第32話 冒険者「エピローグ」

 町長の館では鑑定機を使っての塊の鑑定を実施していた。


「結果ですが、不明です」


 町長は、大きくため息を吐く。

 おおよそ主要な金属や鉱物についての判別が可能な鑑定機で不明というのは、かなり異常なことだ。


「もう1回鑑定を、同じ結果なら、早馬を出して領主様と領都の錬金術師ギルドに連絡を入れろ」


「了解しました」


 これは一体何なんだ?


「この町に錬金術師は居るか?」


「いえ、おりません。 町に来ている記録もありません」


「そうか」



 庭に、月明かりで幻想的な輝きを放つ塊。



「さっさと、領主様のところに持って行って貰おう」



 塊は、月明かりを受けて更に輝きを少しずつ強めていた。

 それに気が付く者はいなかった。



■■■■■



 領都コウシャン、その中央にある執務室に宰相と領軍の総指揮官が報告を受けている。


「魔物での被害が増えている?」


「はい、以前 可能性がありで、調査を行った結果です。

 微増ではありますが、半年ほど前から少しずつ増え続けています。

 いまは、半年前より2割ほど増えています。

 これが、雨の年による誤差なのか、何かの影響なのかの判断は出来かねます」


「最悪を想定したとして何が考えられる?」


「魔物の氾濫でしょう。 ですが、もう500年以上、氾濫は発生していません」


「その500年目かもしれないのだぞ、楽観するのはダメだ。

 もっと情報を集めろ。 氾濫なら前兆があるはずだ」


「了解しました」



 何かが起きている可能性がある。

 だが、その何かを突き止めなければ、領主様の指示を仰ぐことが出来ない。

 曖昧な情報を提示するのは、負担を増やすだけだ。

 魔物の氾濫なら、領主様を越えて国に報告されなくてはいけない内容だ。



 魔物の氾濫、これはこの国が生まれた切っ掛けでもある。

 幾つもの小国による戦いが続いていた中、発生した魔物の氾濫、戦いどころではなくなった。

 国々が協力して、何とか鎮圧する事に成功したが、全てが疲弊してしまっていた。

 結局、この鎮圧で一番活躍した国が中心となって一つの国にまとまり、今に至る。



 領軍の長たる者が迂闊な行動を取ることはゆるされない。


 執務室の椅子に深く腰掛けると、一番最近の報告書が目に入った。


 コウと呼ばれる町、この都市コウシャンから荷馬車のユックリとした速度で約50日の比較的近い町だ。 早馬なら5日程度か。

 その町で謎の塊が見つかった。その報告書だ。

 塊の鑑定結果は不明。 コウシャンの錬金術師ギルドにある高精度な鑑定機での測定を希望している。


 既に、重量物の搬送が可能な時空魔術師の派遣が決まっている。


 関連性について考える、貯水池の拡張工事は2年前、少ない人員で進められており、数ヶ月前に完成した。

 この塊が見つかったのは、1年前、最初は塊の頭だけが覗いていたが、掘り進めるにつれて全体が出るようになった。

 只の岩なら破壊していただろうし、通常の金属なら鍛冶で利用していただろう。

 謎の鉱物。

 この情報を受け取ったのはだいぶ前だが、鑑定結果を受けたのはついこの前だ。

 鑑定機は精密な魔道具だ、簡単に移動できない。

 塊が非常に重いため、これまで先延ばしにされていたが、町に来た時空魔術師によって運搬されたとのこと。


 時期的に可能性の一つということで、慎重に対応していたが、

 コウの村の塊との関連性は今のところ無い。

 考えすぎだろうか。




 ゆっくりと、立ち上がると、部屋を出て行った。

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