第26話 冒険者「収穫祭1」

 それから間もなくして、収穫祭が始まった。


 特に神に祈ったりしていない。

 町長が今年の収穫の祝いとねぎらいの言葉を話して、開催の宣言をする。

 ワー、という声が町の中央の広場から聞こえる。

 私は、その声を離れた所から聞いていた。


 収穫祭では、広場での踊りや音楽、町長から無償で提供されるお酒とかで賑やかだ。

 大通りで、周辺の村々から余分に作った作物や乳製品、肉を持ち寄って露店で売る。

 私はその露店を見て回る。

 新鮮な物が多い、私としてはある程度保存が利く物が欲しいのだけど。


 宿の方は、仕事が終われば昼間は休みだ。

 泊まっている人が露店などで出ているので仕事は無い。


 雨の年が始まったと思っていたが、こちらの方では、そんなに雨は降っていないそうで、特に影響はないようだね。


 保存に効くチーズがあったので購入しておく。

 とはいえ、手持ちのお金も温存しておきたい。

 収穫祭でしか買えない物って何だろう?



 広場の喧騒に入る気にならず、宿に戻る。

 宿の入口でオリウさんが編み物をしている。


 この宿屋は、常連さんが主でその常連さんも今日の夕方からなので、準備が終われば暇だったりする。

 現在宿泊中の家族も夕方までは戻らないそうだ。

 店先での料理の販売も、大通りより少し外れているので、人が少ない初日は行わない、収穫祭の本番になる明日以降の販売だそうだ。

 こんなにノンビリとしたやり方で良いのかと思ったが、集まってくる周辺の村々も今日は小さくても収穫祭を行っているので、こんなものだそうだ。


「あれ、マイどうしたんだい」


「どうも居場所がなくて。部屋で休むことにします」


「どうせなら、フミと踊りに行きなよ。服は貸すからさ。

 フミも同年代の付き合いが少なくてね、一緒に行ってやってくれないかな?」


 オリウさんの言葉には弱い。なんというか、私にも気を遣っていることが伝わってきて断りにくいのだ。


「マイも行くの? じゃ、服選ぼうよ、こっち!」


 会話を聞いたのだろうか? フミが窓から顔を出して手を振る。

 っか、フミ! 上半身裸じゃなの? きわどい所まで見えちゃってる。

 私は、慌てて周囲を確認する、探索魔術も行使する。

 人が居ないことを確認して、フミの迂闊さを注意する。


「フミ!周りに人が居るかも知れないのに、はしたないでしょうぅぅぅ!

 裸を見られちゃったらどうするんです。エッチです」


 両手をブンブン振りながらフミに話す。

 けど、フミは私の様子をニコニコしながら見ている、オリウさんもだ。

 何だ?


「ようやく素が出てきたのかね、さ、服をえらびな」


 オリウさんに部屋に押し込まれる。

 素が出てきた?

 私の素って、え? え?


「マイは、ちょっとヒラヒラしたのが良いかもね?

 これはどう?」


 私は、普通のスカートとかはいたことが無い。

 村では子供はシャツにズボン、女子はその上にスカートを巻くだけだし、私の村で祭りなんか無かった、そんな余裕も無い寒村だった。

 軍務中はズボンだ。 女性らしい服装というのは知らない。

 下着の上にスカートだけというのは、ひどく無防備で着心地が悪い。


「せめて下にズボンを防御が薄いです、恥ずかしすぎます」


「そんなのは、着飾っているとは言えないよ、あ、花飾りを付けるのも良いかな」


 幾つかの服を着せられ、飾り付けられる。

 恥ずかしくて、顔を上げられない。



 暫くして、フミに引っ張られて、私は宿から出る。


「おっ、私のお古だね、よく似合っているよ」


「あ、あ、ありがとうございます」



 フミに引かれながら、町の広場に向かう。

 大人達は呑んでいるか食べているかだ。

 子供たちも、食べているか踊っている。


「マイ!踊ろう」


 広場では即席の楽団が音楽を演奏している。

 踊りは、みんな好き勝手に踊っていて、バラバラだ。


 私は、フミの手を放さないように、必死になりながら踊る。


「あはははははは、マイ、楽しいね」


「は、はい、楽しいと思います、楽しいです、はい」


 踊っていると、だんだん麻痺してきてやけになってくる。


「あはははははは」


「くふふふふふふ」


 フミと二人で踊る。

 無心でただ踊る。

 フミと見つめ合って笑い合いあう。

 楽しい。



 暫くして、フミの体力が尽きて私達は、広場の隅でジュースを飲む。

 水で薄めているが、ほてった身体に美味しい。

 一応、搬送部隊にいた私は体力に余裕がある。



 何度か男性から声を掛けられる。

 私は知らんぷりをしていたが、フミは積極的に話していた。


 こういう場は、男女の出会いの機会という面がある。

 親同士で決められることもあるが、ここで知り合ってというのは、聞いたことがある。

 こういう事か。

 今の私には必要が無い。



 フミが男性や顔見知りの女性と話しているのをジュースを飲みながら横目で見る。

 美人と言うより可愛いという顔だ。胸もしっかりと女性を主張している。

 明るい性格と合わせて、人当たりが良い雰囲気をまとっている。


 私を振り返る。

 童顔だ、胸は無い、体型も未だに男の子とも女の子とも言えない中性的な感じだ。

 髪も短く切っている。

 女性の服装をしていなければ、どっちか判らないだろう。



 そろそろ昼過ぎだ。昼の鐘はだいぶ前に鳴った。

 そろそろ戻らないと、宿屋の仕事に支障が出るのではないか?


 フミを見る。

 丁度、女性の知り合いとの会話が終わり分かれた所だ。


「フミ、そろそろ戻りませんか?」


「そうだね。夜の集まりも盛り上がるみたいだけど、そっちは本気で相手を探す人が多いからね」


「いえ、宿の仕事があるでしょ」


「あーそうだった、やることほとんど無いけど」



 フミと宿に戻る道を歩く。

 フミが私の手を握る。


「やっとマイが笑ったね」


「そう、でしたか。そうかもしれません」




 生まれて初めての収穫祭を終えた私は、夜の宿の仕事の事を考えながら、フミの言葉を振り返る。

 案外簡単に笑ってしまうことができた自分の冷淡さに、何とも言えない感じを持っていた。

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