第5話 帰還への道「残骸」

 木箱の上で、目を覚ます。

 たっぷり寝れたようだ、思いっきり伸びをして、辺りを見渡す。


「くふぁぁぁ~、はぁ、うん何も変わってないなぁ。」


 私の周りには、眠る前に見たクリーム色の空間が広がっている。

 お腹は、空いていない。


「さてと、やりますか」


 声に出す、声に出して不安を取り除こうとする。

 出来なければ、この空間で一人でゆっくりと死ぬことになる。


「まずは、いつも通りに取り出すイメージで」


 空間魔術で物を取り出すイメージで、自分自身を取り出すイメージをする。

 魔法が働いた感触があった、が、なにも変わらない。


「うん、一発で行くとは思ってなかった

 つぎは、外の空間を認知する」


 いつもの逆、中の空間を意識して収納したものを取り出すこと、の反対を行う。

 集中する、収納する前に空間を意識する、その逆、外の空間を意識する。

 魔法が働いた感触がある。 がなにも変わらない。


 ……

 冷や汗が流れる。

 簡単にはいかない、とは思っていた、だけど考えられる手数も多いわけではない。


「焦るな、焦るな」


 自分に言い聞かせる、冷静にならないと出来ることも出来なくなる。

 次は、収納を行う、外には多分岩と焼けた木材がある、たぶん。

 私の能力では直接触らないと発動しないが、、、ダメ。

 では、収納している物を外に出す、、、、ダメ。


 何かないか、何か見落とししていないか?

 意識がグルグル同じ所を回り出す、焦りから、恐怖がわいてくる。


「泣くのは、全部やりきった後」


 涙が目に溢れてきているのは、袖で拭って誤魔化す。


 改めて、最初に戻る。

 私が時空魔法を使う時の手順を思い出す。

 触れた物をそのまま収納し空間に入れることが出来る。

 しかし、才能を見出されたときは、どうだったか? 思い出す、教科書に書かれていた手順だ、そして何百回と繰り返したこと。 身に染みついたこと。

 収納する空間を意識すること、本来の空間との接触する部分を意識する。 意識できたら、空間の出入り口を作り、収納したい物を意識し、収納する。

 取り出すときも同じだ、収納する空間を意識し、接触する部分を意識し、収納した物を意識し出入り口を作り、取り出したい物を意識して取り出す。


 ん?

 引っかかるものがある。 心がもやっとした。

 最初に試したとき、何か見落としていないか。


「あっ、逆だ」


 今居る場所は、私の作り出している収納の空間だ。

 なら、収納空間に対して操作する事自体は変わらない、でも、今回は収納の空間から取り出す、それを収納の空間から行う。


「はぁぁぁ、ふぅぅぅ。」


 大きく息をして、集中する、心を静める。目を閉じる。


 手を胸に当て自分自身を意識する、外の空間を意識する、収納の空間との接触部分を意識する・・・できた。

 空間の出入り口を開く、目をつぶっているので開いたという感触しか判らないが、できている。

 自分を、外の空間に収納する。


 フワッと身体が動く。

 そして。


 ベジョ


 元の空間に戻れた、が、土の斜面に落ちた。


「わぁぁぁ!」


 そして、斜面を滑り落ちる、泥まみれになりながら必死にもがいて何かに掴まろうともがく。

 運良く、緩くなったし斜面の所にある岩にお腹をぶつけて止まった。「うげっ」何ともみっともない声が出る。


 顔を上げて、周囲を見渡す。


「戻ってきた!」


 岩の上に寝そべったまま、思わず両腕を振り上げる。

 私の知っている記録上、収納の空間から戻ってきた最初の時空魔術師だ。


 霧のような雨が降っているが昼間のようだ、体感では睡眠を入れても1日半程度のはず。


 崩れた砦をみる、設計通り敵国方向へ岩が崩れている。

 燃えた柱や壁は、消えて すっかり冷えている。

 私の目の前に砦の残骸が広がっていた。






 そして、足下に絶望的なものが流れていた。


「川が流れている」

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