実験をしているときに、収納爆発が起きた。


 凄く痛かった。


 じゃなくて、意図的に収納爆発が起こせることが判った。

 収納空間内にある物に、もう一つの収納空間で包み、その収納空間を小さくする、と、飽和収納状態になり、収納爆発が起きる。この爆発を指向性つまり取り出す方向を指定することで、爆発的に取り出す、打ち出す事が出来る。


 強力な武器だ。 指向性が甘いので、有効な距離が短いが打撃力はかなりの物だ。


 一度、森で確認したとき、5キロぐらいの石を収納爆発させたら、直径50センチはある木の幹を砕いた。

 近距離だったので、凄い怖かったが。。。


 有効距離についても、小雨中で雨粒の飛散具合で確認できた。

 指向性が上がれば、有効距離も伸びる。


 制約は、威力が収納爆発させるものの大きさ? 質量? に依存する。

 当然、重く大きいほど威力は増大するが、かなりの魔力も消費する。

 距離が短いと、その衝撃の反動を受けてしまう。 しかし、距離が離れると効果が弱くなる。


 自分の体重と同じ程度の岩で確認したとき、時空転移ほどではないが、かなりの量の魔力を一気に持って行かれた。


 今は、小石程度の収納爆発で打ち出す練習をしている。

 このサイズでも、指向性さえ何とかなれば十分な威力が期待できる。

 指向性の向上と、消費魔力の節約、それと移動しながらの発動。 頑張って練習しよう。


 どちらもまだ名称を決めていない。



■■■■



 そんなある日、ギルドから呼び出しを受けた。


 理由は判っていたけど。 ダンジョン関係だ。


 冒険者ギルトに行くと、見知らぬ冒険者5人組とギルドマスター、顔見知りの女性職員とそうそうたるお出迎えを受けた。


 うん、わざとだけど町娘の服装で来るんじゃなかった。


 会議室の席に案内される。



「ギルドマスター、この者が例の時空魔術師なのか?」


 いかにもリーダーらしい中年の剣士がギルドマスターに問いかける。

 といっても、ギルドマスターと直接会ったの、私も今日が初めてです。



「間違いありません、彼女がダンジョンを見つけた時空魔術師です」


 顔見知りの職員さんが補足してくれる。



「始めまして、時空魔術師のマイです。 今はオフなので私服で失礼します」


 挨拶と、一応言い訳も付ける。



「今回のダンジョンの発見とダンジョンコアの回収について、視察に来た領軍の部隊長をしている、ギムだ。

 他は、部下のジョム、シーテ、ブラウン、ハリスだ。

 それぞれの紹介は後回しにさせて頂こう」


 4人は、胸に握りこぶしを当てて軽く頭を下げる略式の礼をビシッと決める。

 でも装備が、まるで冒険者なんですが、何だろう?


 5人の装備を、つい眺めていると、それに気が付いたギム隊長が補足する。


「ふむ、領軍の正規の装備をしていないのを気にしているのであれば、今回の視察が内密だからだ。

 領軍の兵士の装備で来ると、何かが起きたと邪推する者も多い。

 既に攻略済みとはいえ、ダンジョンが見つかったと判るのも、騒ぎになるからな。

 それで、冒険者の装備で来させてもらった」


 そういうことか、元々ダンジョンに関しては口外しないように言われているが、彼らが視察した後に正式発表されるのかな。


 それにしても、対応が早い。

 領都までは、馬を走らせてもかなり日数は掛かる。ましてや雨が多い今は馬もそう早くは走れない。



「ま、俺たちは元々冒険者から領軍になったんで、あんまり気にしなくて良いよ」


 ブラウンと紹介された細見の男性が、砕けた口調で言う。

 ギム隊長が目線だけで黙らせる。


 うん、領軍の実働部隊は冒険者から選抜されることもあると聞いたとがある。

 彼らがそうなのだろう、で、便利に使われているということか。



「丁度、東の町に来ているときで良かったな。

 あの謎の塊を運んだのも、君だと聞いている。

 我々は、その塊を領都に運ぶ護衛隊の1部隊なのだよ」


「そうでしたか、こんなに早く確認に来られたので、驚いていました」


「いきさつについては既に聞いている。

 明日にも案内して貰いたいが問題ないか?」


「えっと、私自体は構いません。

 職員さん、明日以降の天気については予想が出ていますか?

 あと、危険な獣の目撃例などは?」



 今は、宿屋の仕事は少ない。 直ぐに移動しても問題は無いのだが、一言伝えたい。

 呼び出しを受けたときに装備を調えてこなかったのも、直ぐに移動されては宿のみんなに説明する時間が取れないからという、打算もある。


 また、この地方の天気についての知識も知らないので確認したい所だ。

 天候については、ある程度の予想がギルドから出されている。

 危険な獣についても、最近は森の奥に行かないので、念のためだ。



「数日は、強い雨が降る可能性は低いと思われます。ただ、気温は低くなると予想されています。

 危険な獣ですが、狩人と兼任している冒険者からは報告を受けていません」


 ギム隊長が目を細める。

 ん、何か変なことを言ったかな?


「君はただの時空魔術師ではないようだな。

 経験が伴っている。 その年齢でよく理解しているな」


 あ、私が成年していない事も伝わっているのか。

 警戒されているような気がする。

 部下の人たちも、椅子の座り方が浅い。 ちょっと怖いよ。

 まぁ、話しても問題ない。隠していることでも無いし。


「元、王国軍 北方辺境師団 輸送部隊所属 徴用兵で位はありませんでした。

 5年の従軍経験が有ります」


 王国軍の略式の礼をする。

 右手を握って左肩に当てて、腕は水平に。で腰から礼。

 久しぶりにやるなぁ、普段は礼をするような士官と会うこと無かったから。


 会議室に居る全員が驚いている。

 あ、冒険者ギルトにも元徴用兵だったことを伝えてなかったよ。


「そうであったか、なるほど単独での活動をしているというのも頷ける。

 副業で冒険者をやっているような者とは合わせられないだろうからな」


 ギム隊長が、驚いたのと納得したのか、ニコニコしながら腕を組んで頷く。


 実際、複数人での依頼も何件か受けているが、他の冒険者の意識の甘さには毎回イライラさせられていた。

 ごくたまに居る、元兵士の冒険者と愚痴を言い合ったものだ。


 部下の人たちも、緊張を解いたのか、お茶を飲んだり、ひそひそ話をしてる。



「では、明日の朝の鐘の時に、東の門で落ち合おう。

 我々は、まだ話すことがある、マイ君、君は明日の準備を進めてくれ」


「はい、それでは失礼します」


 私と、職員さんが一緒に退席する。

 ギルドマスターとの話し合いになるようだ。






 で、職員さんからクレームが。


「マイさん、従軍経験があったなら教えて下さいよ、もっと優遇できたのに!」


「あはは、未成年で非正規兵ですからね、胸を張って言えるような事じゃ無いです」

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