第31話 冒険者「塊」

 その塊は見れば見るほど不思議だった。

 形は粘土を握り潰したような不思議な曲面で構成されてる。

 光沢があるのに表面はザラザラしている、同じ所を見ているのに少し動くと色が変わる。

 何なんだろ?


「触っても?」


「大丈夫ですよ、実際、村人含めて結構な人が触れています」


 触ってみる、ツヤがある、剣の表面のような感触とは違う不思議な感触だ。

 と同時に、収納出来るのか感覚を見る。


 収納は問題なさそうだ。


「うん、収納は問題なさそうですね。

 あとは、収納した後に何か制約が発生するかどうか? ですか」


「それは良い知らせです」


「食事の準備が出来ておりますので、今日はこの辺で」


 村長らしき人物に声を掛けられ、村の宿泊所に向かう。

 この村は、遠くの村の経由地となっているので、素泊まりだが宿泊できる場所は用意されている。

 普通の村人は、広間に雑魚寝だが、私達は個室を用意されていた。


 夕食も、収穫後なのか質素ながら美味しい料理でもてなされた。




 翌朝、朝の鐘が鳴る頃に村を歩いてみる。

 もう既に、かなりの人が何かしらの作業をしている。

 私達が来ることを知っているようで、ちらっと見ることはあっても気にしている様子は無かった。


 村長宅で朝食と、職員さんと町長の事務手続きを行われる。

 後は、収納して帰るだけだ。



「では、収納します」


 私が塊に手を触れて、収納魔法を発動させる。

 その場から塊が消える。


 私は、目を閉じて収納状態を確認し、また、自身の状態も確認する。


「収納は問題なく出来ました。 重量による制限も発生していませんね」


 軽くその場で跳ねる。

 うん、問題ない。



「では村長、サインを。このまま町へ出発します」


「はい、確かに。お気を付けて」



 短い事務的なやり取りをしているとき、子供が私にまとわりついてきた。


「ねぇ、魔法使いさん、これ買って」


 木の実を繋いで作った飾りのような物だ。


「これは?」


「お守り~」


 お土産にしても、微妙だ、値段も微妙だ。

 正直、私が適当に木の実を拾って作った方が良いかもしれない。

 悩んでいると、御者の方が教えてくれた。


「この辺りだと、村を通る人に旅の安全を願うお守りを売る習慣があるんです。

 とはいえ、このできでは半額が妥当ですね」


「半額でもいいよ~」


 本当に、遊びで作った物を売ってきたようだ。


「じゃ半額で」


「やった、ありがとお兄ちゃん」


 子供は、直ぐに走り去っていく。

 手直しすれば多少は見れるようになるかな?

 でも、お兄ちゃんかぁ。


「私、お兄ちゃんに見えます?」


「あはは」


 御者さんは、愛想笑いを返すだけだった。納得いかない。



 帰りの行程も、これと言って問題は起きなかった。


「あ、一つ。 輸送後に、もしこの塊を運ぶ必要があったら、依頼を受けてくれますか?」


「今は、遠出をしたくないのですが、町中でしたら良いですよ」


「それは助かります、この重さの物を運ぶのは苦労しそうなので」



 この塊がなんなのかについては気になっていたが、非公開なので聞くに聞けない。

 自分の収納の空間を確認して塊を見る。


 うーん、判らない。


 土魔術を習得する際に、基本的な金属や鉱物の種類についての勉強があったが、その中のどれとも合わない。


 知りたいと言う欲求と、世の中には知らなくても良いことも多い、ということの考えの間で揺れ動く。



 そうこうしているうちに、町に戻ってきた。

 馬車は、そのまま町長の館へ向かう。



 町長の館には、幾つかの魔道具が配置されている。

 よく利用されるのが、住民カードと呼ばれる物で、ギルドに所属している情報も記録される。

 他にも、犯罪を行った者には、目に見えない印を身体の何処かに刻まれるとか。


 鑑定機もその一つで、材質や魔道具か、などの鑑定が出来るそうだ。

 これらは、錬金術師の成果で、広く利用されている。


 私は、指定された庭に塊を取り出して置く。


 ズブズブと重さで地面に1/3ほど沈む。

 庭の土は軟らかいからなぁ。



 職員さんに、依頼完了のサインを貰う。


「ではまた」


 職員さんは、簡素な言葉で別れを告げ、建物の中に消えていった。



 私は、町長の館を出て、そのまま魔術師ギルドに依頼達成の報告。

 ギルドに預けられていた報酬を受け取る。


「今回は、マイさんが居てくれて助かりました。

 ギルドの魔法使いといっても、ほとんど魔法学校で学んだことのない者ばかりなので。

 実績作りとしてもありがたいです」


 職員さんが少し考えて、切り出す。


「マイさん、もし良かったら、魔法学校で学んだことを魔法使いの方に教えては貰えませんか?」


 私は即座に拒否する。


「それは禁止されています。

 私が魔導師であれば特権で見込みのある魔法使いを魔術師に育てることが出来ますが、

 通常の魔術師は魔法学校で習った内容を誰かに教えるのは禁止されています。

 というよりは、魔法学校に入れなかったか退学した時点で、察して下さい」


 以前書いたとおり、魔法学校は、魔法使いの才能があれば無償でだれでも入学することが出来る。

 また、後天的に才能が開花することもあるので、大人でも入学は可能だ。


「そうですよね。失礼しました」


 たぶん、安定して魔法を使える人が少ないのだろう。

 気持ちは判る、けど、魔術師は魔法を使う技術を習得した者であって、技術を伝承する魔導師ではない。

 また、魔術師の多くは魔法について理解しようとする者は少ない。

 結果として教える技術を持っている人も少ない。


 そういえば、私の時空魔法についての検証が滞っている。

 色々あった、また、時空魔法を出来るだけ使わないようにしてきたのも検証が出来ていない原因だ。





 ともあれ、まずは依頼達成である。冒険者といってもこういう仕事が中心なら、安全安心が素晴らしい。

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