第38話 日常「帰宅」

 ギルドでの報告と納品を済ませて、宿に戻ることにした。


 疲れた。

 狼との遭遇戦なんて非戦闘職の私に振るなと言いたい。


 遠隔系時空魔法の検証は出来た。

 他の使い方もあるだろう、今後の検証が楽しみではある。

 課題も多い、何より、戦闘に使えそうな魔法が無い。

 当面、ソロでの活動を予定している以上、もっと有効な攻撃手段が欲しい。

 あまり頭が回らない中、つらつらと思い返す。



 時間は昼過ぎだ。

 露店で簡単に食事をすませる。

 焼串とお茶、露店の隅でモグモグと食べて串を返す。


 串、串かぁ。。。 ちょっと引っかかる。 うーん?



 食事が終わって、一息つく。

 あんまり変な顔をして、宿のみんなにはその事を気取られたくないな。

 いつも通り、いつも通り。

 自分に言い聞かせる。



「ただいま、戻りました」


「おっ、お帰り。腹減ってないか?」


「戻る途中に昼を食べたので大丈夫です」


「マイ、おかえりよ。 疲れたかい? 部屋で休んでな」


「はい、初めての森は思ったより疲れました」


 ここで、大丈夫と言えたら良いけど、奥さんの目は誤魔化せない。

 なら、不慣れな森でいつもより疲れた、と言うことにしておこう。


 旦那さんと奥さんに帰宅の挨拶をして、裏庭で靴の泥汚れなどを落とす。

 汚れを落としていると、気が抜けたのか、疲れがどっと出てくる。


「はぁ、かなり疲れたなぁ」




 部屋に戻る。 3日ぶり。

 だんだんと、自分の部屋という感触がついてくる。 落ち着く。


 外套を脱ぎ、楽な服装になる。

 で、ベットにダイブ。


 枕に顔を埋めたまま、今回の依頼の件を思い出す。



 まず、薬草の採取依頼。

 これは成功だ。量も十分だし、冬前にもう一度行って欲しいとお願いされたぐらいだ。

 狼の調査のために、冒険者ギルトから人が出たら、その後を追って行くのも良いかもしれない。

 東の森以外の森でも良いかも。 ただ、狼が今回遭遇した群れだけとは限らない。


 行くかどうかは悩む。



 次、遠隔系の時空魔法の検証。

 一応、最初の目的である検証したい事は果たせた。

 予想以上に制約が多い。が、それが判ったことは重要だ。

 そして、何か別の使い方を模索しないといけない。

 特に攻撃に使用できる方法を見つけたい。


 私は基本魔法が弱小だ。 基本魔術としての技術は知識としてあるが、使いこなせないので技術が身についているとは言えない。

 時空魔法のように何度も使うことで多少は成長させられるだろうか?



 そして、狼の調査。

 完全に失敗だ生きているのが不思議な位。


 一体何時から見つかっていたのだろう? 少なくても最初の夜には私が居る所を確認に来ていた。

 この時点で、普通に野宿していたら襲われていた可能性も高い。

 森に入った時点から?

 だとしたら、あの薪を担いだ男性を追っていた可能性がある。

 男性を森の外で狩るつもりが私が来たので辞めた。

 で、一人で森に入った私に目標を変えたのか。


 だめだ、森の入口から狼に狙われていたなんて、最悪は想定していなかった。


『大抵は、想定した最悪より悪いことが起きる物だ、そういうつもりで居ないと対応出来ない』


 ある兵士の言葉を思い出す。

 ああ、その通りだ。対応出来ていない。


 狼との戦いも、思い返すと酷い物だ。

 最初の狼に、子樽をぶつけるのは浅はかだった。 警戒している相手に当たるわけが無い。

 砂をまくとかして、目とか耳とかへの影響を与えた方が良かった。


 森の中に潜んでいた3匹に関しては、もう襲ってきたらどうしようも無かった。


 2匹目も、抵抗される前に遠隔収納出来なかったのは、何でだ?

 あ、気が付かれたからか。 頭を鷲づかみにしたら、抵抗するのは当たり前だ。

 そうだ、生き物の遠隔収納を試したときも、気が付かれないように、そおっと触るようにして収納していたじゃないか。

 焦っていたとしても、あまりに迂闊すぎる。



 そして、あの遭遇した時点での最善手は自分の収納空間に逃げ込むことでは無かったか?

 大して戦えないのに、負けは無いと思い上がったのが大失敗だ。



「うぁぁぁぁぁ~」


 自分の未熟さに、頭を抱えてもだえる。



「なにしてるの? マイ」


 いつ来たのか、部屋の入口で、変な生き物を見るような目で見るフミ。

 言い返す気力も無く、フミにジト目で愚痴をつく。


「自分の未熟さに呆れているんです。出来きればもうしばらく反省させて下さい」


「ふーん、お父さんが言っていたけど、自分の未熟さに気がつければ半人前を卒業だだって」


「いえ、冒険者としても魔術師ギルドの一人としても、日が浅いので未熟なのは理解していますが。

 非正規兵としての知識と技術があれば何とかなると思い上がっていたんだよ。

 でも、全然ダメで、今回、薬草の採取が上手くいったのは、運が良かっただけで、もう凹みます」


「それが未熟者って言うんじゃ?」


「うきゃぁぁ」


 ポフン






 フミの一言が、最後のトドメになって、力なくベットに突っ伏す。

 クスクスと笑いを堪えるフミの声を聞きながら、何となく思った。


 帰ってきたんだなぁ。

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