第15話 帰郷への道「野営」
荷馬車の旅は4日を過ぎた、あと3日。
今までは村や町の宿に宿泊していたが、今夜は村や町の間隔が長いので都合上で野営となる。
この4日間の間で、家族連れと荷馬車のおじさん、若い人とはそれなりに会話をする間になった。
しかし、残りの男性が1人は、寡黙で最低限の挨拶しかしない。
おじさん曰く、そういう人もいるものだ、そうだ。
野営といっても、野営が行いやすいように整備された広場があって、野ざらしではあるが竈や、どこかの湧き水が引き込まれている。
荷馬車のおじさんは、逆方向から来た他の馬車や旅人と情報交換をしている。
時々笑い声がするところを見ると、どうやら不安要素は無いらしい。
基本的に野営では自分のことは自分で行う。
私は、野営は嫌になるほどやっているので、慣れた物だ。
焚き火に当たりながら、硬パンと乾燥肉、チーズと煮沸した水で、簡単な夕食を取る。
「マイさんは、慣れていますね」
一緒に火に当たっていた、家族連の旦那さんが話しかけてきた。
「まぁ、これでも軍に居ましたから」
ポンポンと背嚢を叩く。
「その若さで、では今回は休暇ですか?」
うーん、過去形で言ってしまったけど、退役とは言えないので、誤解して貰おう。
「はい、そんなところです」
「ちがうだろう」
例の男性が口を挟む。 余計なことを。
「若い兵が休暇を取得は出来ない」
まぁそうなんだけど。
若い兵士はある程度の任務が終わるまで休みはあるが、長い休暇は無い。
しょうがない、もう少し誤魔化すか。
「臨時で徴兵さたけど、任務完了ということで元に戻るんですよ。
この先、軍に正式に招集されることになると思うので、休暇といっても差し支えないかと」
「ふん」
男性は、また黙り込む。ちっとは謝罪してよ、ふん。
「お姉ちゃん、兵士だったんだ、お話聞かせて」
男の子が食い付いてくる。 まぁ、男の子は兵士とか好きだもんね。
「うーん、じゃあ、こんなのはどうかな?」
実際の作戦内容とかは、当然話すことは禁止されている。 守秘義務というやつだ。
なので、話せることは、移動中の事とか、変わった兵士のこととか、日常の当たり障りの無い所を話す。
それでも、男の子は興味津々に聞いていた。
だけど、私の注意は黙り込む男性に向いていた。
先ほどから、私と男の子の会話に耳を傾けている。
おそらく、私がどの程度戦えるのかを気にしているのだろう。
外見は小柄で、女である、力ではたいしたことは無いのは見れば判る。
でも徴兵されたのだ、となれば、私が魔法が使えるかを気にしてくる、要注意だ。
念のため、この移動中、一度も時空魔術を含む魔術は一切使用していない。
「その辺にしたらどうですか?夜も遅くなってきていますし」
奥さんが止めに入ってきた、ありがたい。
荷馬車のおじさんとお兄さんが、更に提案してくる。
「女性とお子さんは、荷馬車の中で寝て下さい、地面に寝るよりは良いでしょう」
奥さんと男の子、私は荷馬車の中で寝ても良いそうだ。
少し考える、荷馬車の中は安全だろうか?
ある程度密閉された空間だ、女子供3人が寝るとほとんど動けない。
いきなり押さえ込まれたら逃げようが無い。
「いえ、私は外で。野営経験あるので、問題ありません。
奥さんと子供で寝た方が良いでしょう」
辞退することにした。
昼間の間に仮眠を取ったし、寝なくても大丈夫。
「そうですか、では風邪など引かないように注意して下さい」
私は、そのまま火に当たりながら周囲を観察する。
おじさんとお兄ちゃんは、荷馬車の下で寝るようだ。
旦那さんも、荷馬車の近くで毛布にくるまった。
男性は、ん? 何処行った。
私には索敵のような周囲を詳細に調べる便利な魔術は使えない。
でも基本魔法の中には周囲の様子を探る探索魔術がある。
今回は、影の魔術を行使する。
といっても、影の中で動く物が何となく判る程度ではあるが、今はコレで十分だ。
広場の中には動く気配は、目に見える動いている人以外では居ない。
と、広場の端、林の中から広場へと反応があった。
顔を向けないように、その方向をみると、男性が出てきた。
トイレか?
それとも、盗賊で仲間と連絡を取ったのか?
ここでの襲撃の可能性は少ない、私達が乗ってきた荷馬車だけでなく反対から来た馬車と旅人が居る。 人数が多い。
とはいえ、護衛が居ない集まりだ、今夜が一番狙われやすい。
男性は荷馬車から少し離れた所で横になった。
火に当たりに来ない。
荷馬車のそばでも寝ない。
気にしすぎかもしれないが、今夜から明日は気を付けないといけないかな。
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