第2話 プロローグ「魔導師と魔術師と」

「魔導師になりたかったなぁ」


 改めて口に出た言葉で、まだ死にたくないという思いが湧いてくる。

 頭だけを起こして、周りを見渡す。


 今の自分に何が出来るのだろう。



 魔導師と魔術師、少し説明しよう。

 次のような区分がある。


 まず、魔力持ち。

 魔力を持っている、大なり小なり魔力は誰でも持っている、それこそ虫にも土や風にも、日の光にも魔力はある。

 定義としては知られているが、ほとんどの人は気にすることはない。


 魔法使い。

 その魔力を使って何らか方法で何かの事が出来る、これを魔法という。

 その魔法を使える人達を広い意味で魔法使いと呼ぶ。

 どんなに小さくても、意味が判らなくても、なにか魔法が使えれば、まずは魔法使いである。

 定義として魔法使いは、魔法が使える人全体を含めているけど、普通は、魔法が使えるだけの人のことを指している。

 一応、それなりに実用的な魔法が使える人あたりから魔法使いを自称するようになる。

 魔法学校に行けなかった人、魔法学校に行ったが魔術師に成れなかった人は、区別される属に魔法学校帰りと言われるそうだ。


 魔法を使える人は、平民や貴族に関係なく、平均して10人に1人はいる。

 魔法使いを自称している人達は、俗に生活魔法と言われる基礎的な魔法で日常生活に便利な魔法を使っている人が多く、それを仕事にしている魔法使いも多い。


 次に、魔術師がいる。

 魔法学校において魔法の技術を習得し使うことが出来る魔法使いだ。

 ただ魔法を使うよりより高度で精密で強力な効果を生み出す、魔術を行使する事が出来る。

 世間的に魔術師の資格を得て名乗れるようになって、魔法を使いこなせる人という認識になり、それなりに尊敬される。

 魔法が使える人の中でも100人に1人くらいで魔術師になることが出来る。

 魔術師は、基本的に国に従属する(管理される)、よっぽどの魔法の資質が役に立たないなどの理由が無い限り、国または領の何らかの機関に所属することになり、強制的に配属される。


 私は、今この魔術師に含まれる。で、王国軍 北方辺境師団に所属している。


 そして、魔導師。

 エリートだ。

 魔術の仕組みを理解し、新たな魔術を創造する、魔力とは魔法とは何かを追求する事が出来る者。

 新たな魔術師を導く事が出来て、多くの魔術師を輩出する実績を積めること。

 特出した才能と能力を持つ魔術師の一部が、魔導師を名のることが許される。

 魔術師の中でも、1000人に1人いれば多い方だという。

 魔法学校を首席で卒業できたとしても魔導師になれる者が出ることは希だ。

 国内でも数名しかおらず、全員、王都の重要な役職に就いているそうだ。

 生まれが何であれ、魔導師となると、中位貴族と同じ扱いになる。



 魔法が使えると判り、魔法学校に入学した者は、最初はその興奮から魔導師を憧れと目標にしている。

 さらにその先に、賢者という魔道を極めた者がなれる位がある。が、まぁ伝説やおとぎ話の類いで、少なくてもこの国には居ると聞いたことが無い。



 というわけで、で、私、マイは時空魔術師である。

(正確には時間・空間制御魔術を使うことの出来る魔術師なんだそう、この魔術の区分についてはいずれ)


 なぜ、空間魔術や収納魔術ではなく時空魔術であるかというのは、簡単に言うと、収納したも物の時間が変わることもあるなんだ。

 料理したての温かい料理を収納しても数日も出来たての暖かいままだったり、生肉・生野菜を入れても腐らなかったり。

 逆に、あっと言うに腐ってしまうという場合も有る。

 これを昔の偉い魔導師様は、『収納した空間内の時間の流れが実際の空間の時間の流れと異なるため』と結論づけた。

 時間の要素が加わったため、空間魔術でも収納魔術でもなく、時空魔術という、すこし仰々しい名前が付けられている。



 私は、魔法の資質を5歳のと時に見出され、魔法学校に最低年齢で入学し、時空魔法の資質を見出された。

 そして、時空魔術の使い方を学び、子供心に時空魔導師を目指して学友たちと、切磋琢磨していた。

 それが変わったのは私が入学してから3年目が終わろうとしていた時期になる。


 4年目の学習中に、輸送のための人手不足ということで軍に徴用された。成人していないので非正規兵として。(成人は15歳)

 地方の小規模な戦闘が頻発したためだそうだ。

 魔法学校を特例での卒業したことになる。 4年目が終わった所で魔術師として卒業できる予定だったので、魔術師を名のることが許された。


 念のため。 時空魔術は一般的には物を収納することが得意としているが、他の魔術が使えないということはない、専門ほど上手くはないというだけ。


 当然ながら、軍では非戦闘部門の物資輸送を担当する部隊に所属している。

 そして、8歳を過ぎただけの子供の私には、何の発言権もなく、言われるがまま、ただひたすら、物資を運び続けてきた。


 軍に徴用されて5年目の、13歳、軍の中でもそれなりにやってきてはいるが、15歳の成人を迎えていないのでいまだ非正規兵である。

 非正規兵なので、権限は相変わらず無く、指示のままに荷物を運んでいた。


 『雨の年』が始まる予定の前の年に、今いる場所の砦に荷物を運び込んだときに、私は死に直面することになった。



 ゆっくり身体を回してうつ伏せになり、四つんばいに起き上がる。

 もう天井にはうっすらと煙が漂っている、起き上がるのは得策ではない。

(同僚の兵士から色々教わった中に火事の時は姿勢を低くして煙を吸うな、というのが有った。理由はしらない)


 自分に気合いを入れるため、声を出す。


「魔導師になりたい!」


 何となく、手足に力が入ってきた気がする。






「いっちょ、やりますか。 時空魔術師の意地を見せてやる」


 ほほを両手でパンと叩いた。

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