第20話 帰郷への道「反乱」
領主と対立した。
あり得ない、子供だって判ることだ、こんな事をしたらどうなるのか。
この国では、全て国王の所有物であり、国民はそれを借りて生活している。
生かせてもらっている。 という大前提がある。
教会やギルドに入って、国の庇護下から外れていても、この構図は変わらない。
でも、国王の所有物である村を管理している領主に対立する、領主が任命した村長を殺害して、自分が村長だと、これは明らかに国家に対しての反逆になる。
「で、でも、悪いのはソクと一部の人間だけで……」
私の声は震える。
「さらに悪いことに、ソクのやつ盗賊たちと繋がっていたらしくて、村を占拠してしまった。
結果として、対外的には村全体が反乱したことになってしまった」
村が反逆したのなら、その結果は。
体が震える。
領主がいちいち反逆した者と、そうでない者を区別するだろうか?
領軍が抵抗する者と抵抗しない者を区別するだろうか?
「判っているだろ? 領主様は領軍に村の殲滅を指示した。
村に住んでいる全ての村人の殺害を」
そうだ、反逆なんてことをした村人を一人でも残す訳がない。
生き残りがいて、恨みを持って更に力をつけて反逆する可能性がある。
小さな芽でも潰さないといけない。
「俺は、その時にはもう この町に結婚して移住していた。 だから今も生きている。
肩身はかなり狭いけどな。
今も村はある、だけと、村民は全て別の所から移住してきた人で、全く別の村になっている」
頭がその事を理解することを拒否する何も考えられない、自分が帰る場所はもうない。
感情も涌かない。
「兎も角、今日は泊まっていけ。 明日、町長に相談する」
私は答えることが出来なかった。
翌日、朝一番でトムは町長に私のことを伝えに出た。
昼に戻ってきて、町長が会いたいとのことを伝えてきた。
トムが言うには、トムも処刑される可能性があったのを庇ってくれた人で悪い人ではないとのこと。
何も食べられず、呆然としている私は、トムに促されるままに町長の邸宅に行って町長と面会した。
「私がこの町の町長です。よろしくマイさん」
「あ、はい、よろしくお願いします」
町長の奥さんだろうか、恰幅の良い女性がお茶を出してくれる。
「あの、トムから聞きましたが、本当のことなんでしょうか?
両親と兄弟はどうなったのでしょうか?」
未だに信じられない私はせめて両親と兄弟の無事を願う。
「トムと話しましたが、伝えた内容で間違い有りません。
そして、マイさんの両親と兄弟ですが、残念ですが」
ポスッ
ソファーに倒れかかる。
力が抜ける。
「私はどうなるのでしょうか? 旧村の人間のはずですね」
村長は、手元より幾つかの書類を取り出して机の上に広げる。
「いえ、マイさんは今は何処にも所属していないことになっています。
ですので、希望すればこの町の住人になることも可能です」
村長は、私の再登録に必要な書類を持っていた、トムに渡したっけ?
思い出せない。
「少し考えさせて下さい。」
相当酷い顔をしていたのであろう、トムは宿に泊まるという私を無理矢理に連れ帰り、食事を食べさせられた。
味なんて分からない。
翌日、目が覚める。
が、起き上がる気力も沸かない。
少しだけだが、頭が動き始めた。
状況を確認して検証しよう。
今まで続けてきたことだ、答えが出るかもしれない。
まず、私は天涯孤独になった。
頼れる両親も兄弟も村もない。
殺された、ソクがやらかしたばかりに村人全員が。
村の住人だったということを言うことも出来なくなった。
怒りが沸く、でもぶつける先はもうない。
だめだ、冷静になれ。今は感情は不要だ。
まず私だ、今は死人扱いで、どこにも所属していない。
国民になる必要がある。
国民になることは可能だ、町長に町民として認めて貰えば良い。
時空魔術師の仕事もそれなりにあるだろう。
軍は退役扱いだ。 国民に再登録され、成人した段階で軍への入隊を希望すれば、入隊することは可能かもしれない。
非正規兵としての実績が加味される可能性は少ないが。
でも、私は時空魔術師だ。 軍にとって重要な戦闘に役立つ魔術師ではない。
運搬部隊でひたすら荷物を運び続けることになる。
生活は保障されるだろう。 でも、それで良いのか?
だったら、私の力を示したら?
遠隔収納と取り出し、これは戦力として多分使える。
人を収納出来る、これは要人にとって魅力的な能力だろう。
それこそ、最前線送りかもしくは、国の中で重用され利用されるだろう。
それでいいのか?
魔導師を目指していたのではないのか?
誰のためでもなく、自分のために。
何で魔導師を目指していたのか?
そうだ、自由になりたかったんだ。
魔術師ギルド。
国から不要と見放された魔術師の寄り集まり、かな。
どんな所だろうか?
領主の居る町なら情報があるか?
決めないといけない。
何時までも、トムに甘えるわけにはいかない。
でも、両親と兄弟の居る場所には行きたい。
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