第12話 帰還への道「死人」
硬いベットの中で目が覚めた。
見慣れない天井だ。
ここは敵国との間にある山脈群の中にある唯一の道の、我が国側に作られた山脈群に入るための要塞だ。
この要塞は、絶対に敵国の攻撃を退けるための重要な施設になっている。
常駐している兵力も、国の中でも辺境師団と呼ばれる実戦重視の部隊だ。
とはいえ、敵側がこの長い道を来ることはまずないので、実際に戦闘になったことは記録上、一度も無い。
辺境騎士団も、どちらかというと、東西の混乱に対応出来るように、中間位置で待機しているような状況だ。
支給された一般服を着る。
元々着ていた服は、もうぼろ切れで廃棄とのことだった。
コンコン
ドアをノックする音がする。
入室を促す返事をする。
いかにも事務職な細身の人当たりが良さそうな方が、朝食を持ってやってきた。
要塞の門で会った事務官の人だ。
「ん?」
初日は兎も角、普通は食堂での食事になるはず、また事務官とは言え、実働部隊と違いこのような雑用をすることはまずない。
他人には聞かせられない。つまり、あまり良い知らせではないのだろう。
でも、私は魔術師である、非戦闘とはいえ貴重な戦力であるはずだ。
「おはよう、よく眠れたかな? この要塞で事務官をしている。
食事を取りながらになるけど、幾つか質問をさせて欲しい」
「はい、構いません」
朝の食事としては豪華だ。 下級士官用かもしれない。
柔らかそうなパンにバター、具のあるスープ、サラダ、そしてジュース。
失礼にならないように、気を遣いながらゆっくり食事をする。
「まず、君が輸送部隊、非正規兵、時空魔術師のマイさんであることは確認が取れました。
死亡したとの報告を受けていましたので、念のための処置です、ご了承して下さい」
「あ、いえ、当然かと」
「次に、マイさんがどの様に戻ってこられたのかを知りたいのですが、説明をして頂けますか?」
「すいません、その前に日付の感覚が分からなくなっています、一体何日たっているのでしょうか?」
バターを塗ったパンを口に含む。美味しい。
「部隊がこの砦に戻ってから40日が過ぎています。
最前線の砦から、この砦までは20日掛ったそうです。
つまり、60日を過ぎています。」
時期としては、そろそろ寒くなる時期だ、冬の事を考えていなかったな。
寒くなっていたら、いろいろ大変だった。
一応、収納の中には冬装備も有ったけど。
そんなに掛かっていたか、でも、どんな風に報告するのかは決めてある。
「そうでしたか、まずは簡潔に。その後で不明点・疑問点は質問をして下さい。
最前線の砦を火で崩したとき、私は”退避が遅れ”巻き込まれました。
目を覚ましたときは、岩と岩の隙間の中に収まっており、幸運にも、かすり傷だけで生き残ることが出来ました。
すでに周りにも誰も居なく、どの程度、気を失っていたかは判りかねます。
まず、無事だった物資の中から、食料などを収納し、帰路につきました。
しかしながら、途中から雨に降られ、道が川となり、水量が少なくなる所を見計らいながら、移動を続けました。
途中、不足した食料を山から調達したり、山犬の襲撃を逃れたり、雨の中での待機を含めての移動になってしまいました。
60日も経っていたんですね」
事務官の目は優しそうに見えて、鋭い眼光を放っている。
嘘を言えば、あっという間に見破るだろう、だから嘘は言わない、本当のことは全て話さないだけだ。
「そうでしたか、苦労されたようですね。
食料の補充は狩りをしたのですか?」
ん?退避が遅れたという所は、気が付いているはずなのに無視した?
「いえ、私は戦う力はありませんが、山に囲まれた村の出身です、食べられる植物に関してなら知識はあります。
収納してある食料も限られていましたから」
これも本当だ、実際、携帯食だけでは飽きてしまったので、山菜や果実を取って食べている。
「戦う力が無いのに戻って来られたのは、すなおに賞賛します。
さて、マイさんの処遇についてなのですが」
一通り食べ終わって、ジュースに口を付けたとき、本命がきた。
60日で帰還するには、長いのか短いのか判断出来ないが、疑問を示さないのは、聞く必要が無いと言うことか。
「マイさんの死亡記録はすでに確定してしまっていて、今から訂正は難しいです。
また、マイさんの従軍が5年となっていること、未成年であることから、死亡退役という扱いになりました。」
除隊でもなく退役でもなく、死亡退役?
え?ちょっとまって。
「えっと、その、只の退役ではなく?」
「はい、死亡退役で非正規兵から名誉非正規兵として処理されております。
死人扱いということ?
「混乱しています、私は死んだ、ここには存在人間になってしまうのでしょうか?」
「いえ、軍の記録上の話です。軍の処理は厳密で訂正は重要な案件以外はほぼ無理です。
ですので、マイさんは、ちょっと特別な退役という認識で良いですよ」
ニッコリと笑いかけてくる、がその笑顔が作り物ぼくて怖い。
「通常の国民に戻るという認識で構いません。また、死亡となっているので除隊とはなりません」
除隊だと、自動的に予備役として登録され、徴兵される可能性がある。
退役は、戦う能力が無くなったということで、軍から完全に切り離される、徴兵の可能性は基本ない。 年齢や怪我などが一般的だ。
「ただ、軍では管理の都合上、国民としての登録が出来ないので、マイさんの出身の村に行かれて、再登録をお願いしたいと思います。
その為の書類は用意いたしますし、移動に必要な経費もこちらから出ます」
つまり、村に戻って再登録するまで、国民ではないのか、気を付けないと。
軍での指示は反論することは出来ない、決定事項を告げているに過ぎない。
「了解いたしました。非正規兵マイ、受領いたします」
「話が分かるかたでよかったです。 給与についても多少多めに出るでしょうから、ご実家で再出発には良い機会でしょう」
「はっ」
事務官の人は、私の食べ終えた食器を持って出ていく。
ちょっと現状の整理が出来ない。
ベットに寝転がる。
帰還したら死人になりました。
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