第5章 ダンジョン
第49話 ダンジョン「冬のある日」
東の町への輸送依頼から約半月が経った。
コウの町はすっかり冬模様で、日中でも人出が少ない。
宿屋タナヤも、ポツポツと旅商人が来る程度で、ノンビリとした物だ。
私は、冒険者ギルトでの常設依頼である薬草と冬の時期の定番の薪を集める依頼を中心に、依頼をこなしている。
実入りが良いのは、土木工事関係かな、重い石や建材を運ぶのは、時空魔法の
他の冒険者の仕事を奪わない程度に控えているけど、指名して来ることも多くなった。
たった数ヶ月だけど、コウの町にすっかり慣れた気がする。
もちろん、知らない所は多いけど、商店や露店、ギルド関係者にはもう町の住人として見て貰えている、と思う。
今日の服装も、町娘……に見える服装だ。
軍に居た頃はズボンが当たり前だったので、スカートに慣れるのに苦労した。
けど、今は寒さ対策のズボンの上に、ロングスカートを身に付けているので抵抗感は少ない。
今まではオシャレとは無縁の生活だったけど、フミのお古を着て、フミと一緒にそれなりに楽しんでいる。
冒険者ギルトに着く。
私服で来ているが、顔を覚えてもらっているので、誰も何も言わない。
昼頃というのもあってか、人も少なめかな。
依頼掲示板を確認する。
やはり、依頼数が少ないし、私が出来そうなのは常設依頼程度かな。
すっかり顔なじみになった女性職員さんに、薬草の採取について確認する。
「すいません、薬草の採取ってこの時期何が取れますか?」
「そうですね、流行病に効果のある薬草は採れますが、今のところ供給量が落ち着いているので価格は低めですね。 薪も同じです。
難しいですが、高い効果のある薬の原料となる薬草の根の採取があります。
今の時期が一番効能が高いのですが、それでも1日探して1つ見つかるかどうか、が普通ですね」
「後は、獣の狩りですか、マイさんには向かないでしょうか?
冬でも活動しているウサギやイノシシ、シカはこの時期、狩りにくいので需要があります」
流行病の薬草は、定期的に採取しているが買い取り価格が下がっている。
薬草の根の採取か、一応、ギルドにある資料で確認しているし、実際に探したこともある。
この時期に探すとなると、枯れた葉っぱや
難しい。
根っこには冬を越すために、栄養が蓄えられているので今の時期が価値が高い、とのことだ。
獣の狩りだけど、練習してきた遠隔取り出し、いや遠隔攻撃と言おうか、が大分様になった来た。
小型の獣なら、鉄串で急所を刺すことで安全に狩ることが出来る。
小型の獣は、割と接近し易い。逃げられると判断している距離までは近寄ってもこちらを観察するように見ているから。
そしてこちらに向かって警戒している所で、後ろからプスだ。
イノシシやシカは流石に難しい。
頭部を狙えれば良いが、骨を貫くことは出来ない、耳を確実に狙える所まで接近したいが出来ない、主に危なくて。
狼の話は、あれ以来聞かない。 どうも西の方から流れてきた群れ分けした群れで、新しい縄張りを探していた、と考えられている。
もっと森の奥なら、討伐対象にはならなかっただろうに。
「うーん、薪は他の人の依頼を取ってしまうので、避けたいですね。 恨まれたくないですし。
薬草の根の採取を中心に、小型の獣を狙う、感じでしょうか?
狩った獣ですが、納品しないとダメです?」
「自分で食べる分でしたら、特に納品も申請の必要も無いですよ。
ただ、近所の方が購入したいとか譲って欲しいとか来たら、出来るだけ断って下さい」
薪は、時空魔法を使うと、一度に運べる量が桁違いになる。
普通の薪を取りに来た人の分をごっそり持って行ってしまうので、よほどのことが無い限り避けたい。
狩ってきた獣だが、ご近所付き合いだ、店頭の価格より安く提供するしか無いだろう。
物々交換している間なら、譲ることもあり得る。
「うーん、宿屋のタナヤさん、近所にお持ち帰りで料理を作って販売しているので微妙ですね。
あくまでも、自分たちだけで食べる分ですか……」
タナヤさん、町だけでなく近隣の村や町でも有名な料理名人だったりする。
宿屋で食堂を開いていないのは、食堂が忙しくなりすぎてしまうためだ。
その代わり、近所の人向けに、持ち帰り用の料理を販売している。
「狩ってきた物にマイさんと金銭のやり取りがないのなら、やり過ぎなければ、というところでしょうか?」
「そうなりますよね。
狩った物は基本は納品します。 で、宿のみんなで食べる分だけ持ち帰りの方向で。
あと、薬草の根の採取を主に行います」
「はい、了解しました。 どれも常設依頼ですので、特に申請はありません。
今回のご予定は?」
「いつも通り、明日から東の森で、2泊3日で行きます」
「はい、お気を付けて。 雨の可能性があるのでご注意を」
私の何時もの生活が今日も始まる。
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