第48話 日常「エピローグ」
東の町、ちゃんとした名前があるがコウの町の人たちは東側にある町なので東の町と言ってる。
その東の町の貴族の館の一室。
2人の男性がソファーに向かい合って座って、お茶を飲んでいる。
「ふむ、この町にしては良いもてなしを受けた物だ。
それで、町長の館にある塊は問題なく運べるのかね?」
貴族と思われる男性が、下座に座っている男性に問いかける。
「はい、用意した時空魔術師で問題なく輸送できます。
領都への輸送の手続きも問題なく進んでいます」
「それで、君はアレを何だと”鑑定”した?」
君、と呼ばれた細身の男性は、コウの町まで行って手続きを含め、塊の検分もしていた。
例外魔法の一つである鑑定が使える魔法使いだ。
「……判りません。 と鑑定しました」
鑑定の魔法は、過去に何らかの方法で知り得た情報と照合することが出来る魔法だ。
知っていれば、忘れていても強制的に思い出すことが出来る、というものだ。
知らない物に対しては判らないとしか出ない。
「そうか、ではやはり領都にある鑑定機を使用するしかないのだな」
「はい。 個人的な見解ですが、魔力をまとっているようです」
これは、魔石ではないが魔力を持っている何かということだ。
しかし、これほどの大きさで魔力を持っている物の心当たりは無かった。
「古代の神話に出てくる巨大な竜の魔石とでも言われれば、納得も出来たのだがな」
「私もそう思いましたが、魔石なら町の鑑定機でも判ったはずですから、何とも」
魔石。
魔力を持つ生き物の体内に生まれる石で、魔力を流すとその魔石が持つ属性の魔法が使える。
その為、魔法が使えない人でも魔法の恩恵が得られる。
その魔石を使った魔道具も作られている。
魔石がどうして生まれるのかは、判っていないが、魔石は魔力を持つ生き物に多く生まれる。
もちろん人間にも。
そして、魔石の大きさは、その魔力を持つ生き物の魔力の大きさと、生き物としての大きさで決まる、らしい。
人間だと、クルミ程度の大きさが最大で、それ以上の大きさになると、酷い痛みを訴える。
この場合は、胸を切り開き魔石を取り除かないといけなくなる。
つまり、魔石は魔力が体内で固まった物で、生物としては不要な物、らしいとされている。
今回の塊、大樽2つ分の大きさの魔石を持っていた生物となると、途方もなく巨大な生物になる。
その可能性は、今回は無いはずだ。
「ところで、この塊の話は、王都まで伝えるのでしょうか?」
「領主様がどう判断するかは判らんが、あの物好き王の事だ欲しがるだろうな」
「変わった物がお好きだそうで、気に入られそうですね」
「うむ。 おそらくは献上することになるだろうな。
とはいえ、領都まで届くのには数ヶ月は掛かる、今そこまで心配しても仕方が無いだろう」
ゆっくりとお茶を飲む。
塊を確実に運ぶこと以外には興味が無い。
君と呼ばれた男性は、今回の輸送の任務を受けた貴族にそんな印象を受けた。
■■■■
コウの町から、村へ行く街道。
紅牙のメンバーが、大量の荷物を背負って、故郷の村への道を歩いていた。
「あ~、マイちゃんが居たら、移動も楽だろうになぁ~」
カイが軽口をたたく。
ハルは、マイをメンバーに迎えたいと言ったのはこの為なのかと思ってしまう。
「マイ、本物だったね。 私達と全然違った」
紅牙は、結成してから4年、最初は雑用ばかり、最近ようやく護衛依頼を2度こなしている。
戦闘といえる戦いは無かった。獣も単独の家畜の味を覚えてしまった山犬の討伐程度だ。
兵士としての経験と意識、考え方を実際に見た衝撃は大きかった。
「実戦経験があるというのは大きいよなぁ。
狼が出たとき、真っ先に冷静な指示を出していたしねぇ」
カイは、珍しく神妙な事を言う。
「私が本当はやらないといけない事だったのに、情けないよ」
ハルは、この依頼の後から考え込むことが多くなった。
このまま冒険者を続けるべきなのか、続けるのならどうするべきなのか。
「私達、これからどうするのか、真剣に話し合おう」
「そうだな、俺はどうしたら良いのか判らなくなってしまった」
ハルの言葉に、マイトが力なく答える。
マイトは元々、その恵まれた体躯と剣の力でを拠り所にしてきた。
ハルやカイの支えのおかげで増長することも無く。 ただそのせいで思慮が足りない。
今回は、その思慮の浅さが、決定的に仲間や守るべき依頼主と時空魔術師を危険に晒した。
「みんなを守るのに力だけじゃ足りてないのか」
剣の腕には自信があった、兵士相手でも互角にいけるんじゃないかとさえ。
でも、手負いの狼相手に全く手が出なかった。
その狼にトドメを刺したのは、元兵士とは言え非戦闘職の時空魔術師だ。 自信が大きく揺らぐ。
「今回、一番バカなのは俺っしょ。
慌てて弓を撃っちまって、狼に気が付かれちまった」
カイも、村では猟師としても働いている。
弓の腕には自信があった、馬上からでも当てられるとうぬぼれていた。
沈黙が流れる。
「あー、もう、みんなジメジメして、らしくない。 紅牙らしくない。
本物が見れて経験できたんだから、今度は私達が成長する番だよ。
次にマイに会ったときに、本物の冒険者として会えるようにね!」
ハルがやけくそ気味に叫ぶ。
「ああ、そうだな」
「それ、いいねぇ」
マイトとカイも同調する。
村への歩みが少し軽くなった気がした。
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