第34話 日常「ありきたりな収集1」

 この町コウには、町長の出張機関である役場、そして教会、ギルドが町の中心機能を担っている。

 ギルドは大きな町や都市では業種毎に有るが、この町の規模だと1つの建物の中にまとまっている。

 商人ギルドは流石に別の窓口を持っているけど、それ以外の窓口は共通だ。


 ギルドに登録している人のほとんどは副業としての活動で、専業としている人はごく少数だ。

 それは、国として国民の管理を徹底しているのと、そもそも人口が少ないせいもある。


 例えば、冒険者ギルトに荷運びの依頼が来て人夫が集まらないときは、魔術師ギルドの時空魔法が使える人も受注できる。

 窓口の人が、今活動しているギルドの人員から依頼をどのギルドに割り振るのか決めているので、複数のギルドで受注できる依頼というのも多い。

 実際コウの町のギルドでは職種毎の区別はあまりしていないようで、出来る人に割り振る感じだそう。



 私は、ギルドに着くと依頼が張り出されている掲示板を眺める。

 冬になってきて農作業をしている人が暇になったのか、町中で済む雑用な依頼は無くなっている。


 薬草の収集に関する依頼が無い? 常設している依頼なのにどういうことだろう。

 職員の人に相談することにした。


「薬草の収集依頼が無いけどどうして?」


 昨日、依頼報告したときに聞いた話では薬草が不足する可能性があると言っていた。

 依頼が無いのはおかしい。


「実は、西の森に狼の目撃したという話が来てまして、

 本当に狼が居るのかと規模を確認している所です。

 なので、最低限、狼相手に自衛できる方でないと、危険で依頼を出せないんです。

 そのため森に入る依頼に関しては、一時的に取りやめになっています」


 うーん、狼かぁ。

 正直、不意打ちを受けなければ、多分何とかなる。 逃げることも可能だろう。

 だけど、戦うとなると1頭でも私一人では勝てる可能性は低い。


「マイさんは、時空魔術師としての経験がおありですね、

 西以外の森の浅い所でしたら、依頼を出せますよ。

 もちろん、狼が出たら逃げてください、そして報告ですね。 報告の情報料も出ます」


 狼の情報を収集して欲しいという意味もあるのか。

 時空魔術の検証をしたい、そしてそれは誰にも見られたくない。

 森の深い所まで行くことを覚悟していたけど、人が少ないのなら浅い森でも大丈夫かな?


「では、東の森で薬草の採取をします」


 薬草の備蓄不足はけっこう深刻なようで、このままだと他の町からの購入量を増やす検討しないといけないとのこと。

 これは、町長の管理範囲になるので、町長としても冬が来る前に収集の再開は行いたいらしい。

 狼に関しては、町の守衛と戦える冒険者ギルトの人員の確保を始めているとのこと。


 私は、時空魔術師ということで戦いに参加することは無い。

 補給支援も町が近いので必要が無い。


「ある程度収集できてから来るので、森で2泊します。 なので、3日後にまた来ます」


「はい、気を付けて下さい」


 常設の依頼の場合、依頼の受注手続きはいらない、ただ、常設の依頼を目的にするのならギルドの職員に伝えておいた方が良い。

 何処に何しに行くのかは把握して貰わないと、助けが来ない可能性がある。

 今回の場合は、3日過ぎて戻らない場合、狼に襲われた可能性があると言うことにもなる。



 薬草の採取依頼は、実のところ人気が無い。

 不人気の理由は、そこそこの値段で他の町から仕入れた乾燥処理された薬草が売られているため、わざわざ森まで行く必要が少ないためだ。


 安全な場所に生息している薬草なら子供が小遣い稼ぎをすることもあるが、ある程度の効能がある薬草は、森の中に入る必要があり、収集もそれなりに知識と経験が必要になる。

 もう冬が間近の今の時期だと取れる種類も数も減るので、苦労に見合わないという認識だ。

 森に行く必要がある一部の人が、ついでに収集するのが実状となっている。


 今必要とされているのは、流行病の薬になる薬草で、比較的森の浅い所で収集できるが、湿り気の多くて日差しが少ない、小川が流れているような所を探す必要がある。


 その場所は徒歩での日帰りは難しくなる、今回は余裕をもって、移動することにしよう。

 予定としては。

 今日のうちに移動して、収集場所について日暮れまで収集。

 翌日は収集に集中するふりをして検証も。

 で、3日目は移動して昼に納品と、こんなかんじかな?

 儲けについては、今回は赤字にならなければ良い。


「量については期待しないで下さい、この地は詳しくないので」


 収集に必要な簡単な地図と説明は受けているが、慣れていないのでどの程度収集できるのかは不明だ。


「もちろんできる限り、で構いません」



 職員さんとは、ある程度の私の能力の共有をしている。また、この町に移住してきたばかりというのも。

 そのため、今までは出来るだけ町中の依頼として収穫後の作業を中心に行い、町の人に新たな住人としての顔見せを行った。 また、宿の旦那さんと食材などの購入を同行したりしていた。


 そろそろ、町の外の依頼をする時期だ。

 東の森の事を、職員さんと更に詳しく情報を確認して、収支が黒字になる必要量、つまり収集依頼での目標量を決める。

 今回だと、流行病に効果のある薬草を10束でおおよそ儲けが出る所、2泊3日となると、30束は欲しい。



 ギルドを後にして、ついでに水汲み場で水を汲んでおく。

 私の備蓄分と、フミの負担は多少減るだろう。


 宿に戻ると、昨日の話通り薬草収集の依頼を受けたことを伝え、

 水釜に水を一杯にする。


 今すぐ出発する事も伝えているので、特に説明は要らない。


「2泊3日で3日の午後には、帰ってくる予定です」


「危険は無いんだね? 無理するんじゃ無いよ」


 奥さんから心配される。


「はい、森に入る以上、全く安全とは言えませんが、自分の安全を第一に行動します」


 狼の話は伝えない。 まぁ、町の噂で聞いてはいるだろうけどね。


「ほれ、お弁当だ。森に入るまえに食べろよ」


 旦那さんからお弁当を貰う、露店で適当に購入するつもりだったのでありがたい。

 森の中で匂いの強い食べ物を食べるのは、肉食の獣を引き寄せる可能性があるので、避ける行為だ。


 部屋に戻って、装備の確認をする。

 兵士の冬用の平服を元に幾つかの装備を着ける。

 少人数での輸送任務での装備だ。

 まぁ、侮られない程度の外見にはなっているだろう。






 さて、出発するか。

 最初は、色々あったせいで、鈍っている勘を取り戻そう。

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