第18話 帰郷への道「同郷」

 朝の鐘の音が鳴る前に目が覚めた。

 床下からは既に店員が動いているのか、歩き回る音が聞こえる。



 十分に睡眠を取ることが出来たかな。

 伸びをして、軍で習慣になっている柔軟運動をする。


 朝の鐘の音が鳴ったので、背嚢を取り出し、担いで1階に降りる。


「あ、おはようございます。」


 店員が気が付いて声を掛けてくる。


「部屋を引き払うのは朝食の後でも良かったんですが? 特に追加の料金は無いですけど」


「朝の露店を見て回りたかったので」


「そうでしたか、お弁当、必要でしたら作りますよ」


「うーん、ではお願いします」


「はい、では朝食を持ってきます」


 朝食はパンと具の少ないスープ。水で薄めたジュース。

 この価格の宿では普通の内容だ。

 でも、味は良い。もし次に来ることがあれば又利用しよう。



 朝食を頂き、弁当のお金を払って受け取り、宿を出る。


「又のご利用、お待ちしております。」



 店員の言葉を受けながら、移動を開始する。

 この町は大きいので、集合場所の広場に向かいながら露店を物色する。


 町の人向けの露店は価格が書いていない、値切りが普通なのか、価格交渉をする声が聞こえる。

 欲しいものがあっても、誰かが購入するのを見てからの方が良いかな?


 そろそろ、家に居る家族に向けたお土産を買っておきたい。

 農民である両親たちに喜ばれるのは、やっぱり保存処理された肉だろうか。

 もしくは余り食べない甘い物か?

 もしかしたら、近所にお裾分けをするかもしれない。


 色々考えながら集合場所に着く。



「お早いですね」


 荷馬車のおじさんが私を見つけて声を掛けてくる。


「露店を見てました。両親と兄弟へのお土産を何にするか決めてなくて。」


「そうでしたか、日持ちがする甘い果実なんかは喜ばれるかもしれません。

 仕入れた物があるので、ご覧下さい。」


 荷馬車の中の箱の中から、手の上に乗るぐらいの果実を取り出してきた。

 皮は固い、これは本当に甘いのだろうか?


 おじさんは、躊躇なくナイフを取り出して切れ目を入れて割る。

 器用にナイフだけで、中の果実を切り分けて、その一つをナイフの先に刺して私に差し出す。


「味見して下さい」


「あ、ありがとうございます、確かに甘いですね、それに瑞々しい。」


「これはまだ熟成していないので、皮も固いですが、少し柔らかくなるぐらい熟成するともっと甘いですよ。

 この陽気なら、熟成するのに30日くらいでしょうか」


「いいですね、これをお土産にしたいと思います。

 何処で購入できるのでしょか?」


「私から購入して下されば、卸値で良いですよ。

 なにせ、命の恩人ですから。」


 残りの果実も進めてくる。


「そう言われてしまうと断れないですね。 この大きさなら10個もあれば十分でしょう」


「はい、毎度ありがとうございます。」


 時空魔術を使えば、一箱購入するのも可能だが、隠しておきたい。

 10個でも背嚢と合わせるとかなりの大きさになる。

 荷馬車を乗り継いだときには収納しておこう。

 最寄りの町から故郷の村と行き来する馬車があるはず、同郷なら乗せてくれる事に期待しようかな。



 このあと、役場の盗賊の対応を確認したが、何件か行方不明になっている荷馬車があるそうで、かなり早く動いてくれるそうだとのこと。


 そうこうしていると、家族連れ3人が来て、予定より早いが出発することになった。


 家族連れ3人は、私が降りる都市より更に先の町まで行くそうだ。

 奥さんの実家に子供を会わせにいくとのことだ。

 詳しい所は、濁してきたが、商家を営んでいるらしい。


 疑問に思う、商家を営んでいるのなら、自前で荷馬車の手配も出来るはず、また、商家の一家なのに護衛を連れていないのも気になる。

 私が気にすることではないが、身なりもこじんまりとしているが上質な服を着ている。


 何か訳ありなのだろうけど、関わり合う必要も無い。



 気になっていた男性が居なくなったので、少し気を抜いて、たわいの無い会話をしながら荷馬車の移動を続けた。




 そして、7日目。

 私の目的の都市に着いた。


「お世話になりました、みなさんも達者で。」


「こちらこそ、ありがとうございます。」


「お姉ちゃん、またねー」


「また何処かで」

「お元気で」


 荷馬車の人たちと別れを告げる。

 また会う可能性は、かなり低いだろう。

 なので、彼らのこれからの人生を祈る。


 荷馬車は、今日のうちに、この町の先の町まで移動するとのこと。

 荷馬車の姿が停車場から移動していき岡の向こうへ消えていく。


 ふと、最前線の砦で、顔を見せずに去って行く同僚たち様子を思い浮かべる。


 私は帰るんだ。



 次の目的地になる都市行きの荷馬車を探す、停車場に案内所があったので確認して紹介して貰う。

 あと数回乗り継げば、私の故郷の村の近くの町へ行けそうだ。


 そして、数度の乗り換えで都市を渡り、幾つかの領を越えて移動した。

 移動自体は特に言うような事は起きなかった。



 最後の荷馬車を降りる、目的の故郷の村に近い町だ本来は通過する町で降ろして貰った。

 さて、まずは村と買い取りしている店に行ってみて、馬車が出ているか状況を確認かな。

 町の様子は、正直、村から出たときに見ただけなので記憶にも残っていない。


 この町は通過される事が多く、小さい。

 店だけでも数店しか無いので探すのは難しくないだろう。


 店が集まっている道に向かって歩く。

 衣服の店、肉屋、野菜屋、雑貨店、遠目にも判るように看板に絵が描いてある。

 取り敢えずは、肉かな? 村の狩人が狩ってきた物を売ることがあるから。

 野菜は、町に売りに出すほど余裕のある収穫量じゃないし、他は?


 と、考えていると声を掛けられた。


「マイじゃなのか?」


 突然声を掛けられる。

 振り向くと、がたいの良い青年がいた。

 でも、顔に見覚えがある、隣に住んでいるトムだ。


「トム、で会っているよね?」





 期せずして同郷に会えた。

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