第24話 冒険者「店員マイ」

 目が覚める。が身動きが取れない。

 目の前には、柔らかそうな二つの・・・



 頭が動き始める。

 昨日の夜、食事中に大泣きしたこと、その後、身の上話をしてしまったこと。

 自分の冷静な部分が、警告を鳴らす。 必要以上の情報を提供してしまった。

 話した内容になっては、ここを速やかに離脱する必要があるのでは?


 だけど、私の頭を包む腕を振り払うことが出来ない、この暖かさの誘惑が心地よい。



「あ、起きたんだね」


 店員さんが目を覚ます。

 なんか、恥ずかしくて、目を合わせられない。


「はい、昨夜はみっともない所を。 ご迷惑おかけしました」


 頭を抱きかかえられる。

 豊かな胸が顔に当たり、呼吸が苦しい。


「無理しすぎるのも良くないよ」


「……そうかもしれません」



 その後、少し店員さんと雑談して、朝食を頂くことに。


「おまえさん、宿で働かないかい?」


「え?」


 宿の奥さんが、朝食中に私に言ってきた。

 どういう経緯なのか判らない。


「どういうことでしょう?

 確かに、職は探していましたが」


「もうすぐ秋のまつりだろう、

 うちも宿の前でちょっとした食事を売るんだよ。

 何時も頼んでいる人が妊娠中でね、あんたさえ良ければ、期間は短いがどうだい?」


「それは有りがたいですが、良いのですか? 接客は素人ですよ」


「村人や旅人相手だ、酒も出さないから、気にする必要はないよ」


「ね、やろうよ、同じ年の娘ってもっと割の良い所に行っちゃうから、一緒にやってくれるとうれしいな」


「そ、それでしたら、是非」


 頭の中で、警告が続く。

 昨日の夜に一体何を話したのか、正確に思い出せない。

 もし、遠隔転移、遠隔収納・取り出しのような特に秘密にしている部分を話してしまったのなら、今すぐ出来るだけ遠くに行くべきだ。


「決まりだね、今日からあんたも店員だ、仕事を覚えて貰うよ。

 飲食宿付き、給金は少ないけどね」


 私は、その申し出を断ることが出来なかった。

 ここで、私は幾つか漏れても良い情報を出すことにした。


「私は時空魔術師です、容量は少ないですが、物を運ぶのは得意ですね。

 未成年ですが軍に徴用されて居ました、任期が終わったので退役になっています。

 それて、魔術師ギルドというものが有ると聞いたのですが、どう言う物か知っていますか?」


「時空魔術師かい、それは準備とか助かるね、給金アップしないと。

 じゃなくて、魔術師ギルドかい、一応この町にもあるね」


 大きな情報が来た。

 魔術師ギルドがこの町にある。

 それに、私が空間魔術師であることは昨日話していない。

 ということは、遠隔での空間魔術は話していないと言うことだ。


「この町は主に酪農を行う村をまとめている所でね、周囲の森から来る狼とかの討伐を処理するギルドがあるよ。

 冒険者ギルドや魔術師ギルドとか一纏めになっているんだよ。

 あ、商業ギルドは半分独立しているかな?

 町の守衛は、あくまで町を守るだけで、村が襲われるとかのよほど酷い状況出ない限り、村まで出張らないからねぇ」


 宿の主人が続く。


「俺も魔法使いで、魔術師ギルドにも登録している。

 俺は、水と火だけの良くある基本魔法使いだな。

 魔術師の資格を持っているのは少ないな、ほとんどが魔法使いを自称している俺と同じような魔法使いだ。

 何人かで集まって協力することで何とかする、という感じなんで、割と雰囲気は良いよ」


「ギルドに登録している人は、狩人や農家・酪農家が兼任しているのが殆どだ。

 少ないが兵士だった人も居る。

 普通、狼とか山犬を狩っても、金にならないけど、酪農家からの依頼があれば飯の種になる。」


 ん、自分の中にある情報と齟齬がある。


「その、国民なのにギルドに登録できるのですか?

 私は、国の管理下から外れている組織という認識だったのですが」


「ああ、半分正解だな、一部の国外にまで移動する連中はどこかの国に属しているが、別の国では管理下にない、それをギルドが補助するという感じだ。

 しかし、大抵の連中は副業としてやっている。

 俺なら、宿の料理以外で、水や火が必要な仕事の手伝いでお金を稼ぐとかな」


 その後、幾つか質問して判ったことがある。

 ギルドが国とある程度の協力関係を持っていることは知っていたけど、そういう意味だったのか。

 要は、国が定めた仕事以外を行う際は、国は責任を取らない。

 それをギルドに登録することで副業として働くことが出来て、ギルドの補助を受けられると。

 あとは、同じ職に就いている人たちが協力しあう為の組合という意味合いもあるようだ。


 と、なると自分の立ち位置に悩む。

 今の私は、いまだに死人という国の庇護下に居ない状態だ。

 この町の住人として登録して貰った方が良いのか?

 いや、長く働く仕事が見つからない限り控えた方が良いか?




 まずは、この宿の店員として働くことが第一歩か。

 というわけで、私ことマイは宿屋の(期間限定)店員になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る