第47話 日常「反省と完了」
「グスッ、グスッ」
街道にハルの鳴き声が響き、マイトとカイは何も言えずに立っている。
「はぁ」
冒険者といっても、彼らは畜産の合間に副業でやっている、いわばほぼ素人だ。
一丁前を気取っているが、まともな戦闘経験は無かったのだと思う。
言い過ぎたかな。
ケントさんが、間に入る。
毎度すいませんね。 感謝は出来ないですが。
「ハルさん、皆さんも無事だったのですから、まずは喜びましょう。
狼の討伐は、マイさんの物で良いですよね」
「ああ、俺には何にも出来なかった」
「マイちゃんが倒したような物だから良いっすよ」
「グスッ、うん」
3人は了承する。 が、判ってない。
「確かにトドメを刺したのは私ですが、
この狼、致命傷の傷を受けていたので、放っておいても死んでいましたよ。
だから、討伐していた人は深追いせずに居たのでしょう。
最後は、正気を失っていましたからね」
「れ、冷静ですね。良くそこまで判るものです」
ケントさんが驚く。
「最初に見た時点で、深手を負っていたのが判りましたから。
だからこそ、最初に防御の態勢の指示を私が出したんです」
マイトとカイを睨む。
「私達の状況上、戦いはとにかく避けるべきでした。
今回は狼はそのままこちらに気が付かずに通り過ぎていた可能性が高かったですね。
なので、弓を撃ったのも、突撃したのも、一番やってはいけない最悪の方法でした」
マイトとカイは、ようやく理解したのだろう。
自分達の迂闊さで、依頼主を危険にさらしたことを。
「ハル、この場合、貴女が一番冷静に全員をコントロールするべきでした。
今回、無事だったのは運が良かっただけです。
次も運が良いとは限らないことは、肝に銘じて下さい」
「うん」
わー、ようやく私も冷静になってきて、偉そうな御託を並べてることに恥ずかしくなってきた。
「反省したのなら、これ以上、言うことはありません。
私も、少し言い過ぎました」
私は、目を閉じてパンと手を打つ。
反省はここまで、という意味を持たせて。
トドメを刺した狼を収納すると、帰路につく。
3人は、必要以上に周囲を警戒する。
うーん、それはそれで余り良くないのだけど、今は仕方ないか。
「改めて、マイさんが居てくれて良かったです。
兵士の経験がある方が居ることの重要性を理解しました」
ケントさんが話しかけてきた。
「あー、兵士の経験があるだけで信頼してはダメですよ。
私は実働部隊でほぼ最前線近くに居たので経験がありますが、後方での任務が中心の人は戦闘経験が皆無というのも普通にありますし」
前線の状況を知らない士官の指示で、死にかけたことも何度か有ったからなぁ。
「そうですか、注意することにします。
あと、彼らにも良い経験になったでしょうね」
「それは、私も冒険者のほとんどが、副業だというのを失念していました。
彼らには、強く言いすぎましたか」
「いえ、たぶんあそこで甘い言い方をしたら、次の時は運は味方してくれないでしょうね。
マイさんが居てくれた事が運が良かったと理解できなかったでしょう」
「そういうものですかね」
「そういう物だと思いますよ」
丘の向こうに、コウの町が見えてくる。
この依頼ももうすぐお終いだ。
■■■■
町に着く。9日ぶりだ。
行きに3日、休息1日で、帰りは5日。
荷馬車での移動の半分程度での工程だ。
帰りの狼以外は、まぁまぁ許容範囲かな。
ギルドに行き、到着の報告をする。
また、手負いの狼のトドメを刺したことも報告した。
思っていたとおり、狼のの討伐で、取り逃した1匹は致命傷を与えたので深追いしていなかったそうだ。
収納空間から狼を捕りだして、買い取って貰う。
とはいえ、傷だらけなので、たいした額にはならなかった。
輸送依頼の報酬もここで受け取る。 信用しているとのことだ。
その後、ケントさんが常用している宿の倉庫に荷物を取り出して検品してもらう。
問題ないことを確認。
紅牙のメンバーの分については、見なかったことにする。
「マイさん、今回は本当にお世話になりました。
マイさんが居てくれたおかげで、今回の商売が予想以上に上手くいきました。
次回機会が選りましたら、是非ともよろしくお願いします」
「その時は、事前の相談は忘れないで下さいね」
皮肉も含めて、返事をする。 受ける気は基本無いですよ。
「マイさん、ありがとう。 私達、本当に未熟だった。
もっと考える、甘い考えはしないようにするよ」
「マイちゃん、俺たちのチームに入らない? 入ってくれると心強いんだけどね」
「マイ、その俺は何が正しいのか判らないが、判るようにしたい。
危険にさらして済まなかった」
紅牙のメンバーもそれぞれ別れの挨拶をする。 表情はやや硬い。
彼らは、これから故郷の村に戻って、冬の間は村の仕事をするとのことだったはずだ。
「紅牙のみんな、今回は色々あったけど、全員無事で依頼を完了できたので良かったです。
冒険者としての経験が積めたなら、次は上手くやって下さい」
紅牙のメンバーはこれからどうなるのだろう?
私に判るわけが無い、ただ、私はこの町に今住んでいる、会うこともあるだろう。
その時、笑って会えれば良いな。
宿屋タナヤに戻ってくる。
2階の窓が開いている。 宿泊客が居るのかな?
勝手口から顔を出す。
「あ、マイ、お帰り!」
フミが私に気が付いて挨拶をしてくる。 嬉しい。
声が出ない。
「お、マイかお帰り。 もうすぐ夕食だからゆっくり部屋で休んでな」
「マイちゃん、おかえりよ、怪我は無いようだねよかったよ」
鼻の奥がツーンとするのを我慢して、目一杯やせ我慢して声を出す。
「ただいま」
帰ってきた、そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます