第8話 帰還への道「例外魔術」

 たっぷりと睡眠を取って、収納の空間から出る。

 何となく、コツを掴んできた。


 休憩エリアに立って、地面に目を落とす。

 足下には沢山の狼と思える足跡が残っていた、うん、群れが来たんだなぁ。

 群れは、遅れた老狼を迎えに来たのか、目的は判らない。


 兎も角、進もう、太陽の位置はまだ朝だ。



「時空魔術にも攻撃? 手段があるのだなぁ」


 収納して倒すのが正しい攻撃とは言えないが、相手を倒せるのだから攻撃手段といって良いのだろう。


 ここから数日、山の斜面伝いに移動して、川幅が広く水深の浅い川では歩くとういうこと続けて、ひたすら移動していた。



 歩きながら、つらつらと空間魔術について再検証をしていた。


 時空魔術は以前説明したとおり、収納の魔法技術を学び使うことが出来る魔法使いが使う魔術である。

 収納した空間の時間の流れが一定では無いこともあるから、時間にも影響があるということで時空魔術という仰々しい名称になっている。

 時空魔術師の特徴に、ともかく法則性が無いことがある。そのため体系化が出来ていない。

 そして、収納することによる代償が発生することが多い。


 例えは。

 収納する物の量に合わせて体重が増加する。 または、動きが緩慢になっていく。 収納中は魔力を常に消費する。 体型が変化する。

 収納した物の時間が極端に遅く(または止まる)もの。 その逆に時間が進んでしまう。

 生物を収納出来る、というのも時空魔術師としては珍しいがある。 ただ、収納した空間が生物にとって快適な空間である可能性は少ない。

 そして、時空魔術師の禁忌である、自分自身を収納する。 これは、生還できた者が一人も居ないことから禁止されている。

 時空魔術師の収納量は、平均して倉庫1つ分(大樽だと50個分)と大きな容量を持つことが多い、そして容量が大きいほど代償となる制限が強くなる傾向にある。

(時空魔法使いは、容量が少ない代わりに代償が少なく、また、技術として魔術を習得していないので安定して収納出来ない欠点がある)


 さて、私の場合、だ。

 最初は大樽1つ分の容量で、時間の流れは現実と変わらず、収納重量の影響を受けず、出し入れの時のみ魔力を消費する。 という、容量以外では比較的使い易い特性がある。

 使い勝手の良さから、重い物を一般の兵と一緒に運ぶ任務が多かった。

 水くみや、土石の除去、他の容量が多い時空魔術師と異なり、雑用ばかりだ。

 そして、代償でろくに動けない時空魔術師の面倒までやることになっていた。


 今の私の時空魔術師としての能力については?

 検証する時間がないのでよく判らないが、空間の時間の流れは現実とほぼ同じ、収納した重量の影響も受けない、出し入れの時にのみ魔力を消費する、というのは変わらない。

 大きく変わったのは、収納量が大幅に増えていること、そして、生き物を収納出来て、自分自身も収納出来て取り出すことが出来る。 代償は今のところない。

 この能力がバレたら、どうなるのか判らない、確実のレア(貴重)な使い手になってしまっている。


 隠そう。

 本来、自分の能力を偽るのは重罪ではあるのだが、非正規兵である私が貴重な戦力となると、今後どの様な扱いに成るのか判らない。 最初の能力のままで思われていれば良いかな。



 時空魔術は例外魔法に区分されている魔術である。

 例外があるのだから、そうでない通常魔法がある。


 通常魔法は、光・影・火・水・風・土、の6属性が該当する。

 体系化され魔術としてある程度完成していて、使える使えないは兎も角、威力や必要魔力量、制御能力など、その魔術を行使する上で必要なことが理論として構築されている。

 また、自然界にある物質や現象であることも体系化できたことの大きな要因だと言われている。

 魔術師でない魔法使いも通常魔法の属性のどれかを使用することが大半を占めている。


 例外魔法は、魔法の体系化が不完全だったり全く出来ない魔法をさす。

 種類は、聖・闇・時空・転移・錬金などなど、まぁ、通常魔法、以外全てを指す。



 なお、よく誤解されるのが、光・影と聖・闇で、全く異なる。


 光・影は、そのまま、光であり、影である、自然現象を魔法で再現している。


 聖・闇は、能力が規格外で訳が分からない。

 聖は、浄化や回復、祝福とかで、大抵は教会が囲ってしまうので魔法学校での研究が進んでいない。

 闇は、精神、感情への干渉、呪いやアンデット生成など、一般の人から険悪なイメージを持たれるもので、公に研究はされていないし、詳細も不明だ。

 場所によっては、使えるというだけで、差別や排除の対象となってしまうのも原因かな。

 心の病に関しては有効なのだけど、一般的に知られていない不遇な属性だね。


 転移、希少な魔法で、魔術師ともなると物を(大抵は目視)できる所へ移動させる事が出来る。

 逆に遠くの物を取り寄せることも出来たりする。

 どれぐらい何を、についてはそれぞれの魔術師の個性というかこれも規則性が判らない。

 なにより、なんでそんなことが出来るのかまるで判っていない。

 伝説には、自分自身や他人を世界のあらゆる所に転移することができた転移魔導師がいたとか?


 錬金。 金を無から作り出すという逸話があるが、基本的には幾つもの種類の混ざっている鉱物から、特定のものを取り出すという魔術。

 だから、金が含まれている鉱物があれば、金を取り出すことは一応できる。

 それが基本なんだけど、全く未知のものを生み出したりするのと、その手法が儲け話に繋がりやすいことから狙われやすく秘密主義な使い手が多い。


 その他にも、毒や精霊など、色々あるが、どれも使える魔法使いが少ないこと、確認できないこと、何かしら使う上で問題が有ることなどから、魔術師も少なく体系化できるほどの研究が進んでいない。

 そもそも分類として認められていない物も多い。






 と、つらつらと考え事をしながら進んでいたら、行き止まってしまった。

 目の前に広がる風景を、私は感情が抜けた顔で見ていた。

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