第11話 帰還への道「要塞」

「時空転移かな?」


 時空魔術師が使う転移なのだから時空転移が適当なんだろうけど、遠距離収納とか色々あってこれという名称が思いつかない。


 帰るための目星がついた。

 実際の所、生きて帰れる可能性はかなり低いと思っていた。


 でも、この時空転移があれば可能性は一気に高くなる。



 検証では、 場所の都合で10メートル程度を繰り返した。

 魔力消費も気になるほどではない、制御も出来てた。 問題は瞬間的に消費される魔力量だ。

 あの崖の上に移動するのにどの程度の魔力を消費するのか、だ。


 山間の場所では、長距離を試すことは難しい。

 短距離を何度か繰り返して、身に付けたら、一気に飛ぶ。



 それから、さらに数日。

 私は、時空転移をひたすら練習した。


 最前線の砦から出て、何日過ぎたのだろう?

 日数の計算をしていなかったので、判らない。


 また、攻撃手段として、遠隔収納による敵の収納、

 遠隔取り出しによる、武器での攻撃。


 手数が増えてきた。

 術式化は出来ていない、まだイメージと手順頼みの魔法だ。



 短距離の時空転移に自信を持って行えるようになった所で、崖の上への転移を決める。

 準備は、ほとんど必要ない。

 散らかした荷物を背嚢に押し込んで収納する。これで終わり。



「やるぞ」


 言葉に出す。



 果実がなっている木を目標にする。 その距離50メートルか。

 時空魔術を展開する。

 視界が歪み切り替わる。



 目の前に、果実がなっている木がある、成功した。

 が、いきなり魔力が消費され、酷い頭痛と倦怠感が襲ってくる。


 思わず吐く、咳き込んで、吐いて転がる。

 予想以上に負荷が大きかった、見積もりが甘かった。

 おそらく、距離が長くなる毎に消費する魔力量が跳ね上がるのだろう。

 予想はしていたが、それ以上だった。


 身体が麻痺して、自由が効かない。

 それでも、心は違った。


 飛べた。

 転移できた。


 歓喜が心を占める。

 悲鳴を上げ続ける身体を無視して私は歓喜した。


「あははははははははははははは、げほっ、はっははははは、げほげほ」



 暫くして、麻痺が治まり、何とか身体を起こす。

 山脈群はまだまだ続く、山脈群の入口にある要塞までどれだけあるのかも判らない。

 でも、心の中にあった不安はもうない。


「さぁ、帰ろうか。」


 私は、川になった道と山深い山脈群を見つめながら、宣言した。



■■■■



 それからは、同じ事の繰り返しだ。

 出来るだけ徒歩で移動して、大きく迂回しなくてはいけない場所は時空転移を使う。


 10メートルまでなら、身体に負担をかけずに時空転移が出来るようになった。

 それを越えると、途端に負荷が重くなる。


 山犬の群れにも遭遇した。

 山犬は基本的に人間を襲わないのだが、人慣れしていない山犬は場合によっては襲ってくる。

 相手の方が鼻も耳も良いので、こちらが気が付いたときは大抵囲まれている。

 でも、不安はもう無い。

 遠距離の攻撃を行う、背後からの攻撃で混乱した群れを、殲滅は出来ないけど、急所に当たったことで何匹か倒す。

 相手が警戒していても関係ない、背後からの攻撃を何度かすると、群れは危険だと判断したのか逃げていった。


 夜は、自分の収納の空間で安全な睡眠と食事が取れる。



 途中にある幾つかの砦はどこも無人だった。

 雨の年が始まったと判断して、撤収したのだろう。

 板を打ち付けて入れないようにしてあった。

 また、門もはずされ、道だった所は川が流れている。



 順調に進む。


 かなり戻ったのだろう、川の横に道が現れた。

 要塞まで距離が近くなっている、山脈群の終わりが近くなって、幅が十分にあるので川を道にする必要が無くなり、川に沿った道が作られている。


 道を歩く、もう大丈夫だ。

 急ぎたい気持ちを抑えて、一定のリズムで歩くことを心がける。



 そして、数十日を過ぎたのだろう、ある日。

 山脈群の入口に作られた大きな要塞に到着した。


 自然と、足が速くなり門に駆け寄る


 要塞の門を叩く。

 のぞき窓から顔が出てくる。

 何事かと、気の抜けた様子だ。


「北方辺境師団、輸送部隊、非正規兵、時空魔術師のマイであります。最前線の砦から帰還しました。」


「はぁ?」


 疑った目で見てくる。

 当然だ、最前線の砦から本来の道を使っても少なくても2週間は掛かる。

 雨の年の中だ、普通は帰ってくること自体ありえない。


 でも、非正規兵の装備(一応、砦に来る前に洗った)を装備しているし、受け答えもちゃんとしている。


「まってな」


 顔が引っ込む。


 のぞき窓の奥から何か話をしている声がしているが、聞き取ることが出来ない。

 たっぷり30分以上待たされて、扉が開く。


 ある程度上位の階位を持つ人であろう、筋肉質でいかにも前線で戦う戦士の様相だ。


「マイだったな、身分証を提示しろ」


「はっ、これになります」


 身分証を受け取り、そしてそばに居た事務官の人にも見せ、小声で何か話す。


「ご苦労だった、まずは休め。

 すでに、君がいた部隊は別の任務に就いている、今後については決定次第通達する」


「了解いたしました」


 身分証を返して貰い、近くの兵士の案内で、非正規兵が使う小さい部屋を当てがわれた。

 暖かい食事が運ばれ、久しぶりに料理と呼べるものを食べた。






 私は帰還した。

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