第16話 帰郷への道「襲撃」
定期的に影の探索魔術を行使する。
動いている物に対して反応する基本的な魔術だが、反応は無い。
月明かりがある。
時折、流れてくる雲で月が隠れて暗くなる。
気にしすぎなら、それで構わない。
自分の収納の空間の中を確認する。
攻撃に使えそうなのはっと。
遠隔取り出しでの攻撃に使える剣は10本、うち7本は刃こぼれして廃棄予定品だけど。
ナイフも10本ある。これは全部新品だ。
遠隔収納、他人に試したことは無い、だけど、人間より大きな物を収納出来るので問題は無いだろう。
問題は数だ、一人では多人数を相手をしていられない。
場合によっては、自分の収納の空間に逃げるという手も使わないといけない。
その場合は、他の人を見殺しにすることになる。
他の人が信頼できるかも判らないし、助けるほど人間が出来ていない。
もし戦闘になったら、何処まで自分の力を見せるか?
遠隔取り出し、遠隔収納は可能な限り隠したい。
でも、そうなると、私の戦闘能力は低い。まともに戦いになるとは考えにくい。
起き上がり、固まった身体を伸ばす。
日の出まであともう少しか、遠くの空がほんのり明るくなってきている。
ガサッ
遠くの林から音がする。
気が付かない振りをしながら、探索魔術を行使する。
薄明るくなってきているので影ではなく風の属性で。
広い範囲で反応がある。風の場合、指向性はあるが正確性が落ちる。
夜明けまで後もう少し、明け方の眠りが深い所を狙っていたのか?
どうする?
身体をほぐす動きをする。
反応のあった方向への探索魔術を注力する。
反応が遠ざかっていく。
男性の様子をうかがう。
動いていないが、視線を感じる。
おそらく寝ている人を、気付かれないように全員殺そうとしていたのだろう。
だけど、私が起きていたから諦めた?
慎重なのだろうな。
もし生き残りが出て、盗賊の存在が知られれば、苛烈な捜索が行われる。
この王国内において犯罪行為が行われば管理者の資質が問われる、しかし、討伐出来たら功績になる。 なので、貴族は全力で取り締まる。
バレたら国外に逃げるしか無いが、国境までは距離がある。
私は暫く固くなった身体を動かして、寝ないことをアピールする。
「ちっ」
男性の声を耳に捉える。
男性は盗賊の仲間の可能性が高くなった。
とはいえ、何もしていないのに断定することは出来ない。
私は気が付かない振りをしながら、火を強くし、湯を沸かし始めた。
「おはようございます。寝れましたか?」
朝日が昇り始めた頃、荷馬車のおじさんが声を掛けてくる。 お湯をもらいに来たのだろう。
知らせておいた方が良いかな。
「いえ、林の中が騒がしかったので寝れなかったです」
おじさんは、最初意味が判らなかったのだろうか、怪訝な顔をしていたが、
私の言葉の意味を理解すると、明らかに青くなった。
「大丈夫だったのですか、とういか、こうしているのですから大丈夫だったのでしょうけど」
「盗賊は見つかれば大規模な討伐、捕まれば死にたくなるような刑罰が待っています。
私が起きていることで、全員を気付かれずに殺すことが出来ないと判断したのでしょう。
暫くして、静かになりました」
「あなたが居てくれて良かったです」
「……あの男性、仲間の可能性があります、が証拠がありません。
このあと、襲撃がある可能性は低いでしょうけど、注意は必要ですね」
「そうですか、気を付けるしか無いですね」
私は、おじさんが持っていたカップを受け取ると、湯を注ぎ渡す。
「私が軍に居たことで、警戒しているようです、ですので、私が居る間は多分大丈夫でしょう」
「では、都市まで着いた後では、襲われる可能性が?」
「いえ、大抵の盗賊は見つかるまでは移動しません。
ですので、あの男性は次の町かその先で降りるでしょう。
町の役場で、野営地で盗賊らしい一群を見たと、報告するだけで十分ではないでしょうか?」
管理する側は、被害を出さずに盗賊を討伐したとなると、大きな功績になる。
例え空振りであっても、討伐隊を出すだろう。
この辺の知識も、5年間の非正規兵の生活で身に付けたものだ。
盗賊の討伐任務があり、自由に動ける時空魔術師である私も一緒に参加している。
このとき、盗賊がどの様に行動することが多いのか、教えて貰っている。
「おはようございます」
「おはょぅ」
「おはようございます」
家族が起きてきた、男性も身体を起こしている。
「このことは内密に」
「はい」
私は、おじさんと示し合わせると、朝食という携帯食の準備を始めた。
この数日後に討伐隊が一つの盗賊を殲滅したが、私はそのことを知ることはなかった。
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戦闘を期待された方、すいません。
ただ、積極的に戦闘を行うのは、この主人公には違うと思うので。
これからも、大立ち回りな戦闘はたぶん無いです。たぶん。
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