第1章 帰還への道

第4話 帰還への道「空間」

 ……


「んっ?」


 意識を取り戻す。


 ゆっくり目を開ける。

 何とも表現が難しい、クリーム色だけの空間の中に居る。

 立っているのかも判らない。

 浮かんでいるというのが、一番しっくりくる。


 辺りを見渡す、がクリーム色の空間が上下左右にあるだけでそれ以外の何かを見つける事は出来なかった。


「ここが私の空間なのか」


 思ったより、動揺していない、寒くも暑くもない。

 何となく、居心地が良いのも不思議な感覚だ。


 暫く、この不思議な自分の空間を眺めていたが、お腹が空いてきたことに気が付く。


「うーん?」


 食事はどうしようか? 切実な問題ならトイレもだ。

 誰も居ないということは判っている、が、気分の問題である。


 砦に来るまでに背負っていた背嚢は、一緒に収納している。

 背嚢の中には携帯食が何食か分あるはず。

 その背嚢を強く意識したら、手元に現れた。


 いつもの時空魔術での取り出しとは、感覚が微妙に違う。

 空間内に保管した他の荷物を思い浮かべる。

 空間の何処か、でも自分の手の届く場所に全部あることが”判った”。


 この空間の中では、距離は意味が無いらしい。

 小さい荷物を呼び寄せたり戻したりを繰り返す。 魔力消費もほとんど無い。


 考察したい要求が生まれてくるが、兎も角、食事にしよう。


 足下あしもとがないというのも、居心地が悪いので、適当な木箱を呼び寄せて、その上に座る。


 背嚢から、1食分にまとめた硬パンと乾燥肉、チーズ、水筒を取り出し、食事を取る。

 硬パン割り、乾燥肉をナイフで削って口の中に放り込んで、柔らかくなるまでモグモグする。

 食事を取りながら、つい考えてしまう。


 こうやって動けるというのは、この空間の中の時間が流れているということかな。

 時間が止まっている時空魔術師の場合は・・・うん、入った時点で詰みだなぁ。


 目が覚めるまでどの程度の時間が掛かったのかも判らないので、いま外がどうなっているのか想像することもてきない。


 口にした水が温い。

 ふと、この空間の中で魔法が使えるのか気になる。

 水筒に対して、冷却魔法を行使する。


 冷却魔法は基礎魔法で、魔法の中でも温度を制御するもの。 魔法自体はそんなに高度なものではない。

 私の能力だと、氷が出来るかどうか位まで冷やすことができる。 温める方だと、水では沸騰させられず、火でも種火を作るのが精一杯だ。

 冷たい火は出せない。 触っても熱くない火を出せる魔術師に体験させて貰ったことがあるが、火は火としかイメージ出来なかった。


 で、水筒は冷却魔術で飲み頃に冷やすことが出来た。

 この空間の中は、私の魔術を行使した魔法の中でもあるはずなので、この中では魔法が使えない可能性が高いと思ったが、重複させる事が出来ると言うことかな。

 または、空間自体に別の要因があるとか?


 硬パンと乾燥肉に水分を持って行かれた口の中に水を補給する。

 食料は、収納した倉庫の備蓄を使用すれば、私だけならたぶん半年以上は持つ、でも水は無い、ワインがあるが、成人していない私は飲んだ経験が無い。

 水は、砦があった場所には水源が豊富にあったため、わざわざ貯水する意味が無いから。

 もちろん生活水が必要になるが、倉庫に用意する物ではないので今は手に入らない。


 私の空間の時間経過は、感覚では、現実の時間とほぼ同じと思われる。

 しっかりとした検証をする機会が無かったので、感覚頼みではあるが、温かい水が温くなる、という事で確認した。

 この時、一定以上の時間を経過しても温度が下がらないことから、多分、空間内は一定の温度であるかな? という推測はしていたけど、実体験することができたということですか。



 砦までの行軍と、運んできた荷物の引き渡し、そして、その中での敵襲、砦の放棄にもとない火を放ち崩壊。

 倉庫に取り残され、逃げることが出来ず、イチかバチかの自分の収納空間に入るという時空魔術師としての禁忌タブーを行った。

 今日一日であったことを思い出す。


 木箱の上に寝っ転がる。


 元の空間に戻ることが出来なければ、私はこの空間の中で死ぬ、死んだらこの空間はどうなるのだろうか?


 過去に時空魔術師が死んだときの記録を思い出す。

 幾つかのパターンがある、収納された物が放出される、一気に放出される場合も有れば、ゆっくりと1つずつのこともある。

 放出されず、空間ごと消滅? したと思われることも。

 時空魔術師の本人にしか、普通はその時空魔術師の収納空間の中を把握できないので、こればっかりは何とも言えない。


 色々考えているうちに、睡魔がやってくる。

 どうやら、自分を収納してから大して時間が経っていないようだ。


 誰も人が居ないのを知っているからか、気が抜けてきた。






「おやすみー。」


 私は目を閉じて、睡魔に体を預けて眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る