第45話 日常「帰路」
ムスッとした顔の私が居る。
「ケントさん。 この量は予定とかなり違いますね」
汗を拭いながら、愛想笑いをしているケントさん。
その前には、私が帰路で運ぶ予程の荷物が積まれている。
その量は、大樽2つ半はある。
ギルドには大樽3つ分の収納が出来ると申告しているが、通常は限界まで収納しない。
行きの時は大樽1つ分だった、帰路は大樽1つ半程度、と、事前に約束していた。
なお、行きの大樽2つのうち1つは馬の為の水と食料だ。
帰りは、村に寄るので、馬の水と食料は最低限になるので、その分余裕はある。
「えっとですね、追加報酬が出たので、つい。あと……」
ケントさんは、ちらっと紅牙のメンバーを見る。
ああ、ケントさんの荷物に紛れ込ませて一緒に運ばせようと思っているのか。
紅牙のメンバーは全員顔を逸らしている。
「減らして下さい。少なくても軽い物は馬で運ぶように」
ここで簡単に譲歩すると、今後、付け上がる可能性が高い。
「最低、大樽半分の量は減らすこと、また、報酬は倍額で」
わざと苛立つように言葉を吐く。
「うっ、はい、そうですね。 判りました」
「倍額は、取り過ぎなんじゃないか?」
ケントさんが了解している所に、マイトが割り込んできた。
マイトが疑問をというか責めるような言葉を掛けてくる。
こいつ、判っていないな。
「ケントさんの荷物以外も運ぶ必要が出てきたようなので。
その分はそのケントさん以外から報酬を頂きたい所ですけど、ケントさんが荷物をまとめているので、まとめて請求しているんですよ。
それとも、紅牙さんの荷物をそれぞれに、運ぶ料金を請求した方が良いですか?」
「そ、それはその、収納出来るのだから、一緒に運んだって良いだろ?」
お人好しは、まだ許せる。 しかし、甘えた考えを押しつけられるのはダメだ。
「それは今後、私に危険が迫ったとき、マイトさんが戦えるのだから、ついでにタダで戦ってくれると、言っているのと理解して良いですか?
それとも時空魔術師を馬鹿にしています?」
私は荷物を収納しないで、馬に背嚢を取付始めた。
これは、契約を守らないのであれば、ここで依頼を中断するし、依頼以外の事を要求したとして、ギルドに異議を伝えるという意思表示も含めている。
「す、すまない。 馬鹿にしているつもりは全くない。 その、戦わないのだからその」
言いよどんでいる。
これは偏見が根付いてるな。
「役割や立場が違えば、上下関係があると?
それとも、チーム以外は見下しているのですか?」
かなり意地悪い言い方だけど、支配階級と呼ばれている王族や貴族だって、元は農民だったりする。
役割が違うだけで、おんなじ人間だ。
この国では王族や貴族でも、選ばれた血族だとか言うと軽蔑の対象になる。
ハルが仲裁に入ってくる。 まぁ、そうだよね。
「その辺で勘弁して、騙すようなことして本当にごめん。
ケントさん私達の報酬は輸送分は減額して、そのぶんマイさんへ回して。
良いわね、みんな」
「も、もちろん」
「りょーかい。 ってか、マイちゃん、俺、最初から反対してたよ~」
カイが調子の良いこと言っているが、多分嘘だしそう伝わるように言っている。
私がマイトに対して不快感を持っているのを自分へと逸らそうとしているのか?
こういうのって、実戦ではヘイト管理とか言うんだっけ?
相手の注目を意図的に誘導する事で、有利に状況を進めると。
「そういう訳ですので、事前に相談しなかったことを謝罪します。
荷物はできる限り馬で運ぶので、ご勘弁願います」
ケントさんが、まとめる。
大きく、ため息をついて、腰に手を当てる。
「判りました。 でも、次は無いですよ」
マイトはどうも納得していないようだ。 善意を無自覚で強要してくるから厄介だ。
カイとハルは、判っていてやっている、まったく。
帰路の初めで、とんだトラブルだなぁ。
■■■■■
帰路は、最初の問題以外は、順調に進んだ。
行きの時より時間的な余裕がある上に、馬での移動なので、常足(なみあし)で馬を歩かせても十分に早い。
そのため、基本的に村での宿泊で野宿も無い。
宿でベッドに座り、自分の収納空間の中を確認する。
元々収納している砦の倉庫にあったものと、今回の荷物を入れてもまだ余裕がある。
一体自分の収納量はどの程度まで増えたのだろう?
今のところ、収納した事による制限は出ていないが、収納量が増えることでの制限が出てきてもおかしくない。
魔法学校や軍の輸送部隊の他の時空魔術師の話だと、倉庫1つ分あると何かしらの制限が現れる傾向にある。
倉庫10個分の収納量があった時空魔術師は収納すると、指一つ動かすことも出来なくなった。
その面倒というか事実上の介護をしたのが私なんだけど。同性だったのが唯一の救いだったか。
で、今の私は倉庫1つ分は確実にある。 慎重にならないといけない。
思考の沼に沈んでいたが、ハルに声を掛けられて意識が浮上する。
「マイ、そんなに怒っていたの? マイトには何度も言ったけどああいう性格だから、その」
相当、渋い顔をしていたのだろう。
ハルは、かなり申し訳ない顔をしている。
なお、宿は3人部屋2つ借りて、男女に分かれている。
「いえ、考え事をしていただけです。
私が言うのは違うと思いますが、マイトは現実的な考え方も出来ないと、周りを巻き込んで自滅しますよ」
マイトの様な性格は、上手く物事が回っているときは良い方向へ進む原動力になる。
でも、そうではないとき、それは状況を悪化させるだけだ。
ハルも判っているのだろう、顔を伏せる。
「それはそうなんだけどね、でも、マイトが現実を見ちゃったら、それは違うような気がするの」
「なら、ハルがそれをやるしかないですね、今まで通りに。 でも、そのことに気が付いていないのは問題ですよ」
「うん。それも判ってる」
「なら、私が言うことは無いです」
私が偉そうに言える立場だろうか? そんなに立派な人間じゃ無いのにな。
そんなことを考えながら、ベッドに横になる。
明日の夕方には、コウの町に戻れる。
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