第43話 日常「東の町」
旅は順調で、3日目の午前中で東の町に到着することができた。
宿を確保し、明日1日は休息日とするとのこと。
私は、商人のケントさんと一緒に、商品の受け渡しを行うために移動した。
受け渡しの場所は、こじんまりとした館だ。
ケントさんより、下級貴族であることを事前に知らされた。
「すいません、できるだけ情報は出したくなかったので」
「それは構いませんが、誰をもてなすためかは判らないんですね」
「はい、これは私も知らされていません。
領都から来ている、位ですね」
何が起きているのか、私が知る必要は無いだろう。
「私は当然ですが貴族への対応は知りません。
なので、現物を出した後はどこかで休んでいます」
「それで構いません。対応は私だけでしょうね。
荷物を出すのも、館の料理人の前でしょうから」
館の勝手口? 正面では無い入り口に回って入る。
事前に連絡が来ていたのか、すぐに貯蔵室に案内される。
「ここで、料理を任されている者だ。
依頼された食材を確認させてくれ」
「ここで構いませんね。 出します」
収納空間から物資を出していく。
収納空間内で、荷物は冷蔵している。
状態自体は問題ないはずだ。
「ん、冷たい。 ということは冷蔵もしてくれていたのか。
状態も問題ない、というより良い状態だな。
使う日まで数日あるから助かる」
料理長でいいのかな。 絶賛してくれた。
うん、合格をいただきました。
「マイさん、冷蔵してくれていたんですか?
いや、ありがたいですが」
「魔術師ならこの程度はできますよ?
冷凍とかはさすがに食材の知識がないと無理ですけど」
ケントさんは驚いていたけど、うん、魔術師の魔法に関する技術を軽く見ていたか?
技術に関してはそれなりに凄いよ。
その技術が使えるかは別だけど。
「で、持って帰る荷物はどうするんですか?」
「あ、それは明日のうちに買い付けます。
先触れは出してあるので、問題ないはずです。
マイさんも明日はゆっくり休んでください」
東の町の情報は知らない、今のうちに聞いておこうか。
「東の町は初めてですが、何か見るような者ありますか?」
「この町は、この辺一帯の町から領都へ向かう街道が集まるので、色々な者があふれています。
珍しい物も多いですね」
うん、雑多な町という感じかな?
町中を歩くだけで疲れそう。
用が済んだら宿でのんびりしているのも良いかも。
今回は、フミからお土産をねだられていない。
奥さんから怒られていた。
その代わり、買い物を頼まれている。
購入する店もお金も事前に渡されているので、問題ない。
働く人が休んでいる部屋で、のんびりしていると、珍しいのか声をかけられる。
メイドさんだけでなく庭師? など暇な人が集まってくる。
「ねぇ兵士さん? 何で居るんですか」
「ね、話を聞かせて?」
それに当たり障りが無いように会話し、この町の情報とかを聞いたりする。
「商人さんと一緒に来ていますよ、で今は休暇中です」
「へぇ、休暇中にもお仕事ですか、大変ですね」
「おすすめな料理かお店ってありますか?」
「うーん、旅行できた人は、柵の中で育てたイノシシの肉料理が人気かな。
ここから北の方だと、イノシシを捕まえて育てているんだって」
へー、イノシシを育てるのか。
私の感覚だと、畑を荒らす厄介者で、狩人が飼ってくると、食べれる肉という感じかな。
秋のイノシシは美味しいんだ。
うん、イノシシ肉の燻製肉なんて良いかもね。
館で働いている人に、安くてお勧めのお店を紹介してもらった。
そんなことをしていたら、ケントさんが戻ってきた。
どうやら、話は上手くいったようで、ニコニコしている。
「マイさん、お待たせしました。
宿に戻りましまう」
「はい、良い結果が聞けそうで良かったです」
屋敷を後にして、確保した宿に向かう。
「いや、本当にマイさんにお願いして良かった。
料理長からの絶賛と品質の良さが依頼者に伝わって、追加報酬が出ていますよ」
「それは良かったですが、追加報酬は話して良いのですか?」
「はい、というより、報酬はギルド経由で出るので、誤魔化したりしたら信用問題になって、今後の仕事に影響が出ます」
「よくできている物ですね。
明日の仕入れは私が同行する必要はなくて良いんですか?」
「ええ、特に問題が無い限り、取引をしている商店に荷物が集まるようになっています」
「なら良いです」
「……マイさん、できたら今後も継続して荷物の輸送を受けていただけないでしょうか?
専属で受けていただけると、それ相応の報酬を約束しますよ」
うん、そういう申し出が出る可能性は考えてた。
でも、私は旅商人の倉庫になるつもりは無い。
「申し訳ないですが、休暇中ですので。
のんびりしていたいのです」
のんびりしていたい、というのは嘘じゃ無い。
だけど、気を抜くと両親や生まれ故郷を失った喪失感が湧き出てくる。
何かに集中していたい。
それには、私はできるだけ自由になっていたい。
「そうですか、それは残念ですが、時々はお願いします」
「それは、そのときに」
ここで下手に約束すると、あとあと面倒そうだ。
ケントさんの目が商人の目になっているぞ。
私がジト目で見ていることに気がついたケントさんは、頭をかいて弁明した。
「無理を言って引き受けていただいたのですから、強制するようなことはしませんよ」
その後は、町の案内をしてもらいながら宿に戻った。
今の町の生活はいつまで続くのだろう?
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