第13話 帰還への道「エピローグ」
事務官が要塞の主たる人物の辺境師団長の部屋を訪ねる。
「先ほど、非正規兵マイへの通達を終わりました」
「そうか、で?」
辺境師団長の質問は簡潔で曖昧だ。
「敵国、帝国側の人間ではないですね。
何かを隠している様子ではありましたが、おそらく彼女の上官の行動をかばっているのかと」
「そうか」
マイの上官は、実直に全てを報告した。マイを倉庫に閉じ込めてしまったこと、砦を焼落とすために見殺しにしたこと。
上官はその責任をとって、懲罰を受けた。
事務官はその全てを知っていて、マイの嘘を無視した。
「でも、よろしかったのですか?
収納量こそ少ないですが、制約が少ない使い勝手の良い時空魔術師ですが」
「代用はいくらでもきくレベルの時空魔術師だ、気にする必要は無い」
使い勝手が良くても、マイの収納量は大樽1つ分だ。
「了解いたしました。失礼いたします」
事務官は、退室すると、時空魔術師マイを思い出す。
13歳という年齢にしては、随分と大人びている。
これは5年の間、大人の軍人たちと暮らしていたせいか。
何かを見落としている?
そんな気がして仕方が無い。
確かに、最前線の砦から単独で帰還したことは凄いことだ、だが、それに何があるのだろうか?
ふぅ。
息を吐き、頭をふる。
マイとまた会う機会は多分無いだろう。
資料を読む限り、出身はかなり辺鄙な所にある村だ。
彼女は、そこで時空魔術師としての生活をするのか、村を出て何かを成すのか。
廊下を歩き出す頃には、マイのことはすでに記憶の底にしまわれていた。
『いまは西の民族の襲来に対応するための対策をまとめなくては』
■■■■
退役処理で私がやることは、説明を聞いて書類を読んで、サインをする、簡単なお仕事でした。
辞めさせられるのは、凄い簡単なんだ。
私の収納の空間に入っている物については、大樽の半分ぐらいの備品を適当に出して、空になったと申告した。
特に何も言われなかった。 元々、最前線の砦にあった備蓄品のほとんどは食料や廃棄予定の物とか、捨てるにも持って帰るにも困る様な物ばかりだった。
収納容量を誤魔化していなければ、全部出して処理して欲しいぐらいだ。
退役処理が済むと、所属が軍から離れるので要塞に居ることは認められない。
要塞の周りには、町が出来ていて、兵士相手の商売などが行われている。
その日のうちに、指定された宿に移動する。(無料で宿泊できた。)
自分の荷物はないのも同然だったので構わない。
予想外だったのが、自分の使っていた背嚢と装備の一式が貰えたこと。
(軍服は廃棄処理されたけど)
兵士が平時に着用する服も一揃え貰えた。
退役金、結構な額がある、一般兵の5年分はあるのではないか? 他にも運賃としてそれなりの額が渡された。
うーん、これは口止め料も含めていると考えれば良いのか?
時間が有ったので、移動の間に必要な物の買い出しを行う。
マントや保存食、それに飲み物、衣服も男性物を幾つか買いそろえる。
バラバラに購入しているので、収納量がばれる心配は無い。
出身の村の最寄りの町へ行く荷馬車を探したが無かった、まぁ、僻地だし仕方がない。
最寄りの町までは行く荷馬車が出ている可能性が高いと思われる大きな都市へも、幾つかの都市を経由していかないと行けないのだから当然だ。
まず最初に向かう都市へ行く荷馬車を見つけて交渉する。
元非正規兵ではあるが、戦闘職ではない。通常の乗り合い客としてお金を払って乗ることになる。
運良く、翌日に出発する荷馬車に空きがあり、乗れることが決まった。
泊まった宿は、可もなく不可もなしだった。
翌日。
近くの都市へ行く荷馬車に客として乗った。
お金は十分、軍から出ている。
見た目は、男装した、遠目では女子とは分かり難い。
愛用の短いショートソードも貰えたので腰に差す。
背嚢は自分が時空魔術師であることを隠すためのもので中は基本的な装備を入れてある。
軍に入った経験がある人が見れば、軍関係者と判るかもしれない、だが、そういう人はそれなりに居るし、背嚢を売ってお金に換える人も居れば、中古で購入する人も居る。
「おじさん、護衛としては期待しないで下さいよ。非戦闘職だったので」
「あいよ」
手綱のを持ったおじさんは、背嚢を見て気にしていたが、気楽に返答してくる。
国内の移動は、比較的安全ではあるが、盗賊などはやっばり出る時には出てきてしまう。
完全に安全ではない。
御者をしているおじさんとその息子? 弟子? らしい若い人の2人が、この荷馬車の持ち主のようだ。
客として乗っているのは、私と家族連れ3人、そして、男性が1人、武装はしていないけどガッシ リとした体格をしている、一応気にしておく。
最寄りの都市までは、7日。その間は村や町を経由して移動する。野宿もあるそうだ。
最寄りの都市から、生れ故郷である村まで、領を幾つか経由して移動する、多分数十日は掛かる。
山間にある小さな、名もない村、私の生まれた村へ8年ぶりの帰郷である。
手紙は出しているが、今も両親と兄弟は元気だろうか?
(手紙は贅沢品だが、兵務に付いている者は年に1回だけ手紙を出すことが認められている。)
荷馬車が動き出す。 石畳の道から程なくして土の道に変わる。
荷馬車から要塞が小さくなっていくのを見ながら、これからの生活に思いを寄せていた。
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