第4章 日常

第33話 日常「ありきたりの日」

 コウの町の北にある村、通称 北の村からコウの町へ謎の塊を輸送する依頼をこなした。

 その後ギルドで依頼達成の処理をし、私は宿屋タナヤに帰ってきた。


 帰ってきた、というほど馴染んできている。


「ただいま戻りました」


「お、マイ、帰り~」


 フミの明るい声が帰ってくる。

 宿の奥では、奥さんのオリウさんと旦那さんで宿の名前を継いでいるタナヤさん、が何か話をしている。


「オリウさん、タナヤさん、戻りました」


「おっ、お帰り」

「お帰りな、怪我は無いようだね」


「荷物を受け取って帰ってきただけですから、何も無かったですよ」


 オリウさんの過保護というか心配性には、ちょっと慣れない。

 こそばゆい。


「フミ、お土産になるか判りませんが、どうぞ」


 私は、村で少女から購入したお守りを渡す。

 拙い作りだったので少し手直しをして置いた。


「可愛いね、ありがとう。さっそく部屋に飾ろう」


 フミは両親に見せてから、自分の部屋に向かっていった。


「気を遣わなくたって良かったのに」


「村の子供に勧められて、丁度良かったので」


 私は苦笑しながら、購入したいきさつを話す。



 ノンビリとした空気が部屋の中を満たしている。

 今でも、故郷の事を思い出すと、胸が締め付けられるが、この家族の中に居るとそれも耐えられる。


「さ、身体を洗ってきな、あと、夕食前に宿泊客への配膳を頼めるかい?」


「わかりました、特に疲れていないので大丈夫ですよ」



 私は、部屋に戻ると、依頼中に必要になると思って収納していた水樽から手桶に水を出し、簡単に身体を拭く。

 そろそろ肌寒い季節になってきた。

 フミの話では、この辺りでは雪はごくたまに降るだけで、数年に一度位、少し積もることがあるとのことだ。 雪が積もった日は子供達が大騒ぎするとか。


 私の故郷は、冬は雪に閉じ込められて、家の中にずっといたな。 むしろ雪は嫌いだった。


 子供の頃のことを思い出して、気持ちが落ちかけていたのに気が付いて、頭を振る。

 宿の店員服、というわけではないが、それっぽい服に着替えて気持ちを切り替える。

 配膳だけとは言え、宿の仕事だしっかりやらないと。


 非正規兵だった頃の兵士の言葉を思い出す。

 町中とか他の人と対峙するときや、見られているときは、兵士としての立ち振る舞いをしないといけない。

 でないと、見下されたり侮られたり、恐れられたりする。

 いざという時、平民の力を借りたい時、それは問題になる。

 兵士は、国を守り国に住む民を守る存在と、信じて貰わないといけないから。


 元村人の私が丁寧な言葉を使うようになっているのは、そのせいだ。

 兵士しかいない中では、けっこう乱暴な言葉が普通だった。


 ナイフを取り出して、自分を映す、髪型や身だしなみを確認する。


「さて、仕事だ」


 全身に力を入れて、意識を仕事状態にして、部屋を出る。

 やることは配膳。

 もしかしたら水浴び用の水を頼まれるのかな? 今収納している水でも代用出来ると思うけど。

 色々考えながら料理場に向かった。



■■■■■



 配膳が終わり、宿泊客が食事中に私達も食事を済ませる。

 出てくる料理は、客に提供している料理の余りや、食材の余りで作った簡単な料理になる。


 余り物といってもタナヤさんの作る料理は絶品だ。

 この料理を目当てに近所の家庭から依頼されて持ち帰り用の料理を作っていたりする。

 こちらは奥さんのオリウさんが対応している、よく判らないが火を大量に使うシチューみたいな煮込み料理が人気らしい。

 実際、この料理での収入は安定しているので馬鹿にならないらしい。



「マイは、明日も魔術師ギルドでの仕事をするの?」


 フミが私の予定を聞いてくる。

 今、私の仕事は宿の仕事を優先して、その空いている時間をギルドに来ている依頼をこなしている。

 宿に宿泊客が少ない時は、フミだけで十分なので、私がやるのは水汲みぐらい。


「宿が忙しくないのなら、ギルドで依頼の状況を確認してみます。

 ギルド職員の話では、薬草の備蓄が足りなくなりそうと言っていたので、その依頼が出ている可能性が高いですね」


「今泊まっている客は、後2泊の予定で、次は決まっていないから自由にしていいよ」


 奥さんの言葉にうなずく。

 収穫後の作業も終わり、人の行き来もだいぶ減ってきた。

 冬でも旅商人は定期的に回ってくるので、散発的だが宿泊客が途切れることは少ない。


「はい、薬草の備蓄が足りないというと、流行病の可能性があるので、ある程度確保しておきたいですね。

 大丈夫そうなら2日ぐらい森に入って収集してるのも良いかもしれません」


「いいんじゃないかね」


 その後、夕食の話は、私が不在中のありきたりな話に移った。



 宿泊客の食後の食器を片付けたり、言付けを預かって奥さんに伝えたりした後、私は部屋に戻る。


 部屋着に着替えてベットに寝転がると、明日の予定を思い返す。

 そろそろ、私もやりたいことが溜まってきた。

 今までやりたくても時間や余裕が無くて出来なかったこと。






 そう、私の時空魔術師としての今の能力を検証することだ。

 特に、新しい魔法は沢山検証したい。

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