第44話 日常「東の町2」

 次の日。

 東の町での休息日となった、紅牙のチーム3人は、それぞれ町に繰り出していった。



 昨日の夜の食事の時に、この依頼が終わったら一度 村に戻るそうで、その土産を買い込むそうだ。

 で、私に輸送の依頼というか格安で時空収納をしてほしい、との話が出たが、今回は帰りの方が荷物が多い。

 なので、断った。


 ちゃんとした価格を提示していれば、かさばらなくて小さい物なら運んでも良かったんだけどねぇ。


 ハルが怒っていたが、その夜に私だけこっそり荷物を……と言ってきたので、ジト目で断った。 まったく。


 彼らは、東の町まで行くことは多いはずで、今回のように急ぐ依頼でなければ、荷馬車の護衛で荷物を積んでもらえば良いのだし。

 そんなに、輸送にかけるお金をケチりたいのか。

 ハァ。



 東の町は、周辺の町から領都への中継の町となるだけあり、人も荷馬車も多い。


 館の人から紹介された肉屋に行く。

 食料品を扱う店が多い通りの中に、目的のお店があった。

 聞いていた通り町の人向けのお店で、良い感じだ。


「こんにちは、イノシシの燻製肉はありますか?」


「あいよ、って見ない顔だね? 兵士さん?」


「そんなところです。 で、あります?」


「日持ちがするのなら、この辺だね。

 今年のイノシシは良い肉だよ」


「では、うーん、この辺を5本ください」


「あいよ、良いとこ選ぶねぇ」


「田舎の出だからね、野生のイノシシは見慣れてます」


「口調が丁寧なんでね、はい、包んだよ」


「ありがとうございます、って、軍に長く居たら口調は直されるので」


 実際、軍では方言は禁止だ、これは命令や報告が方言で正確に伝わらなくなることがあるから。

 あと、やけに丁重な言葉遣いは、担当として教えてくれた教育担当の輸送部隊の兵士が貴族の7男だったせいだ。


「そういわれると、知り合いの兵士もそうだったかも、でも、そうじゃないのもの居たかも?」


「それは、領軍の兵士では、領軍の中なら方言でも通じますし」


「そうかもな、あ、これはサービスだ、早めに食ってくれ」


「ありがと。 また来たらよろしく」


「ああ、こっちこそまた来てくれよな」


 よし、お土産用と自分の備蓄用も確保できた。

 冷蔵しておけば、それなりに持つだろう。


 オリウさんから頼まれていた物も、購入した。

 香辛料が多いな。 あと、金物か、フライパンとか鍋とか。

 私に頼んだのは本当についでみたい、少し割高だけど旅商人から買えるものばかりだ。



 他に、雑貨屋で、この前から探していたものが見つかった。

 鉄串だ。

 屋外食や露店で使うような50センチ位の長さの鉄串で先端もほどよく尖っている。

 手元側がL字になっているのも良い。

 非力な私の武器として刺突武器を用意したかったが、専用の武器は高くて手を出し難かった。

 鉄串なら、一束10本買っても安上がりで使い捨てての使い方も出来る。

 5束購入した。



 町の中央部、広い公園になっているのベンチで、露店で買ったパンに豆や細切れ肉を煮込んだソースをはさんだ物を食べる。

 ピリ辛だ。 癖になりそうな味で美味しい。


 天気は、冬にしては珍しく晴れている。

 日差しの中、ごく短い範囲で光属性の探索魔法を行使する。

 この辺は癖だ。状況に合わせた探索魔法を使ってしまう。

 軍では役割分担をしているが、最後に身を守るのは自分自身だ。


『周りの統制がとれなくなったときに、どう行動するか、これは常に考えて行動しろ』


 これも、一緒に居た兵士の言葉だ。

 特に補給部隊は戦闘が厳しくなると真っ先に守りが薄くなる。

 それに敵側が頭が良いと真っ先に攻撃対象になる。


 今の自分は、自分で身を守るしか無い。


 !


 真後ろに反応が出る。 ザワッ、意識が切り替わる。

 身を翻して腰のショートソードに手をかける。

 マントの下の手は遠隔取り出しの攻撃準備に入る。


 ハルがいた。 両手を肩にまで挙げた状態で固まっている。

 どうやら脅かそうとしたようだ。 ジト目で見る。


「……」


「本当に兵士だった……」


「説明が無ければ、切りますよ」


「え、え、ただ偶然 見かけたんで驚かせようとしただけだよ。 ごめんごめん」


 予想以上に私が怒っている様子に慌てている。


「そういうことをする仲では無いと思いますが」


 どこまで本当だろうか?

 単純にいたずら心での事か、私の兵士として魔術師としての力量を測ろうとしているのか。


 この数日で親しくはなったが、時折 値踏みするような言動をするハルにはどうしても信頼しきれない。


「本当にごめん、でもすぐに反応するって、凄い! 本物の兵士なんだって思ったよ」


「いえ、前線の兵士なら腕一本はへし折られていた可能性が高いですよ。

 私が純粋な戦闘職じゃなくて良かったですね」


 この辺は、人それぞれだ、任務中だとこんなことすると殺されても文句は言えない。

 任務外でも、同じ反応をしてしまう人はいる。 でも、それに対応出来るのが兵士だ。

 実際、ほとんどの兵士は、任務外では普通の人なんだけど。


「うわ、予想外にやばかった。

 なんか奢るから許して」


 ハルが謝り倒してくる。

 別に怒っていないのと、偶然気がついた、というのも格好が悪いので黙っていることにする。

 本当のところ、本職の兵士からみたらビックリして飛び上がったと、笑われるような反応だったし。


「そうですね、猪肉の串1本で。

 兵士に驚かすというのは、不意打ちをかけるのと同じなので辞めて下さい」


「うん、そうする」



 ハルの言葉を聞きながら、探索魔法を掛ける、どうも気になる。

 人が多くて分かり難いが、物陰にいる人を探してチラ見すると、カイが見ているのに気が付いた。

 向こうも、こちらが気が付いたのに気が付いたのだろう、ヘラヘラした顔をして近づいてくる。



「やー、お二人さん、何やっているの? 今暇? お茶しない?」


「え、やだ」


 ハルが即断る。

 まぁ、こういうやり取りをいつもやっているのだろう。


「私も、まだ見て回りたいので遠慮します」


「そっかー残念、両手に花だったのにな」


 カイは全く残念がってない、で、手をヒラヒラしながら、離れていき別の女性に声を掛けて振られてる。



「カイのこと嫌わないですね、心配性なだけだから」


「そうですか」


 ハルは、申し訳なさそうにしているが、カイがハルを見守っているのには気が付いたのだろう。

 治安は比較的良いとはいえ、女性が一人で動き回るのには不用心だ。


 私?

 兵士の格好をして、男か女か判らないヤツに手を出すのは居ないよ。






「まぁ、買い物は済んでいるので、猪肉の串を食べたら宿に戻りましょう」


「うん、そうしようか」

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