第19話 帰郷への道「消えた故郷」

「ああ、隣に住んでいた、トムだよ。 生きていたんだなマイ」


 大げさに両手を広げて喜ぶトム。

 おかしい。


「生きているのに決まっているでょ、毎年手紙も書いていたし今年も書いたよ」


 とたんに、トムの様子がおかしくなる。

 哀れむような、悲壮な顔をしている。


「その様子だと、何も知らないんだな。」


「どういうこと? 父さんや母さんは、兄さん達は? 他のみんなは?」


「・・・、ここでは話しにくい場所を変えよう。」



 周囲の目もおかしい。

 何だろう?


 歩きながらトムが話す。


「俺は、この町の店に婿養子で移り住んだんだ。

 毛皮とか籠とかの運んでいるときに、お店の娘と親しくなって、婿なら結婚して良いってことでね」


「えっと、それはおめでとう。 と言って良いんだよね。」


「ああ、それについては、ありがとう。」


「ついた、ここが俺の店だよ。」



 この町で一番大きい通りに面した店に入る、雑貨店のようだ。


「ただいま、友人を連れてきたのだけど良いか?」


「お帰り、あら兵士さん?」


 奥から女性が出てくる。この人がトムの奥さんか。

 私が背嚢を背負っていて、兵士の一般服を着ているのを見てそう思ったのだろう。


「初めまして、私はマイ。 トムとは同じ村の出身で、兵役を満了して戻ってきた所です」


「ぁ」


 トムの奥さんは、口に手を当てて私を見る。


「ああ、村で何があったのか、知らないらしい。」


 不安を煽る言葉や態度が続く。


「詳しい話を聞きたいんだけど?」


「取り敢えず、奥に入ってくれ」



 奥の客間に通される。

 疑問や不安が溢れてくるが、兎も角、説明を聞かないと。


 トムの奥さんが、お茶を出してくれる。

 頭を下げて礼をする。


 だけど口にする余裕が無い。



「説明するから全部聞いてくれ。

 まず、マイの知っている村はもうない」


 いきなり何を言っているのだトムは。


「村長の息子の、ソクの事は覚えているか?」


「もちろん、一緒に魔法学校に入ったからね、それに散々弄られたし」


 村長の息子、ソクは私が5歳の時、8歳で村の番長みたいで、横暴だった。

 私と同じ年に、魔法の素質を見出されて魔法学校に入学した。


「そのソクがやらかしたんだ」



 その後の話は信じられない、信じたくない内容だった。



 その前に改めて。

 この国では、魔法使い、魔術師、魔導師の輩出を重要視している。

 戦闘魔術師が1人居れば、100人の兵士に匹敵するとも言われる。

 時空魔術師だって、1人居れば倉庫1分程度の荷物を運ぶことが出来る。


 だから、魔法の素質が一定以上ある子供は全員、領内の魔法学校に入学する。

 授業料は無料だし、家族には支度金が出る。

 更に能力が高い子は、王都にある魔法学校へ転校して教育を受けることもある。


 魔力があるかどうかを調べるための審査官が各地を回るが、辺境の村では数年に1回位の頻度になる。

 そのため、私の村で私が5歳の時に10年ぶりに審査官がやってきた。


 この時、私マイと村長の息子のソクが魔法の素質が有ると診断された。


 魔法学校の入学の最低年齢は5歳から。

 なので、2人一緒に入学した。


 入学すると更に詳細に診断される。

 私は時空魔法の素質が有ると、ソクは火の魔法の素質が有ると、診断されそれぞれ別の教室に分かれた。


 魔法学校は最大5年の学習期間が設けられる。

 5年制ではない、5年の間に魔術師に必要な能力を獲得しなくてはならない。

 出来なければ退学だ。

 能力が発揮できなければ、途中退学もある。


 逆に、必要な能力を習得すれば、1年でも卒業できる。 そう言う人は能力が高い人となって、魔導師になるべく王都の学院に進むことになる。


 私は、魔力自体は低い方だが、学習能力や魔術に関する意欲が高いということで、在籍をみとめられ、予定では4年目に魔術師として認定されるはずだった。

 3年目に徴兵されて魔術師になったけど。


 ソクはその素行の悪さと学習意識の低さから学校では成績も評判も悪かった。

 そして、1年目が終わる前に退学になったはずだ。


 それでも魔法使いとして名のることは出来る位の力は身に付けているはずだ。

 魔法学校に1年居たと言うことは、最低限の魔法は行使が出来ているはずだから。



 その、ソクがやらかした。

 何を?



 トムは区切り区切り話す。


「ソクは戻ってきてからも、変わらず横暴でな、若い者を集めて仕事もせずに好き勝手してた」

「村長の息子ってのもあって誰も強く言えなくて、どんどん増長していったんだ」

「次の村長に自分がなると公言してね、村長は領主様の任命制で息子が受け継げるとは限らないのに」

「普通は、村長の息子は、村長としての必要な教育を受けているから、受け継ぐことが多いのだけど、ソクは全く勉強もせずに好き勝手していたからな」

「村長が急な病気で亡くなってね、新たな村長が領主から任命された。 村の外から別の人物をね」

「で、ソクはやらかしたんだ、自分が次期村長だと主張して、好き勝手やっている子供達と共謀して、領主が任命した村長を殺して領主と対立した」





「ソクのやつ、反乱を起こしちまったんだ」


 なにやってんじゃゃゃゃゃぁぁ!!

 私は頭の中が真っ白になった。

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