第40話 日常「輸送依頼」
狼たちの討伐に失敗の話を聞いた翌日。
宿泊していた商人達は、討伐から戻ってきた人の中から護衛を何人か雇って次の町へ旅立っていった。
狼の討伐は規模を縮小して狩りの合間に行うそうだ。
ギルドで確認すると、東の森はしばらくの間、狩人か5人以上のグループでないと入ってはいけないということになった。
当然、私は入れない。
困ることは少ない、他の森もあるし、町中の依頼も少しずつ戻ってきている。
流行病の薬になる薬草も北の森なら普通に自生しているそうだ。
今回の流行病は、どうも酷いらしく、ギルド主動での採取依頼が出された。
といっても、複数人で薬草の採取を行い、その護衛も数人付けるという安全な物だ。
遠隔収納が使えないのは仕方が無いが、参加しても良いかもね。
さっそく、ギルドの職員に確認してみることにした。
「あの、薬草採取の依頼の詳細を知りたいのですが」
「はい、合同採集ですね、マイさんでしたら時空魔術での輸送込みで受注できると思います」
「うーん、ソロじゃだめなんですよね?」
「すいません、今は町の周囲の森は全て、護衛がいる状態でないと戦えない人は入れなくなっています」
「そうかー、今回は遠慮するかな?」
「でしたら、輸送依頼は受けませんか?」
へっ?
いきなり隣から声が掛かる。
若い、といっても私より10歳は上の成人している青年が声を掛けてきた。
物腰は柔らかそうだけど、商人の笑顔は信用できないからなぁ。
「盗み聞きしたようで申し訳ありませんが、時空魔術を使えるとのことで、それなりの使い手とお見受けしました。
この領内で旅商人をしているケントともうします」
聞かれていたか、そして魔法についてそれなりに理解している。
魔法と魔術では、その精度に大きな違いがある。
魔法使いは、魔力を使うことが出来る、ただ安定して使える人は少ない。
魔術師は、魔力を使う技術を習得している、安定した魔力の行使が可能だ。
魔力の大きさや強さも、魔術師は魔法学校を卒業できるだけの力を持っている。
ただし、魔力が魔術師より強い魔法使いも結構多い、大半は魔法学校を卒業できず退学になった人だ。
なので、細かい制御が必要ない部分では優劣は逆転することも普通にある。
時空魔法はその性質上、安定して使えることが重要になる。
収納した物が取り出せないとか、品質が変わるなどの制限があると困るから。
で、ケントと言った青年は、私が薬草の品質を損なわずに輸送できる魔術師であると気が付いた、ということかな?
少しとぼけよう。
「突然で驚いています、町で片手間に輸送しているだけなので、商人さんの荷物を運ぶのは多分だ目じゃないでしょうか?」
「魔術師さんですよね、魔法学校を卒業できるほどでしたら問題ないと思っております」
うーん、個人的には受けたくない。というか、この町をあまり離れたくない。
「取り敢えず、依頼内容だけでも見てみてはいかがでしょう?」
ギルド職員さんが、間に入る。 ギルド経由でない依頼契約を目の前で行われるのは当然困るよね。
「失礼しました、これがギルドに依頼する内容になります。
東の町までの往復で、この町から牛乳と生チーズ、生肉などを、東の町からは玉子と果実や幾つか傷みやすい食材を運びたいのです。
急いで移動したいので、荷馬車は出来れば使いたく有りません。
私と、貴女と護衛3名の5人になります」
提示されている報酬額も、通常の3倍になっている。
時空魔法が使えて、馬のエサや水も収納込みで、大樽2つ分。
幾つか、疑問に思う事がある。
「東の町でも手に入るものばかりでは?」
「いえ、乳牛や食肉用の牛は、この町から南側が主な生産地です、東の町では新鮮な物は入手が難しいですね。
この辺りの方ではない?」
うわ、しまった。この辺の情報についてもっと調べとくんだった。
余計な情報を渡してしまった。
「ええまぁ、しかし、何でまた急いで運ぶんですか?
冷却系の魔法が使える人に頼んだ方が安上がりだと思いますが」
魔術師なら、温度の上下を操作する技術を持っている。
私も、冷たくする暖かくするは細かく制御できる。
凍らせたり沸騰させたりが出来ないだけで。 うん、たいしたことではない。
で、魔法使いでも、適当に温めたり冷やしたりすることが出来る人は、それなりに居る。
箱の中に藁などを入れて、冷やした物を運べば、普通に荷馬車で運んでも傷まないだろう。
「そうなんですが、今回は領都からの人を招くので、日程の都合上どうしても急ぐ必要があるんです。
むろんですが、誰が何のためは私も知りませんし、話せません」
この人、私に受けて貰いたいという気持ちが強い。
この町の時空魔術師が私だけというのも知っているのかもしれない。
東の町までは、片道 徒歩だと村4つに泊まり、5日間と聞いている。
馬なら、もっと早い。
往復で移動は最短で6日程度。 実際は天候もあるから10~15日を見ないといけないか。
「返事は急ぎますか?」
「はい、少なくても今日中には頂きたいです」
うわぁ、急ぎだから仕方が無いとはいえ余裕がない。
「家の者に確認したいです。 なので……」
「では、家まで同行させて下さい」
「うっ、あの何でそこまで私に依頼したいのですか?」
「それは、この町で唯一の時空魔術師だからですね。
この町にいる魔術師は3名居ることは知っています、どなたも時空魔法ではありませんでしたから。
そして新しい時空魔術師が移り住んだことも聞き及んでいます。
また、時空魔法を使える方で、今回の希望を満たせる人が居ませんでした」
「私が居なかったらどうしてたんですか?」
うん、元々は時空魔術師が居ない前提での計画だったはずだ。
「その時は、冷却系の魔法を使いつつ、小型の荷馬車で馬を交換しながら移動する予定でした」
かなり無茶な計画だ。
おそらく商人への依頼もかなり無茶ぶりだったのだろう。
この若い青年は、賭けにでたのかな。
その後、彼は本当に宿まで着いてきて、宿の旦那さん奥さんに熱心に説明した。
結局、この若い商人のケントに押し切られる形で、輸送依頼を受けることになった。
はぁ~。
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地理関係を再定義しました。
村と村との間は約20km程度。 コウの町から東の町まで約100+αkmです。
(町や村の大きさは無視して、また平坦と仮定しています)
人の移動は、荷物を含めるのと、徒歩で土の道を順調に歩いて1日6時間移動30km未満としました。
毎日歩くとした場合20kmで宿泊する感じです。 その間隔で村や野営地が用意されています。
荷馬車の速度も通常は徒歩と同じ距離。 無理させた時は1日40km程度、次の日は馬は使えません。
馬に乗って移動は(速歩で毎日移動できるという前提で)単純に倍の距離を移動できるとしています。
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