第39話 日常「休息日」
東の森で薬草の採取依頼を完了させた。
その後は、しばらくノンビリすることにした。
とはいえ、宿屋の店員が正職ということになっているので、朝の水汲みや宿の掃除、買い出しの手伝いなどをこなしている。
給金も仕事した分だけ出ているが、住み込み食事付きなので、基本的に赤字になることはない。
一応、毎日ギルドには顔を出している。
正式に狼の探索と駆除が依頼として出ている。 まぁ、受ける気無いけど。
コウの町をノンビリと歩く。
冬を目前にした町は、少し寂しく落ち着いた雰囲気を漂わせている。
東の門の付近に来たときに、遠くからピリピリとした声が聞こえて来る。
「次の町に行きたいんだ、護衛が居ないのはどういうことだ?」
「狼の討伐依頼が出ているで、そっちに冒険者ギルトの人が割かれているんですよ」
「だったら……」
距離を取る。
まぁ、今の服装は町娘と見える服装なので多分絡まれないと思う。
ふむ。
狼の群れはどうやら東の森に居着いてしまったらしい。
そのせいで、狩人や元兵士など、戦える人はその依頼を優先している。
護衛自体は、この辺りなら通常は不要だけど、狼に襲われた場合の対応としての護衛が欲しいのだろう。
次案で、私のような時空魔術師を使って荷物の積載量を減らし、最短時間で移動する。 という手だ。
遠目に見て大型の荷馬車1台なので、私の収納量は十分に余裕がある。
いや、ここは関わらないのが最善だ。
今日はギルドに寄らずに宿に戻ろう。
宿に戻ると、奥さんと客? が話をしている。
私は裏口から入り、旦那さんに帰宅を知らせる。
「戻りました。 って何かありました?」
「あ、マイお帰り。
今日出発の旅商人が護衛を確保できなくてもう少し宿泊することになったんだが、宿泊していた宿が別の宿泊客を入れてしまったんで泊まれなくなった。
で、いまうちのの宿に泊まれないかという話をしている所だ。
あ、東の門で騒いでいた人たちか。 その先触れかな?
奥さんが入ってくる。
「今日は食事無し、2日宿泊で、男性5人の1部屋。延長の可能性ありだけど、いいかい?」
「まぁ、良いんじゃないか?」
「そうかい、じゃ受け入れちまうよ」
奥さんは入口に戻り、客と話をして戻ってくる。
私は、知っている情報を出す。
「急になんなんだろうね、いつもならもっと良い宿に泊まっているのに」
「たぶん、東の森での狼狩りの依頼が出ていたので、念のための護衛を雇いたかったのでしょう。
だけど、雇えなかったので、狼狩りの結果を待つか別の護衛が見つかるまで待機をすると」
「東の森? ってマイ、あんた危ない目に遭ってないだろうな」
この前の依頼が東の森で薬草採取だった、それは最初に話している。
「あ、それは大丈夫です。 狼の話も最初は西の森で、東の森に居着いたというのは、薬草の採取の後の話なので」
全然大丈夫じゃなかったけど、余計なことは言わなくて良い。
後は、事実を言うだけだ。
「なら良いんだけどね」
「というわけで、休みの所申し訳ないが、水汲みを頼みたい」
「はい、あと一応、私が時空魔術師なのは隠して下さい、私を雇いたいと言われると面倒なので」
「おう、普通は店員について話したりはしないよ」
水汲み場へ行く、いつものように時空魔法を使い樽に水を汲む。
近所の人と雑談をして、帰る。
身体を洗うための桶に水を貯める。
あと、近くの水瓶にも水を貯めておく。
次に部屋で、足や汚れ物を洗うための水を水瓶に貯める。
今日の私の仕事はこの程度だろう。
1階に降りてくると、宿泊客がドカドカ入ってくる。
不機嫌なのが直ぐに判るほどだ。
と、宿泊客の誰かが商人へ話しかける。
「おい店主! その女は荷運び魔法が使えるな、容量はどれぐらいだ、貸せ!」
うわー、水汲み場の様子を見られていたのか、それとも、裏庭で水樽を出している所か?
荷運び魔法というのは、時空魔術師に対しては侮蔑的な言い方になる。
それが判っていて言っているんだろうなぁ。
「無理ですね。 依頼ならギルドへどうぞ。 受けるかどうかは知りませんがね」
商人はぐぬうとしているが、今度は私にくってかかる。
「おい女! 依頼を出すから受けろ!」
「お断りします。 私の容量は時空魔法としても小さいので」
商人は上手くいかないのが気にくわないのか顔を真っ赤にして、床を踏む。
「使えないな、さっさと部屋に案内しろ!」
奥さんが出てきて、部屋に案内していく。
「すまんな、嫌な思いをさせちまった」
「いえ、水汲みの様子を商人のうちの誰かに見られたんでしょう。
私も迂闊でした」
旦那さんと今後の対応を話す。
「ギルドとしては、依頼が来れば掲載するしかありませんが、依頼を受注できる人が居るかどうか、については話さないと聞いています。 緊急時は別ですが。
ギルドからは、受注可能な依頼を紹介されることはあります」
「ギルドに対してどの程度 影響力があるかが気になるな」
「では、この客がいる間はギルトに近づかないようにします」
「それか良いだろう」
奥さんネットワーク経由で、狼の討伐は逃げられて失敗したとのことを聞いたのは、翌日の夜のことだった。
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