第3章 冒険者
第23話 冒険者「宿と家族」
私は、町を出てから暫くして一つの町にたどり着いた。
惰性で移動していたので、たどり着いた町がどんな町なのかも判らない。
何日経ったのだろうか?
一応、主要な地理は頭に入ってはいる。
入口で町の名前を聞いて判らず領地の名前聞いて、本来の目的地である領の領主が住む都市とは異なる方向に来ていることに気が付いた。
どうでもいい事だ。
門の守衛が何とも言えない目で見ているが、そうだろう。
今の私は自分でも正常な状態じゃ無い、荷物一つ持たず薄汚れた兵士の服装の未成年だ。
守衛の視線にも心が動かない、正直なんで生きているんだろう?
この町にたどり着いても、何をすれば良いのか判らなかった。
とはいえ、手持ちのお金も潤沢にあるわけではない。
入口で特に出入りする人を確認もせずに居る町の守衛に聞く。
「この町で仕事って何かある?」
死んだような目つきの女の子? の質問に守衛は困惑してる。
どんなことがあったのか、それは判らないが、少なくても良いことでは無いのは伝わっているのだろう。
「食堂の店員なら、近いうちに祭りがあるから短期で雇って貰えるかもな。
長期はしらん。役場で斡旋して貰うのが普通か。
大金が欲しけりゃ冒険者にでもなるんだな。 命は軽いがな」
守衛としては、比較的なともな職について貰いたかった、
冒険者は、問題を解決するのが仕事だ、当然、問題ごとが起きることも多い。。
冒険者を薦めたのは、単に脅かして堅実な方向へ向かって欲しいと願ったためだ。
もっとも、守衛としての仕事が増えるのが嫌だった。という理由が大きいが。
「うん、ありがとう」
私はお礼を言うと、町の中に進む。
祭り、冬が近い今の時期は収穫の時期でも有る。
収穫をお祝いする祭りが、何処の町でも行われる。 その祭りに近隣の村人が集まる。
この時は、お店も人手が足りないので臨時の募集をかけることが多い。
私は、少し悩む。
ギルドについての知識が乏しすぎる。
情報の収集が必要だ。
なら、守衛の言うとおり、食堂の店員というのは情報を集めるという意味では良い選択肢だ。
ざっと、町を見渡す。
ごく一般的な複数の村をまとめる町だろう、大通りに面した店舗以外はほとんどが平屋の簡素な作りだ。
店舗も食料品や日常品を扱うお店が多そうだ。
町に来る間に見た限り周辺は酪農を中心に行っている、村もそうだろう。
その村を管理する立場の管理者が住んでいる町だと思われる。
ふらふら町を歩きながら宿屋を探す。
丁度同年代の女性が働いている小さい宿を見つけ、その宿に決めた。
大きな宿のように人が多いのが煩わしかったからだ。
女性は私より少し年上かな、人なつっこい外見に胸がボーン。 うん、凄い。
家族経営の宿だろう、食堂は無いが、食事は作ってくれる。
宿の部屋に入り、ベッドに横になる。
町を出てから初めてのベッドだ。
予想以上に身体が疲れていることに、今更気が付く。
考えよう、検証して最善を導きだそう。
頭の中では、ここ数日繰り返して自分に貸している言葉を思い浮かべる。
ただ、その言葉を実行できない。
「はぁ~、まずいなぁ」
明確な目標が無い。
なので、自分が何をするべきなのかハッキリしない。
数十日の移動で、気持ちは落ち着いている、いや無気力で逆に何も気力が湧かない。
コンコン
「いまいい?」
ドアを叩く音と店員の気安い言葉が来る。
「いいですよ」
私は店員を招き入れる。
念のため、魔術の発動準備はする。
「夕食どうしますか? 簡単な物ですが出せますよ。
周りは食堂というか飲み屋ばかりなので、一人で行くのはお勧めできません」
どうも、女性一人ということで、気を遣われているらしい。
「出来ればお願いします。 部屋で?」
「いま、お客さんはあなただけなので、一緒に食べませんか?」
予想外の申し入れが来た。
「お邪魔でなければ是非」
情報を収集したいのであれば、会話する機会は多い方が良い。
そういうわけで、夕食は宿の家族と一緒に取ることになった。
家族以外の家での食事は初めての経験だ。
タオルと水をお願いして、身体を拭いて、下着を洗濯し、室内に干す。
平服に着替える。
部屋を出て、店員に声を掛けようとすると、店員が気が付いてこちらを向く。
兵士に支給される平服を見て、店員が緊張するのが伝わる。
「兵士……さんなんですか?」
「元ですね、今は関係ありません」
「そうですか……」
何だろう、警戒されている。 だが、こちらは迷惑を掛ける気はない。
「あ、迷惑だったら宿を変えますけど?」
「すいません、以前、兵士の方に宿代を踏み倒されたことがあったので」
「それは変ですね? 軍票を渡さなかったのですか?
通常、兵士はお金を持ち歩きませんから軍票を渡して、軍から後払いをするので、
軍票を渡さないということはあり得ないのですが」
通常、軍務についている兵士は現金を持ち歩くことは無い。 只の重荷だから。
ただ、遠征先での休みや少人数での緊急の任務では、軍票が支給され金の代わりになる。
後払であることだが、軍に貢献したということで、代金は請求した金額より多めに換金されるのが普通だ、だから軍票は煩雑だけど損にはならない。
「そうなんですか? 現金が無いので後日と言って、信用しろと脅かされてしまい……」
「それは、兵士を騙った無賃宿泊ですね。
兵士は必要経費を正確に提出しないと罰則がありますし、お金は軍から出るので払わない理由がありません。
バレたら、極刑なので町の守衛か誰かに相談したら良かったと思います」
「……次からは気を付けます」
すこし気まずい雰囲気となったが、夕食となった。
宿の奥の生活感がある部屋に通され、席に着く。
そんなに広くない、台所と居間が一緒になったような所だ。
宿の奥さんが、食事を並べていく、質素な食材ながら、種類も多くてとても美味しそうである。
「お腹いっぱいたべておくれ」
「ありがとうございます」
食事に手を付ける。
美味しい、うん、美味しい。
宿の家族のどうでも良い会話が飛び交う。
そういえば、こういう食事は何時ぶりだろう?
「お母さん、ニンジンは苦手だって」
「食べないと、美人になれないよ」
「お父さんからもいってあげて下さいな」
「まぁまぁ、無理しなくても」
「あまやかしちゃダメですよ」
何気ない、家族の会話が聞こえてくる。
スープが美味しい。 美味しい。 胸が熱い。
「うるさくて申し訳ないねぇ」
宿の奥さんが、謝る。
が、ギョッとし、私の顔をのぞき込む。
「ぃぇ、ぁ、ぁ」
気が付いたら涙が流れていた。
「うっ、うぇ」
言葉が出ない。
「どうしちゃっとの、大丈夫? 何処か痛い?
それとも不味かった?」
何気ない言葉が、心に染みてくる。
「いえ、美味しいです」
涙は止まらない。酷い顔をしているのだろう。
食事が終わった後、理由を聞かれ堰を切るように、私は身の上を話した。
親兄弟が死んだこと、それを最近知ったこと。
軍を未成年であることで退役したこと。
今は、自分の行き先が判らないので、取りあえず領主の居る街まで行こうと思っていること。
なんかを話したと思う。
親兄弟と食事を最後にしたのは、5歳の魔法学校に行く前の日だ、もう記憶も曖昧で思い出せない。
酷く同情されたと思う。
店員が一緒に寝ると宣言して、私は彼女の部屋に連れ込まれて一緒に寝ることになった。
その夜は、久しぶりに暖かかった。
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