第7話 帰還への道「戦闘」
一晩が過ぎた、目が覚めると雨は止んでいた。
たぶん、雨の年に入ったのではなく、普通に降った雨なのだろう。
とはいえ、数日は道は使えない。
山の斜面伝いに進むしかない。
ぬかるんだ斜面を慎重に移動する。
何日掛かるのか判らない、が、考えても気が滅入るだけなので、移動することだけに集中する。
樹木が密集しているので、落下する危険は少ない。
兎も角進む。疲れたら休む。
そして、2日を経過した。 まだ崩れた砦が遠くに見える程度しか進んでいない。
だけど一つの目的地にたどり着いた。
谷間の道を移動するとき、雨が降り道が川になって移動できなくなることがある。
そういうときに避難するための休憩エリアが何カ所も何年にわたって作られてきている。
水源と、料理をおこなう かまど、雨風を防ぐための屋根もあるところある。
一番近い休憩エリアにたどり着けた。
久しぶりに平らな地面に思わず横になって一息つく。
「今日は火をおこして、スープとか少し豪華にしたいな」
石組みだけの崩れかけのかまどの所に行き、収納から薪を取り出そうとしたときだ。
ワォーン
遠吠えが聞こえた。
狼か山犬か、判らない。 山肌に反響して場所も判らない。
声を抑えて気配を消す努力をする。
私は非戦闘員である。
一応、かなり短いショートソード(断じて大きなナイフではない
兵士に簡単な素振りや使い方を教えて貰っているが、子供の女の細腕では期待できる威力は無い。
剣の打ち合いも、毎回遊ばれているだけだ。
魔術も通常魔法の基本6属性は一通り使えるが、威力は低すぎて戦闘では主力にはならない。
時空魔術はそもそも戦闘向きじゃない。
どうしようか?
山犬は基本的に人間を襲わない、けど空腹なら判らない。
狼だと最悪だ、確実に獲物として見られるだろう。
群れで来たときは絶望的だ。囲まれて、じわじわ体力を削られ、ひと思いに噛み殺される。
川に逃げるしかない、が、この場所の川の流れは敵国側だ、逆戻りしてしまうことになる。避けたい。
しかも、崩れた砦の先は坂になっていて、ここに入れば只ではすまない。
ガサッ
草の音がする、ノロノロ出てきたのは1匹の大きな狼だ。 年を取っているのだろうか? 毛並みも悪く白髪が目立つ、迫力も少ない。
対峙して、剣を抜いて構えるが襲いかかってくる気配がない。
群れについて行けなくなったのだろうか?
ともかく、1匹だけというのは最悪中の幸いである。
空腹なのが判るほどお腹が凹んで痩せている。
戦うしかないか、でもどうやって?
「老い先短そうだから、山に戻って余生を過ごさないかな?」
言葉が分かるわけでもないのに語りかけてみる。
グルルル
警戒音が強くなっただけだ、こちらも覚悟を決めるしかない。
片手で剣を持ちち、精一杯相手に向ける。腰が引けているとはいわない、たぶん。
狼は、ゆっくり距離を詰めてくる。 頭が良い獣だ、剣を警戒してはいるが、私を恐れているようなそぶりが全くない。
どう戦うのか、私は決めあぐねている、というより判らない。
動揺を悟られないように、無表情を無理矢理作りつつ、ゆっくりと下がる。 冷や汗が止まらない。
が、下がった足に石が当たり注意が一瞬そっちに向いてしまう。
気が付くと狼が飛び上がり、腕に噛み付こうとしていた。
反射的に腕を引き、もう片方の腕で殴ろうとして、狼の前足に触れる。
なにも考えていなかった、無我夢中だった、その時私は、狼を”収納”した。
突然居なくなった狼と、腰をから倒れた私。
「は?」
座り込んで、理解するのに少し時間が掛かった。
「収納してしまったのか」
時空魔術を使い、収納空間の中を確認する、狼が居るのが判る。
状況が理解できないのかその場でもがいている。
少し考えて、私は狼を殺した。
方法は簡単だ、元々私の収納魔術は生物の収納は出来なかった、それが、経験と共に出来るようになった。 生きていける空間を作れるようになったといえる。
では、その空間を生き物が生きていけない空間にすれば良い。
球の様な物が狼を包み込む。
狼は、少しの間もがいて、けいれんして、動かなくなった。
触れないと発動しない制限はあるが、一応、私にとっての強力な攻撃手段が誕生した瞬間である。
普通なら喜ぶ所だけど、実感がわいてこない。
まだ、地面に座り込んだままだ。
そして、群れから離れた個体が居ると言うことは、群れが近くに居る可能性だってある。
私は悩んだあげく、簡単な食事を取って、自分の収納空間に入って休むことにした。
疲労が溜まっていたというのもある、とにかく安全な場所で休みたかったのだ。
クリーム色の空間に入って、木箱のベッドの上で眠りについた。
まさか、自分の収納空間をまた使うことになるとはなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます