第29話 冒険者「収穫祭3」

 収穫祭2日目です。


 新たに、5組の宿泊客が来て、宿はほぼ満室。


 宿の前の食事スペースも盛況だ。


 どうも、宿の旦那さん、料理の腕は町で有名らしい。

 ではなんで食堂を開かなかったのか、休憩中に聞いたら、数を作ると何処かで妥協しなくてはいけない所が出てきてしまう。手を抜いて楽をしようとしてしまうかもしれない、それが嫌だから、と言っていた。

 職人だなぁ、と思う。

 と同時に、常連客がついているというのも納得だ。


 私は、慣れない愛想笑いと給仕人をこなす。

 慣れない事なので、昼過ぎには変な所の筋肉が痛い。


 お酒は出していないが、酔っ払いはやってくることもある。

 奥さんが旨くあしらっているが、どうしようもない時は、私の出番だ。

 いくら非戦闘職とはいえ、最前線と補給基地を何度も行ったり来たりして戦闘の訓練も実地で受け居る。

 酔っ払いの人を、酔いつぶれたように見せかけて気絶させる位は可能だ。


 酔っ払いを介抱するようにして、適当な所まで運んで、寝かして放置。あとは知らない。



 町の中心部の方はかなり賑やかだ。

 初日に楽しめたから、いいか。


 食事スペースで提供していくのは、パンに具材を挟んだ、サンドイッチが中心で、食べ歩きで注文する人も多い。

 だけど一番多く出るのは、旦那さん自慢のシチューだ。

 1食分としては少ない量にパンを付けて、軽食として出している。

 私も まかない で食べたが、食べたことが無い位い美味しかった。


 飲み物は、お茶だ。

 いい水を使いたいと言われ、何時もの水汲み場ではなくて、教会の近くにある井戸水を汲んできた。

 普段はフミが苦労している作業だそうだ。



 あと、宿泊客が持ってきた荷物を大通りの露店販売の場所まで運ぶ仕事も、宿の有料サービスということで引き受けた。

 収穫祭でしか購入できない物を早く買いたいが、販売準備も早くしたい、というのを私の時空魔術で解決したと言うことだ。


 だいぶ感謝された。

 次回は、時空魔法を使える人と交渉すると、言っていた。

 魔術を学んでいない時空魔法使いは、どんな制約があるのか判らないので、最低限、魔法学校に1年以上通ってどんな特性の時空魔法を使えてどんな制約があるのか知っている人を利用するように薦めた。

 ギルドの方で上手く対処してくれるかな?


 私? 私は臨時店員だからね。




 収穫祭2日目も無事終わり、3日目も特に問題なく終わった。


 収穫祭4日目、最終日。


 近くの村の人は、午前中に買い物を済ませたり、売れ残りを原価近くで販売してから村に帰っていた。

 遠くの村の人は、もう一泊してから明日の朝一で帰るとのこと。


 人通りも少なくなり、食事スペースの開設も昼食時間が過ぎた所でおしまいになった。

 店先の片付けを時空魔法で済ませていたら、近所で同じように店先で販売していたお店の人に頼まれて、片付けも行った、もちろん有料ですよ、ご近所価格でしたが。



 町の人は、片付けが終わると広場に集まって最後の踊りや飲み食いをする、町長の終わりの挨拶は夜中だ。それまでは、出会いを期待した人たちと騒ぎたい人たちで賑わう。


 私は、そういう所に行く気は無いので、もう休む。


 水浴びをしたくて、裏庭の水汲み場に行く、桶は空っぽだったが、水の収納はたっぷりある。

 水を桶に満たして、浸かる。

 あ、真っ裸じゃない、下着を着ている状態で入る。

 高貴な方は沐浴着なる専用の服があるそうだけど、庶民は身体を洗うとついでに下着も洗う。


 ちょっと寒かったので火の魔法を使って、ぬるま湯程度まで温める。

 私は時空魔術を除く魔法については適性は低く、基本魔術も基本レベル程度しか使えない。けど、水を温める程度なら問題なく出来る。


 私が身を洗っていると、フミがやってきた。


「あ、マイ私も入っていい?」


 桶は女子2人入るには狭いが、入れないことも無い。

 フミは、私の了解を取らずに下着になって入ってくる。

 うん、胸囲はたわわだ。


「フミは広場に行かないんですか?」


「んー、付き纏われるのが嫌なんで、行かない」


「他の女性が聞いたら叩かれますよ」


 クスクス笑いながら返す。

 私の笑った意味が伝わったのか、フミがすねる。


「みんな胸見て話すんだもん、嫌になるよ」


「私も胸を見てよく言われます、女だったのか? って」


「ぶふぅっ」


 フミが吹き出す、自虐ネタは通じたようだ。


「収穫祭、終わっちゃったね」


「そうですね、けっこう楽しかったです」


「これからどうするのか決めた?」


「長期的にはまだ。短期的には収穫後の荷運びの依頼が結構あるので、当面はそれで生活できそうです」


「そっかー、ね、宿にそのまま宿泊しない?

 1人部屋ってほとんど使わないから、多分格安で大丈夫だよ」


 宿は基本的には6人部屋で、たまに3人部屋が使われる。

 御者がいるような場合、御者が泊まる1人部屋もあるが、ほとんど使われていない。

 そんな宿泊客は、もっと大きい宿屋に行くから。


「拠点となる宿は欲しかったので、嬉しいのですが、良いのでしょか?」


「多分大丈夫だって。 収穫祭のあともしばらくは宿泊客居るし」


 町に物納の為に各村から、色々な物が運び込まれる。

 私の収納容量は少ないことになっているけど、荷馬車から倉庫へ運ぶような作業なら需要はある。

 時空魔術師として能力が認められているというのも大きい。


 その後、水を温め直したり、身体を洗いっこしたり、した。




 収穫祭の仕事は、今日宿泊するお客さんを見送るだけだ。

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