第27話 冒険者「収穫祭2」
あらためて現在、宿娘のマイです。
宿の仕事といっても、部屋の掃除と買い物の荷持ち持ち位しかしていなかったり。
これで良いのだろうか?
フミと一緒に宿に戻ると、新たな宿泊客が既に宿の前に来て、宿の奥さんと話をしている。
男性1人、女性1人、夫婦かな? あと男の子が1人、年は5歳位かな。
雰囲気を見る限り、話に聞いていたとおり常連なのだろう、近所の人と同じような気さくな会話と笑い声が聞こえる。
「ただいま~」
「戻りました、何か仕事有りますか」
私達に気が付くと、笑顔で迎えられる。
なんだろ、少しむずがゆい。
「お久しぶり、フミちゃん。 そちらは、新しい人?」
「始めまして、臨時で働いているマイと言います」
「おっちゃん、久しぶり」
「何時も頼んでいる子がね、おめでたなんで今年は依頼したんだよ。
フミは部屋へ案内して。 マイは食事の準備を手伝ってきてくれな」
フミに聞くと、この町から馬車で5時間程度の近い村の家族で、村の代表として余剰な作物の販売と、収穫祭でしか買えない日常品などの購入にてきているそうだ。
私は宿の裏手に回り厨房に入る。
手を洗い、料理担当の主人タナヤさんに声を掛ける。
「タナヤさん、戻りました」
タナヤさんは、スープの仕込みをしていた。
料理の準備はほぼ終わって居るようだ。
あとは、配膳するだけだ。
この宿は食堂が無い。各部屋に配膳する形を取っている。
「料理を出すまでにはまだ時間が有るから、取り敢えず着替えてこい。
あと、水浴びしたいらしいから、水が足りなくなる追加で汲んできてくれると助かる」
「はい」
タナヤさんの私への口調も店員に対しての口調に変わっている、仕事モードに入っているな。
奥さんの方は、仕事中もそれ以外でもあんまり変わらない。フミも同じだ。
宿の1人部屋を1室、私用に使わせて貰っている。
何時も頼んでいる方は、この町の人で家から通っているとのこと。
なので、住み込み食事付きで給金が出ている私はかなり待遇が良い。
時空魔術師としての荷物運びという付加価値があって、魔術師を雇うと考えれば格安と言われて居るけど。
着替える服は、兵士用の一般服は嫌われるということで、フミの服のお古を借りている。
凹凸の無い身体が恨めしい。
もとい。
宿の日常の荷物運びで一番重労働なのが水だったりする。
この町は規模が小さい、上水道は幾つかある水汲み場に行く必要がある。
大きな町の貴族や大きな店には、上水道が細かく引かれているが、この町はそこまで大きくない。
町長の館と集会場となる建物や教会など、限られた場所にだけ専用に引かれてる。
井戸が無いかというと、ある。
この町がまだ村だったころの名残で、今も利用されているが、一度に汲める量が少ないので積極的に利用はされていない。
水も、川から汲み上げた水を用水路で運んでいるもので、飲むためには一度沸騰させる必要がある。
なので、冬などはワインの方が安かったりする事もある。
溜め水は腐るので、夏場なら毎日汲みに行く必要がある。
水の輸送は、私と相性が良い。
私の時空魔術師としての能力に、収納した物の重量無視がある。
収納量は、現在おそらく小さい倉庫1つ分はあるはずだけど、大樽3つ分ということにしている。
(何時までも大樽1つというのは、成長していないし、人前で使う上で多少不便だから)
因みに、大樽は大人5人が楽に立ってスッポリ入れる位、大きい樽だ。
私は時空魔法で宿に備え付けの中位の水壺と同容量の樽を3つ収納して水汲み場へ行く。
同じ仕事だろうか、手押し車に小さい樽を乗せて水を汲みに行く人がいる。
水汲み場で、収納の空間から樽を1つ取り出して汲んでいると、他に水を汲んでいる人と雑談もする。
名前は知らないが、何度か顔を合わせている人とは、水を汲んでいる時間の間に話すことも多い。
「時空魔法って便利だねぇ。家でもお願いしたい位だよ」
「まぁ、それくらいしか使い道がないですけどね。
魔術師ギルドに依頼してくれれば、いつでも運びますよ」
「あはは、その時はお願いしようかい。当分は、手押し車にお願いするよ」
魔法を使える人に頼って楽をしようとする人は多い。
ただ、有料となると途端に渋る。
善意を強要する様な人が やっぱり居るので、魔術師ギルドの様な仕組みが必要になったのだろう。
容量が小さい樽に水を汲終わった人は、簡単な別れの挨拶をして帰っていく。
水を汲むのは大抵は朝方なので、周りには人が居ない。
私は残り2つの樽を出すと、それにも水を入れていく。
手持ち無沙汰になると、考えてしまう。
収穫祭は4日にわたって行われる。
初日の今日は、この町の住人だけでお祝いする。 周囲の村々もそれぞれお祝いをしている。
2~3日は、周囲の村々や収穫祭 目当ての商人の売買が主役になる。
4日目最終日は、ノンビリとした物になって、最後に町長が終わりを宣言しておしまい。
周囲の村から人が来るが、普通は村の代表が町で販売や購入するために来るだけだ。
私の居る宿はその幾つかの村の代表の宿泊宿として利用が主で、あとは旅商人など複数名の団体。
私はどうしようか?
この町で住み続けるか、魔術師ギルドでの依頼だけで生活できるのか。
このまま宿に住み続けるわけには行かないだろう。
何とかなるのかなぁ。
「はぁ~」
大きなため息が出る。
宿に戻ると、少し残っている水瓶の古い水を捨てて、水を補充する。
宿泊客が来ると、使用する水が多くなる。
洗濯もあるし、身体を拭くための水も利用する。
今回は水浴びをしたいというので、裏庭の一角に作られた水浴び場。
目隠し程度の塀で囲んだ中にある桶に水を入れる。
ついでに、頭も洗ってしまう。
厨房に入ると、料理の盛り付けと、焼き肉の料理をしていた。
「水浴び用に桶に水を入れておきました」
「おっ、丁度良い、フミと一緒に料理を運んでくれ。
あ、収納魔法じゃなかった時空魔法は使わないでくれ、迷信かもしれないが味が落ちるって思っているのも居るからな」
時空魔法を使用すると、料理の味が変わる、というのは俗説である。
実際の所、収納空間の時間の流れが速い場合は当てはまるので、時空魔法を使う人次第という、例外魔法の法則性のなさから来る説だ。
私が軍に居た頃も、その説を信じて収納していない材料での食事をするという将校や貴族はいると聞いた。
私が居た周囲にそんなに高い身分の人は居ないから知らないけど、実際に荷馬車に食料を積んでいるので事実だと思う。
フミと一緒に料理を運ぶ。
宿泊客との対応はフミに任せっぱなしにする。 水浴びの準備が出来ていることも伝えて貰う。
今日の売り上げとか、露店での品物の価格とかの話をして、その情報料? でフミはお金を貰っていた。
こういう情報を教えることで、お小遣いを稼いでいるそうだ。
私は、この町に来て数日なので、判らない。ということで、私にもお金を渡そうとしてきたのを遠慮した。
宿泊客が食事中に、こちらも食事を取った。
「明日から、宿の前に机を出して料理を売るよ。
呼び込みとか配膳とか頼むね」
奥さんのオリウさんから明日の予定を改めて説明される。
「あと、関係ないだろうけど、遠くの村に魔獣が出たそうだ。
たぶん、冒険者ギルトに依頼が出るだろうけどね」
魔獣。
久しぶりに聞く言葉に身を硬くする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます