第36話 日常「収集と検証」

 さて、薬草の採取の2日目。

 目が覚めて、元の空間に戻ると、丁度朝日が昇ってきた。

 朝霧が森を覆っている。


 朝食の携帯食と果実、湧き水。



 収集を始める。

 足場が悪いが、早速、遠隔収納を試す。

 数メートル先の薬草を取り込む。

 この距離なら、必要な魔力は収納と取り出しを行う魔力より少し多い程度だ。


 10メートルになると、消費した魔力量は倍かな体感だけど。

 20メートルになると、一気に瞬間的に消費する魔力量が増えて軽くふらつく。

 魔力量自体の消費は3倍より少し多い位か。


 うん、やはり距離に応じて消費する魔力量は倍以上の比率で増える。

 それより問題なのは、一気に消費されることだ、私だと、負荷が大きい。


 時空転移も試す。

 というより、これは最前線の砦から要塞に戻るまでの間に何度も使っているので、確認程度だ。

 一度の消費魔力量がやっばり、距離が増えるとエグいぐらい持って行かれる。

 何度も使えない。



 あと、遠隔収納での欠点が見つかった。

 子ネズミを収納しようとして失敗した。

 何度か確認して、収納されるのに抵抗する意思があると出来ない、と判った。

 小魚で確認したが、やっぱり暴れている状態では収納出来ない。


 気が付かない、もしくは収納に同意する意思が必要と言うことか。

 遠隔収納で敵を片っ端から取り込んで倒すなんて無双は無理と言うことだ。

 無機物や植物は特に問題は無かった。



 遠隔攻撃。

 遠隔取り出しで、武器を相手にぶつける。

 有効だけど、気配が分かるのか、不意を突いたつもりでも警戒している小動物に躱されてしまった。


 短い槍のような尖ったものなら、私でも攻撃できそうだけど、圧倒的に私の自力が低すぎて小動物にしか効果が無い。

 うーん、相手のスキを作るためのフェイントならいいかな。


 それと、私の遠隔系は今のところ移動しながらは使えない。また、短いがそれなりに時間が掛かる。


 普通の収納と取り出しは、歩いていても使うことが出来る。物にも寄るが、安全を無視すれば大樽でも一瞬だ。

 これは訓練あるのみかな。



 薬草の採取は、幾つかの群生地を回って収集した。

 遠隔収納もあって、昼過ぎには予定量を超えて40束は集まった。


 うん、これなら現状の自分の魔法について再検証できる時間は十分取れる。


 6属性の基本魔術を使う。

 私は時空魔術師で時空魔法に才能があるが、別に他の魔法が使えないという訳では無い。


 光は、小石程度の大きさの弱い光を。

 影は、手のひらの上の空間がすこし暗くなる位。

 火は、親指程度の火の玉が出るが、火力が低いので火だねに火を付けるのが精一杯。

 水は、一度にコップ一杯の水を出すが限界だ。

 風は、そよ風程度。

 土は、手のひらの上に砂が少し出るだけ。


 うん、かなりへっぽこだ。

 魔法を効率がよく使うために技術化した魔術でもこれだ。

 魔術師になれなかった魔法使いでももっと強力な使い手は沢山居る。

 原因は簡単で、魔法学校に居た頃に時空魔法の検注に没頭して鍛錬を怠ったからだね。

 辺境師団に居た頃もたいして使っていなかったし。


 例外魔法は、こればっかりは使える使えないの2択だ。


 私の例外魔法の時空魔法も、実際の所、技術化が殆ど進んでいない。

 イメージが出来ることが重要だけど、なんで私が時空魔法が使えるのか自分でも判らない。

 使えるから使っている、という身も蓋もない状態なのが現状だ。

 これを魔術として技術化する、私の目標はこれになる。

 これが出来ないと、魔導師になる事は出来ない。




 改めて魔法について考える。


 まず、魔力。

 魔力が何なのかは判明していない。

 魔法学校で教えられた定説は、現実の空間の理に干渉する何らかの力で、その力を魔力としている。


 昔は、魔素が空間に満ちていて、その魔素に意思の力である魔力が影響を与えて現象を起こしている、となっていた。

 魔力が強いほど魔素への影響が大きく、結果として大きな魔法が使える、だ。

 その魔素の考えは、魔素が見つかっていないこと、実際に高位の魔法を使う魔術師の魔法が魔素をどの様に影響を与え魔術を作り出しているのか、が観測できず、いまでは仮説の一つになっている。


 池一杯になるほどの水を出したとして、その時、魔素は消費されるのか、それとも魔力が魔素によって消費されて水が出ているのか?


 そういうわけで、現実の理屈では説明できない、なら現実ではない理屈なら説明できるだろう。

 というのが、今の魔力の定説だ。 それも証明する方法が無いのでだから何だという状態だけど。



 魔力も、力があるのは判っている。

 けどそれが何を元にしているのか、どうやって影響を与えて魔法を発動させているのか、さっぱりだ。



 例えば、石を持って手を放す。

 地面に落ちる。

 色々な説があるが、地面に引き寄せられている、と考えられている。ただ、なんで引き寄せられるのかは全く判っていない。

 ただそういう物として扱うしか無いし、法則性も判っているので、地面に引き寄せられる力を体系化して技術として使う方法が幾つも作られている。



 魔力や魔法も同じで、根本的な所については謎のままだ。

 今のところは、意思の力で現実の空間に影響を与えることが出来る、目に見えない何か。で目に見えない身体の一部という考え方をしている。

 そして、基本魔法と基本魔術はそれを体系化して技術として使える様にした物である。

 基本魔法を技術化できたのは、それが自然現象の模倣であるから、という説明だった。



 判らない、けとそれが良い。



 気が付いたら、50束の薬草の採取が終わっていた。

 うん、乱獲はしていないよね。



 拠点に戻る。

 といっても、焚き火をした火の後があるだけだけど。

 さて、日も暗くなってきたし、夕食を取ったら寝よう。

 収納空間の中で、身体を拭くのも良いかな?



 地面を確認する、

 見覚えのある、足跡があった。






 狼か山犬がいる。

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