第6話 帰還への道「谷間の道」
「川が流れている」
これは『雨の年』が始まっていることを示している可能性がある。
この国では、大体5年周期で雨の年と晴れの年を繰り返している。
と言っても、一年中雨が降るのではなく雨が比較的多く降る、晴れの年も晴が比較的多い、の違いでしかない。
だけど、このわずかの違いは大きい。
農作物も雨の年と晴れの年では、育てる作物の種類は異なる。
整備されていない道では、馬車の運行が難しくなるし、水害の可能性が増える。
逆に晴れの日が続き干ばつの災害もある。
流行する病の種類も異なる。
そして、この残骸となった砦のある最前線では、この雨の量が増えるということは重大な意味を持つ。
この砦のある場所は、山脈群の中で谷間の川が干上がって出来た所が道として奇跡的に敵国と繋がった、唯一のまともな道になって繋がっている。
道は山脈の間を縫うように蛇行しており、その総距離は数百キロ以上はあるらしい。
谷間は、細い場所では馬車も通れず、結局、荷馬と徒歩での移動しか無い。
雨が降れば簡単に川になる。細い場所では濁流になる。
そして、雨の年では、ほぼ一年中 道は本来の川となって、通行することが出来なくなる。
雨の年は敵国との交戦は休戦状態となる。
そして、晴れの年になって、お互いに砦を作って陣取り合戦を行うのである。
なんで、こんなことをしているかというとだ。
何百年か前、敵国と国境線の交渉をしたとき、敵国は山脈群全てを自国領であると宣言した。らしい。
当然のごとく私のいる国は拒否した。
結果として実効支配を示す国境としての砦を作るため、お互いに場所の取り合いを始めたと言うことだ。
まぁ、この国の歴史書なので、この国にとって有利な表現になっているけど。
そして、今回の晴れの年では、なんか自軍の進みが良くて(敵国側の動きが遅かった?)、いつも以上に進軍し砦を構築するに至った。
良いことではない、補給線がとても長くなる、補給も兵士の交代もとても負担が大きくなる。
なので、維持をするのも大変なので、損耗を可能な限り避けた、その結果として戦闘らしい戦闘が無い辺鄙な最前線が出来たという訳なんだ。
だから今回の最前線の砦も壊すことを前提で作られていた。
意識を、今の現状に戻す。
天気のことなので、たまたま雨が降っているだけかもしれない。
私の収納の時間経過は、実空間と大差ないはずだ。
つくづく、検証する時間が取れなかったことが悔やまれる。
問題は、帰国する事が難しいという事だ。
今、道は使えない、雨が止んでも水が引き道として使えるまで何日待つのか。
取れる手段として、切り立った山の斜面をゆっくりと移動するしか無い。
地図も無い、というより、ほぼ1本道のこの道では不必要だし、機密情報扱いの詳細な地図は大きな砦や上級の指揮官が居る場所で厳重に管理されてる。
私のような、非正規兵や一般の兵士が見ることが出来る物では無い。
なので、ここが山脈群の何処で、どの方向が自国であるかも判らない、道伝いに帰るしか方法はない。
辺りを見渡し、切り立った崖の下に雨を避けられそうな場所を見つけて移動する。
川下側には、見事に崩れた砦から崩れた岩々がある。 私が出てきた場所を見ると、どうやら収納を行った倉庫のあった場所らしい。
出入りする場所は固定なのかな?
検証したい。
が、今は戻ることが第一だ。
雨が降る。 考える。
自分の収納空間に入れば雨を気にしなくて済む、寒さもしのげる、でも何度も成功するのだろうか?
収納空間からマントを取り出し、丸まる。
時空魔術とは何だろう? 改めて気にはなったがそうも言ってられない。
「うーん、この状況は予想していなかった」
静かな雨音を聞きながら、私は背嚢を取り出し、残っている携帯食で食事を始めた。
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