第51話 ダンジョン「ダンジョン」

 ダンジョン。

 必死に思い出す。 魔法学校で学んだはずだ。

 だけど、そういうものがある、程度しか思い出せない。


「すいません、ダンジョンとダンジョンコアについて教えて貰えませんか?」


 まだ興奮している職員に説明を求める。


「あ、はい、そうですね。 あまり一般的では無いので基本から説明します。

 の前に、お茶飲みます? 私、喉渇いてしまって」


 長くなりそうなので、了承する。

 身体も冷えているしね。


 お茶を飲みながら聞いた話は、以下の通りだ。



 まず、ダンジョンは2種類ある。


 人工の物と、自然発生する物。

 今回は自然発生したダンジョンだとのこと。



 人工のダンジョンは、昔の都市や地下墓地、魔導師や賢者が作ったとされる研究施設、洞窟に作られた住居跡などを指す。

 要は遺跡だ。


 自然発生したダンジョンは、国内で年に数個発見される。

 実際はもっと多いとみられている。 発生原因は不明だ。

 そのほとんどが、今回私が見つけたような浅いダンジョンで、一番奥にダンジョンコアがあるのが特徴となる。


 このダンジョンコアを取ると、ダンジョンは消える。

 ダンジョンコアが大きいほど、ダンジョンも長く深くなる傾向があるそうだ。


 問題なのが、自然発生のダンジョンには魔物が発生する、と言われていることだ。

 魔物は、魔法が使える獣である魔獣と異なり、自然界の理を逸脱した生物になる。

 異常な繁殖力と食欲で、人類だけでないこの世界の生物全ての脅威となる、らしい。


 そのため、ダンジョンを発見次第、攻略しダンジョンコアを取り除く必要がある。


 私が見つけたような浅いダンジョンは他の動物が住み着いて、ダンジョンコアを取り除いてしまうので、気が付かないうちに消えていることも多いとみられている。


 自然発生したダンジョンが存在している状態。 あと、人工のダンジョンを作った本人か管理者がいる状態のダンジョンは、生きているダンジョンという。


 また、ダンジョンにはドロップ品が見つかることがある。

 人工物のダンジョンでは、そのまま、そこにあった物品になる。

 自然発生したダンジョンでも、何かがあることがある。 価値のある物が出ることは希だそうだ。


 最後に、ダンジョンコアは、非常に高価だ。

 同じサイズの魔石の1000倍以上の価値がある。

 入手が難しい上に、魔石とは比べものにならないほどの魔法を使うことが出来ることもある。



「と言うわけで、マイさんが今回、生まれて間もないダンジョンを見つけてコアも回収してくれたことは非常にありがたいことですし、功績にもなります。

 それと、コアの買い取り価格も期待して良いですよ」


 うん、思っていたより大事だった。


 しかし、ダンジョンか。

 思い出した、物語で読んだことがあるなぁ。

 宝箱があったり罠があったり、は人工物のダンジョンなのかな?

 自然発生したダンジョンも、階層を潜ると異なる世界が広がっているというお話だったけど、創作物だったのか。



「ダンジョンコア、持っていて何かメリットありますか?

 今ひとつ使い道が判らないのですが」


「基本的に大規模な魔道具に使用されますね。

 それ単体で魔力を入れても強い魔法が使えますがどんな魔法なのかは全く判りません、なので、持っていてのメリットはほぼ無いですね」


「でしたら、買い取りをお願いします。

 あと、薬草の根も」


「あ、はい、薬草の根の状態も良いですね、直ぐに報酬の準備をします。

 ……あの、魔物、見ていないですよね?」


「魔物というものを見たことが無いのですが、少なくても知らない生き物は見ていません」


「だと良かったです、けど、調査依頼は出ると思います。

 マイさんにも、何処にあったのかの確認のために同行を指名依頼されると思いますよ」


「最後に、ダンジョンのことは、公式に発表があるまで絶対に口外しないで下さい」


「そうですか、判りました」



 うーん、面倒ごとにならないと良いのだけど。



 ギルドを出ると、また小雨が降っていた。


 水汲み場に行き、しっかり泥汚れを洗い落とす。

 水汲み場は一般的なもので、一番上流が飲料水や生活水にするためのもの、次に食材を洗うエリア、洗濯物の水洗いエリア、汚れが酷い物を洗うエリアと区分けされている。

 一番下流のエリアで、ブーツやマントに付いた汚れを落とす。


 こんな天気の中でも水汲み場に来る人は居る。顔見知りだ。

 確か、衣料品店の娘さんだ。


「あ、お久しぶり。(塀の)外に行ってたの?」


「ええ、そのおかげて泥だらけです」


「今回の雨の年は早いのかな? 雪が降るかも?」


「雪ですか、積もると面倒ですね」


「そう、この辺だと少ししか積もらないから、困ることは少ないよ」


「あー、なるほど数メートル積もるともう大変だったので」


「想像できない……」



 泥を落とし終わった。

 彼女は、どうやら染め物の染料を洗っているようで、色が付いた水が流れてくる。


 空を見上げる、重い雲が流れてくる。 また降るかな?



「雨、また強くなりそうなので早めに帰った方が良さそうですね」


「だね、私も早く終わらせて帰るよ、じゃねー」


「またね」


 水汲み場を後にする。






 少しずつ強くなる雨の中、少しの不安を振り切り、今夜の夕食になる群れウサギの料理に思いをはせた。

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