第50話 ダンジョン「謎の穴と、謎の石」
宿屋タナヤを出発する。
いつもより寒さ対策と雨対策を充実させた装備だ。
フミが声を掛けてくる。
「マイ、大丈夫だと思うけど、気を付けてね。 あと、ウサギ、期待してるよ。
はい、お弁当」
「ありがとう。もうフミったら。 ウサギは捕れてもみんなで食べる分だけですよ」
フミとの関係もかなり近くなった。
お弁当を渡すときも、身体が触れあうぐらい近い。クスクス笑い合う。
ウサギや鳥など小動物を狩る事は伝えている。 また、それを宿に持ち込んで料理し販売は基本的にやらないという事も決めた。
基本的というのは、干し肉にしたものを料理に使ってしまうことも、時々あるからだ。
今回も東の森だ。
慣れてきたのと、湧き水や拠点とする場所が判ってきたので、採取したい物が有る限り東の森を中心に行っている。
他の森も、浅い部分では確認しているけど、まだ地形に不安がある。
この辺は、経験者と一緒に行くべきだけど、ソロでの活動を主にしているので、仕方が無い。
東の門から出かける。 守衛さんとも顔パスできる仲になっている。
「いつも通りですね、2泊3日で薬草採取と出来れば狩りかな?」
「おう、寒いのにご苦労さん。 風邪引くなよ。
あと、雨が降りそうだから、戻れるようなら早めに切り上げるんだな」
「そうします。 では」
守衛さんも、いろいろアドバイスをくれるようになった。
畑の仲の道を行く。
麦の芽がだいぶ育っている。
麦踏みをしているのだろうか、何人かが作業しているのが見える。
東の森の入口が見える丘で、フミから渡されたお弁当を食べる。
タナヤさんの味じゃないな、これはフミが作ったのかな、うん美味しい。
顔がほころぶ、フミが作ってくれたのかぁ。
ここで、装備の最終点検をする。 ここからは真剣だ。
冬装備は兵士時代のを基本に、ギルドに居た狩人や冒険者、職員からのアドバイスを元に構成している。
私が自分自身の収納空間に入れることは誰も知らないので、一人で森に入るのには結構難色を示されていたなぁ。
それから、森に入る。
今回目標とする薬草の根は、比較的急な斜面で日当たりが良く土がしっかりしている所。
細長い草の根だ。 根は生姜のような根が固まっている。
この時期では周囲の草も含め枯れているので、探すのは難しいだろう。
薬草の根をさがすのに、探索魔法を試したことがある。
通常の土属性での探索魔術を行使した時、地面の表面の変化を読み取る。
振動や何かが居るときの重みの変化だ。
それを、地中の中の物を探すために使ってみた。
結果は、全く分からなかった。 土や石、木の根、よく判らない小さい昆虫。
情報量が多くてしかもゴチャゴチャしていてまとまりが無い。
期待していたのは、根菜のようなものを探し当てることだったけど、私の能力では役に立たないことが判明したよ。
おそらく探索魔術の使い方、情報処理の方法を考え直さないといけない。
ピンポイントで目標の物を探すような魔術は、一応ある。
私の学んだ物では、目標となる物にある魔力を元にして探す、と言う物だった。
が、私だと、参考となる魔力を有している物を手に持ってそれを参考にして魔術を行使しても、1メートル範囲が限界だった。
植物の根のような魔力が弱い物だと、そもそも探すことが出来ない。
なので、1つ見つけてそれを元に他の根を探すという手が使えない。
地道にいこう。
小川沿いに歩いて行くと程なく目的の場所に着いた。
拠点となる場所。 湧き水が近くにあり、また、雨風が多少しのげる岩の窪みを確保する。
最近誰かが使ったような形跡は周囲に無い。
薬草の根の採取は、運良く1つ見つけた。
掘り起こすのは根を傷つけないようにするので本来面倒なんだけど、ここは時空魔術を使って、チャッチャッとこなす。
また、採取したあとの茎と根の一部を土に戻すことも忘れない。
来年も大きくなれよ。
で、2つめは見つからない。 うーん。
そんなことをしていたら、雲行きがかなり怪しくなっていることに気が付いた。
大急ぎで拠点に戻る。
雨が降ってきた。 マントを頭から被る。
拠点に戻ってきて、失敗に気が付く。
山から流れてきた水が、岩伝いに窪みの中を流れている。
これでは、ここで雨をしのげない。
周りを見渡す。
雨風をしのげる場所は、ん? あんな所に穴があったかな。
岩の窪みから少し離れた所にある大岩に私の胸ぐらいの高さの穴が空いている。
気が付かなかった。
近寄って、石を投げ込む。柔らかい地面なのだろう音がしない。
そして、気配が無い。
雨で分かり難いが、匂いも嗅ぐ。
反応が無いな、また、獣臭いことも無い。
傾斜が緩くあり、水が入ってくることもなさそうだ。
取り敢えず入ることにする。
雨が強くなってきた。 冷たい雨で身体が冷えるのは避けたい。
自分の収納空間に入れば良いのだが、その前に場所の安全は確保したいしね。
念のために、近くの葉が着いている木の枝を数本切り落として、入口を塞ぐ。
見つからないようにするためと、侵入者がいたら音で判るから。
光の魔術で小さい光源を作り、奥に風の魔術でゆっくり飛ばす。
奥行きは5メールほどか。浅い横穴だ。
でも、見れば見るほど不思議な穴だ。
コケや暗い所で育つ植物が無い。小さい生物の気配が無いのだ。
人工物でもない。
奥まで探索するか少し悩んで、今日は止めることにした。
明日探索して、その後、雨が降るようならもう1泊し、戻ろう。
入口付近で、食事を取る。
木の枝の隙間から見える外の様子を見て、考える。
薬草の根は1つ見つける事が出来た、欲くを言えばもう1つ欲しいが無理はしない。
この雨では、小動物は隠れてしまってるから見つからないだろう。
「ふう」
眠くなってきたので、自分の収納空間に入る。
自分の収納空間も色々手を加えていて、小さいながら居住スペースを用意している。
楽な服装になって、寝具にくるまって寝る。
温度が丁度良いというのはありがたい。
翌日、周囲を注意しながら収納空間から出る。
枝はそのまま、特に問題ないようだ。
雨は弱いが降り続いている。
朝食を取って、穴の奥を見る。
調べてみようか。
光の魔術を使って光源を出す。
しっかし、もう少し明るく出来ないのかなぁ。
私の光魔術では薄ぼんやりとしか照らすことが出来ない。
奥に注意深く、天井が低いので体を縮めて進む。
といっても、5メートルほどだ、直ぐに奥にたどり着く。
何も無い? ん? 一番奥に小さい石が浮いている。
何だろう。
ショートソードを取り出して、つつく。
コツンと音を立てて地面に転がる。
念のため何度かつついて、手に持ってみる。
宝石のような不思議な光を持っている。
念のため持ち帰ろう。 収納空間にしまう。
穴の入口に戻る。
雨は、小雨になっていて、雲間から光が漏れている。
切り上げて戻ることにした。
もし、また雨が降って足止めをうけたら、宿のみんなに心配を掛けてしまう。
穴を出て、水の補充をしようとしたら、後ろから押される!
ビックリして振り返るが、何も無い、じゃない穴の中から風が強く吹き出している。
ボフン
変な音がしたと思ったら、穴が消えていた。
「はっ?」
意味が判らない。 さっきまで居た穴が消えた?
奥にあった石を取ったからか。
岩を触ってみるが、穴があった痕跡は全くない。
判らないことだらけだ。
とにかく戻ろう。
湧き水から水を汲み、森の外に向かって移動する。
雨が止み、薄日が出てきている。
森の中を進む。 混乱はしていないな自分。
慌てず急がず慎重に。
森の入口付近で、草むらの中に群れウサギが10匹居たので、遠隔攻撃で2匹狩った。
2匹目で危険を察しされて残りは森の中に逃げられた、のだけど。
2匹とも、宿へのお土産かな。
森の入口に近い所になる小川で血抜きを済ませる。
ぬかるんだ道を歩いて、コウの町へ戻る。
守衛さんに挨拶して、ギルドに。
の前に、簡単だけど泥汚れは落としておく。
町の入口には、荷馬車が待機する場所がある。
用意されている馬用の水飲み場の水を使って、目立った汚れを落とす。
雨の後で水飲み場の水もたっぷりあるので、少し拝借しても何も言われない。
ギルドに入ると、流石に閑散としている。
職員さんに相談したくて、顔見知りの職員に声を掛けて別室で相談を希望した。
忙しくない時間だったので、対応してくれた。
今回の採取の顛末を話し、薬草の根を1つ出す。
本題の、謎の穴について説明していると、だんだ職員さんが興奮してくる。
なんだろ?
持ってきた石を机の上に乗せて見せると、職員さんが目を見開きジッと眺める。
と、おもむろに私の両手を掴んで言う。
「それってダンジョンコアですよ! マイさん」
は、ダンジョンコアって何?
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