第21話 帰郷への道「墓」

「トム、両親と兄弟が何処に居るのか判る?」


 翌日の朝、私はトムに聞いた。


「ああ、あー、全員ひとまとめに穴に埋められた。

 場所は判るが、どうしたいんだ」


 反乱をした者は、国民ではない。 この国では人としても扱われない。

 廃棄物として処理される。


「気持ちの問題かな、区切りを付けないと」


「判った、今日、商品の運搬で村へ行く、この時に手伝いとして付いてきてくれ」


「ありがと、面倒掛けるね」


「気にするな。その後はどうする?」


「決めてないけど、ここを離れようと思う」


「そうか、それが良いかもな」



 村は基本的に自給自足だが、全く交易がないわけではない。

 手に入らない物は、外から入手する必要がある。

 物々交換が多い。 トムは村と物々交換での商売もしている。

 トムは元々、村側の窓口として物々交換をしていた時に今の奥さんと知り合って、結婚し町側の窓口に変わった。


 村まで荷物を持った徒歩で片道1日だが、荷馬車でも道が悪いから同じ片道1日で行ける距離だ。


「ただし、マイが村の出身なのは隠してくれ」


「そのほうが良いね。うん。判った」



 雑貨類を乗せた小型の荷馬車に乗る。

 御者席に2人座れないので、私は荷物と一緒だ。

 道幅は狭いが、この大きさの馬車なら特に問題なく移動できるだろう。


 移動中は、無言だった。

 だんだんと、見覚えのある景色が増えてくるのが心に重くのし掛かってくる。


 村が一望できる辺りまで来た所で、トムが馬車を止める。

 トムを見ると、開けた原っぱにある小さな小山を指さした。


「あそこの小山の下に村のみんなが居る」


 思わず、馬車を飛び降りて、駆ける。

 小山の手前で両膝をつく。

 実感がわかない、こんなの嘘だ。きっと嘘に違いない。


 トムが、ゆっくり歩いてきて、小山の手前にある小さい岩の上に、何処かで摘んだ花を1輪置く。

 祈らない。

 祈ったら、反乱者との繋がりを疑われてしまう。

 疑われたら家族もろともどうなるのか判らない。 ただ目を閉じる。


 私は、顔を両手で覆って、溢れてくる涙を必死に止めていた。

 声を出さない、出せない。

 ここには国民は人は埋葬されいないのだから。


 しばらく、ただ風が吹いていた。



「マイ、後で迎えに来る」


「いや、良いよこのまま歩いて町に戻る」


「しかし……」


「本当にありがとう、長居すると動けなくなるから、もう行くよ」


「判った、マイ、町に来るようなことがあったら、店に寄ってくれ」


「ん、絶対に寄るよ」



 トムの荷馬車を見送る。

 涙は止まらない。


 これで良いのだろうか?

 こんなんで、良いのだろうか?

 疑問もわく、反乱とは関係ない村民まで殺す必要はあったのだろか?

 首謀者と盗賊たち以外は、只の村民だ、国の庇護下にあったはずなのに。


 国に従属したくはない。こんなことをする国には。

 理性ではなく感情でそう判断した。


 ここは私の帰る場所ではない。

 自分の居場所は自分で見つけよう。


 町に向かって歩き出す。

 涙は止まらない。

 でも、振り返らない。



 今の私は、荷物も全て収納している。

 町までは、距離があるが私には時空転移がある。


 探索魔術で周囲を探り、人が居ないことを確認。 身についた習慣だ。

 最短距離で移動する。


 時空転移で飛ぶ。

 魔力がどんどん消耗する。 急激な魔力の消費で頭痛がする。

 でも、気にしない。


 森の中を転移する、目視できる距離なら一瞬だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 いつの間にか叫んでいた。

 怒りなのか悲しみなのか自分でも判らない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 ただ、森の中で叫ぶ、叫ぶ。




 夕方には、町に戻ってきた。

 トムの店に寄って、奥さんに両親と兄弟へのお土産だった果実を世話になったお礼に渡す。


 奥さんは泊まっていくことを薦めてきたが、辞退させて貰った。


 今はただ、進みたい。離れたい。



 町を離れる。

 目的地は、魔術師ギルドがあると思われる大きな町か、領主の居る都市だ。


 涙は止まっていた。


 町から離れた街道沿い、太陽が沈み、暗くなる。

 私は、光魔法を使った小さい光を頼りに、街道を外れた林に入って、時空魔法を使い、自分を収納する。




 クリーム色の空間の中。 私は毛布にくるまり、丸くなって意識を手放した。

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