第30話 冒険者「依頼」
最後の宿泊客を乗せた馬車を見送る。
途中の村を2つ宿泊と野宿をするというから、荷馬車とはいえかなり離れている。
この町が管理する範囲の広さはかなり広い、酪農をしているせいかな?
収穫祭が終われば、冬に向けての準備が本格化する。
特に多いのが、村々からの納税のための収穫物だ。
町では、これを集めて現金化し、領主に納める。
そんな関係で、町にはまだ商人が結構残っているが、こちらは町長と直接関わるような商人で私達との関係は無い。
宿には、納税のための収穫物を運んできたが、1泊しないといけない村の代表が泊まる。
そんなわけで、私は町長から商人ギルドへ依頼が来た、私は町での搬入作業をギルドで受注して日中は搬入仕事に明け暮れた。
宿の仕事は、朝の水汲みと、夜の鐘が鳴った後の料理の配膳などの手伝いをしたりしていた。
また、町中での輸送依頼を受けて、それなりに町での生活基盤を築き始めた。
宿ではすっかり、家族のように接してくれる。
私は、この関係を捨てて何処かに行こうという気が無くなってしまっていた。
魔術師ギルドに訪れて、今日の仕事の報告を行う。
と、普段は事務処理を黙々と行う職員さんから話が来た。
「ちょっと困った依頼があるのですが、マイさん対応出来るでしょうか?」
ちょっと困った内容で、時空魔術師の私に相談というと、何だろう?
普通は時空魔術師には大容量の運搬を期待される。
軍でも時空魔術師は基本的に動く倉庫扱いだ。
でも私の収納容量は大樽3つ分と過少申告している。
「出来ないことは出来ませんよ」
「近くの馬車で1日の村に、変わった金属で出来た塊が出てきているんです。
重量が非常に重く荷台に乗せられません。 運ぶ方法が無くて困っていた案件ですね。
大きさは、大樽2つぐらいです」
うん、確かに運ぶだけなら私が丁度良いのだろう。
けど疑問もある。
「火魔法で溶かすとか、土魔法で割るとか他の方法は試したんですか?」
「それが、上の方から傷を付けず、そのまま運ぶように指示が出ているんです」
「何か特別な金属なんですか?」
「らしいですが、詳細は非公開です」
「他の時空魔法使いには、依頼しました?」
「はい、ただこの町のギルドには重量物を安定して運べる時空魔法使いの方が居なくて、マイさんぐらいですね」
少し考える。
この町のギルドに居る魔術師は私を含め4名、うち3名は時空魔術師ではない。
他の時空魔法使いは、簡単な物なら私より容量が多い人はいるが、安定して魔術を行使できる人は居ない。
紙に書かれているの内容は、町まで運ぶことだけ、失敗しても塊を破損しない限り罰則は無い。
破損も故意でなければ問題ない。 依頼料も破格だ、交通費も全額出してくれる。
「運ぶ先は何処ですか?」
「まずは町長の館です、そこに物の鑑定を行える魔道具があって、それで確認したら、別の所に運びます」
「別の所?」
「判りません。只の鉄なら、たぶん鍛冶の材料ですが、希少金属だったときは領主様のところになります」
「んー、そうですか」
正直、領主の居る街まで行くとなると、気が進まない。
あと、たぶん鉄だったら判るだろう、他の金属だと思う。
「あ、町長のところから領主様への所は別依頼になりますし、おそらく領主のお抱えの時空魔術師が運ぶと思います」
「そういうことなら、受けます。
ただ、出来るかどうかはやってみないと判りませんよ」
私は、この町に来て、初めて町を離れる依頼を受けた。
「かくかくしかじか、というわけで、2日ほど出かけることになりましたが、問題ないでしょうか?」
宿に戻って、夕食後、早速 依頼の件を話す。
「危険は無いんだな?」
「ええ、ただ珍しい岩の塊を運ぶだけですから」
「お土産、っても村じゃ何も無いか」
「フミ、この子ったら」
「まぁ、何か探してみますよ」
「宿の方は、大丈夫だ」
というわけで、2日後、村に向かった。
同行者は、御者と、町の職員、私の3人だ。
馬車も小型だけど、人を乗せる専用の馬車だ。 快適。
職員は、塊の受け取り手続きとか、現地の状況を確認とか役所仕事。
御者の人は、護衛も兼ねているらしい、帯剣してる。 あと、食事の準備もしてくれる。
「そういえば、どうして塊が見つかったんです?」
「貯水池の空堀とついでに拡張を行う事になって、その工事の際に見つかったときいています」
「ということは、雨の年が本格的に始まったら、水の底ですか」
「そうです、拡張工事自体はもう終わっていて、塊だけ底に残されてる状態ですね。
なので、雨が降り出す前に運ぶ必要がありました」
馬車からの風景は、この町に来たときと違い、のどかに感じた。
刈り取られて地面が見えている麦畑、乳牛や山羊の放牧。
こんな所を、歩いてきたんだ。
馬車の移動は、順調で夕方近くには目的の村に到着できた。
収納は明日として、取り敢えず現物を確認することにした。
「か、変わった塊ですね」
確かに大樽2つより一寸小さいが、不思議な色だ、見る角度によって色が変わり幾つもの色のグラデーションが光沢を放っている。
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