第41話 日常「チーム紅牙」

 輸送初日の朝になった、前日のうちに準備を済ませていた内容を確認して、宿を出る。

 この装備で大丈夫だろう。


「マイ、なんか物々しいね」


「フミ、こういうのは形からといいます。

 それらしい格好をした方が仕事が進みます」


「まぁ、そうだよね、気を付けてね。 行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 フミに見送られて、東の門の近くの待ち合わせ場所へ行く。

 すでに護衛の3名と旅商人のケントさんがいる。



「おはようございます。 遅れましたか?」


「いえ、朝の鐘の音が鳴ったばかりなので、丁度です」


「こいつが、荷運びかよ。 楽できて儲けてご苦労なことで」


「なぁ、おれらの荷物をいれてくれ。 それぐらい良いだろ」



 ケントさんに挨拶すると、案の定、護衛の方から差別的な言葉が投げかけられる。

 男性2名だ、装備を見るに最初に話しかけたのは索敵か弓士かな? 次が剣士か。


 時空魔術師は基本的に戦わない、荷物を守るのが仕事だ。

 なので、護衛をする側としては余計なのが増えるのでいい気がしない。

 戦わない、危険を犯さないのに依頼料は変わらない。

 気にくわないと思われるのは普通だ。


 むろん、軍で補給の中心となる輸送部隊の重要性は、前線で戦う兵士ほど身に染みて判っているので、馬鹿にされることはない。

 時空魔術師が1人欠けるだけで、倉庫1つ分相当の物資が失われるか運ぶ手段を失うのだから。

 むしろ、出来るだけ安全になるように気を遣ってくれる。

 私も、多くの兵士達に生き延びるための知識や技術を教えて貰った。


 だけど、冒険者となると、補給は自分で何とかするものなので、時空魔術師というのは荷物を運ぶだけの楽な作業で荷馬車に乗っているだけでお金が貰える怠け者と捉える者も多い。



 私は、寒さよけのマントを翻して、下に来ている服を見せる。

 この服は、兵士の装備に沿っているもので、部隊を示す部隊票を着けていない以外は兵士と変わらない出で立ちだ。


 護衛3名の息が一瞬止まるのが判る。

 商人の賢人さんも目を開いて驚いている。



「輸送の重要性が判らない素人ぞろいか」


 ショートソードに手を乗せる。

 戦えるぞ、との意思表示だ。 実際は別として。

 で、睨む。



 緊張が走る、いや走らなかった。


「こっのボケがぁぁぁぁ!」


 魔術師? 魔法使い? の女性が、剣士の足を払い転ばすと、持っている杖で思いっきり殴った。

 その勢いのまま、索敵担当? の尻に向かって杖を振るが、これは躱される。


「あんたら、依頼の内容を理解してないのか! スタカン!

 時空魔術師さんに何かあったら依頼失敗や、自分自身を守るのが仕事の人に何言ってるんだボケ。

 ついでに、自分の荷物を押しつけて負担を増やしてどうするんだアホが」


「す、すまん、すまないって」


 頭をさすりながら剣士が起き上がる。 ダメージは少ないようだ。


「怒るなよ、ちょっとした挨拶だって」


 もう一人は全く反省の色が無い。ヘラヘラ笑っている。


「謝る相手が違うだろうがぁ!」


 冒険者3人の喧嘩は続く。 周囲の視線が痛い。



「ま、とにかく落ち着いて。 自己紹介しましょう」


 ケントさんが、なだめる。

 こちらも白けてしまった。


「まず、今回の依頼人の旅商人のケントです。 急ぎの輸送なので、よろしくお願いします」


「時空魔術師のマイ。 5年の兵暦がある。 時空魔術師だ」


「お、おう。その年で現役経験者かよ、侮って悪かった。

 剣士で一応リーダーのマイトだ。 さっきは済まなかった」


「斥候をやってる、カイだ。 ちょっとふざけただけだよ、な、かんべんな」


「全く反省してないだろ、お前らったく。 風と火を得意としている魔法使いのハル。

 こいつらで何かあったら、言って、蹴り飛ばすから」


「俺たちは、紅牙べにきばという名前でチームを組んでいる。 改めてよろしく」

「よろしく~」

「よろしくね」


「……よろしく」


 マイトは、私が兵士としての経験があると判ったのだろうか、対等に対応しおうとしている。

 戦士に多い戦闘以外の思慮が浅いタイプかな。

 180センチ位の長身にしっかりとした体付き、片手剣に小型盾と鉄の軽装甲。

 いかにも冒険者らしい格好だ。


 カイは、読めないな。 ヘラヘラしているけど目つきは笑っていない。

 170センチ程度、細身でショートソードと短弓を背負っている。


 魔法使いだったのか、ハルは苦労人という感じだ。

 このチームの頭脳というところか、色々考えていそうだ。

 たぶん一番注意しないといけない相手だろう。

 160センチ位、私より少し高い身長で、体型は魔法使いらしいローブに隠れてよく判らない。

 杖を持っているが、魔法媒体のつもりなんだろうか?



「ケントさん、収納する荷物を」


「こちらになります。 あと、今更で申し訳ないんですが馬に乗れるんですね」


「はい、馬上戦闘でもなければ問題ないです」


 ケントさんと話をしながら、輸送する荷物をすいすい収納していく。

 時空魔術師でも収納するときに掛かる時間は人それぞれだ、私はほぼ1~2秒掛からない。

 収納する手際を見て、3人は驚いている。 魔術師というのはこれ位は出来るのだよ。ふん。


 騎乗だが、少人数での輸送では馬に乗る必要もあった、なので馬にも乗れる。

 上手いとは言えないけど。 主に体格の問題で。



「事前に話していたとおり、可能な限り急いで移動します。

 そのため、途中での休憩は馬を休ませる時と野営の時だけになります。

 村には泊まれる可能性は少ないと思ってください」


「ま、しかたないでしょ」


 カイが手慣れた様子で馬の準備を行う。

 他の2人も馬に自分の荷物を乗せている。


 私も背嚢をくくりつける。

 中身は少なく軽いので馬への負担は少ない。

 これは私が時空魔法を使うというのをぱっと見 判らなくするための偽装だ。


「あれ、マイさん、荷物を積むんですか?」


「何も持たずに移動なんて、自分が時空魔法をつかうと宣伝するようなものです。

 相手に与える情報は少ないほどいい。

 だから、貴方たちの荷物も収納しない」


「そう言われれば、確かに」



「もしかして、怒っています?」


「これくらいで怒っていたらやってられません」






 実は、ちょっと怒っています。

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