第10話 帰還への道「転移」
ちょっと落ち着こう。
私は冷静だ、うん冷静だ、たぶん。
理解できない。
なんで、崖の上の木になっている果実が、今手の中にあるんだ?
そして、異常なほど消耗した魔力。
考えろ。
自分は一体何をしたんだ?
木の果実を見た。
収納している水筒を取ろうとした。
”実を取ってみたい”と考えた。
果実を掴んでいた。
……
「これは転移か?」
兎も角、魔力を消耗しすぎている。
体力は問題ないが、気力となにより動転してしまっている。
休憩エリアまで戻る。
転移魔法。
例外魔法の中でも、使い手が非常に少ない魔法だ。
私も、使い手を見たことがない。
資料を読んだ限り、転移魔法の術式、転移魔術も理解できない内容だった。
ただ、自分がやったことが転移魔法であるか、と言われると違うと思う。
私がやったのは、自分の収納の空間を通して、離れた所の果実を収納して取り出した、だ。
考える。
なんで、離れた場所の果実を収納出来た?
しかも、収納の空間から。
目視できたから?
目視しながらなら、遠くの物を自分の収納の空間を経由して収納することが出来る?
自分の魔力の残量を確認する。
急激に減っただけで、総量自体はそんなに減っていないようだ。
気力も回復している。冷静にはなっているか?
集中しすぎて地面を見ていた顔を上げ、10メートルぐらい離れている所にある石を見つめる。
時空魔術を発動させ、中の物を取り出すイメージと、離れた所の石を収納するイメージを組み合わせる。
目の前の空間に手が現れて、石を掴む。
ドクン。
心臓が大きく撥ねる、汗が噴き出るが、冷静になるよう気合いを入れる。
果実の時ほどではないが、魔力が急激に減っていることが判る。
そのまま、石を掴み収納し取り出す。
自分の手の中に石がある。
ドクン。ドクン。
心臓の鼓動が大きくなる。
これは?
もう一度やる。
今度は、目標をみた後、目を閉じて。
できた。
多少、手探りになったが、上手くいった。
今までは、手に触れた物を収納することができた、だけど、収納の空間を経由すれば、離れた所の物を収納出来る。
ドクン。ドクン。ドクン。
『じゃ、逆も出来るのでは。』
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。 心臓がうるさい。
時空魔術を発動し、手に持った石を収納し、離れた所の地面に、取り出す。
石を持った手が現れて、地面に置く。
手を引き抜いて、時空魔術を終了させる
できた。
心が躍っていることを隠せない、汗が粒になり、心臓の音は激しい。
これを使えば、あの崖の上に移動できる?
汗が流れ落ちる、時空魔法は荷運び魔法と
顔がほころぶが、検証が必要だ。
私はここに暫く居て、この謎の現状を検証し、身に付けることにした。
それから私は、自分の時空魔術について再検証を進めた。
まず、魔力の急激な消耗が懸念だ。
短い時間で素早く行う。 これは練習あるのみ。
生きている物を運べるか?
ネズミを捕まえて検証する、問題ないようだ。
大きさはどうか?
大きな石を試した、取り出すときに注意が必要だが、問題ない。
遠隔収納(と名付けた)を行って、取り出さずにそのまま、収納。
可能だった、ただ、制御が難しい。
遠隔取り出しだけを行う。
収納されている石を、離れた所へ取り出す。
出来た。遠隔収納と同じくらいの難易度だ。
日が過ぎる事を全く気にせず、夢中になって検証を続けた。
収納されている兵士の武器を使って、遠距離の攻撃が出来る。
自分の腕力が非力であるので、威力は無いが、相手の死角から急所へ攻撃できる。
大きな力だ。
そもそも、遠隔収納で取り込んでしまえば勝ちだ。
同時に複数の収納と取り出し、その遠隔版を行う。
元々、運搬役として酷使されてきたので、両手での同時収納は出来ていた。
それをやってみる。
2つまでなら出来たが、それより多く3つは無理だった。
やろうとしたとき、腕が引きちぎられる痛みに襲われた。
今のところは、自分の手の数だけと言うことだろうか?
何度も行ったことで、発動に必要な時間はだいぶ短くなった。
それに供って、消費魔力も少なくなってきた。
そして、最もやりたかったことを検証する。
自分自身の遠隔取り出し。
失敗の可能性は十分ある、可能性がどの程度有るのなんて判らない。
でも、これに成功すれば、絶望的だった帰還に可能性が出る。
深呼吸。
「すー、はー、すー、はー」
自分自身の収納はもう何度もやっている。
この休憩エリアでも、夜は自分の収納の空間で寝ている。
問題ない。
目の前にある岩を見る。
その前をイメージする。
時空魔術を発動させて、自身の収納、そして遠隔取り出しを行う。
瞬間、目の前の光景が切り替わる。
目の前に岩がある。
できた!
魔力の急激な消耗も、予想していた範囲内だ。
ふらつくが立っていられる。
変則的な方法ではあるが、自分自身を”転移”させることができた。
誰も居ない場所で、私は両手の拳を振り上げて、叫んだ。
「できたどー!」
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