第13話 カノン冒険者ギルドに登録する


 カノンとライカは商人の街サンタルークに着いた。


 着いてから数日は、宿でゴロゴロして犬型に戻ったライカと遊んで過ごしていたが、それも飽きてきた。


 暇だ。


 フェンリルからもらった金貨500枚はある。働く必要はない。


 もう戦場には行きたくはないが、美味しいご飯を食べて、女と遊んでも、生死をかけたゾクゾクした感じは味わえない。退屈していた。


 今日は何をしようか。目的なく街をライカと歩く。


 情報収集も兼ねて商人に話しかけるが、警戒される。


 どうも、帝国の治安が悪くなっていて、旅人を装った盗賊が増えていているらしい。


 だから旅人だと言うと怪しまれたのか。


 話を聞くと、街の北にノース鉱山という名所があるみたいだ。ミスリルや金などが発掘できる鉱山で、良い素材が安く買えるらしい。



 どうしよう。暇だしノース鉱山にでも向かおうか。


 でも、途中で盗賊と勘違いされて厄介事には巻き込まれたくないな。


 ふと見上げると、冒険者ギルドがあった。


 そうだ。冒険者だ! 冒険者になろう。


 冒険者は冒険者ギルドに身分を保証される。これで旅をしても怪しまれることもないだろう。


 冒険者ギルドに入ると、中は人でごった返していた。


 受付に進み。冒険者の登録を申し込む。


 受付の女性が、オレの顔を見てあっと言った。壁に貼られていた捜索願の紙とオレの顔を見比べている。


 しまったな。帝国から捜索願を出されていたか。


 他人の空似。人違いですよ。と言って、ギルドを出た。


 危なかった。迂闊な行動だった。


 ギルドを出て、走って移動する。


 帝国騎士団くらいだったら、撃退することはできるが、面倒事に巻き込まれたくはない。


 そうだ。ノース鉱山のギルドで登録しよう。


 田舎なら顔を隠せばバレないだろうから。



 ノース鉱山に向かう。それからすぐにサンタルークの街を出た。距離的に、翌朝には着くみたいだ。


 念のため、顔がバレない様に目だけを隠す仮面を買った。


 顔の傷が気になるとか言えば、大丈夫だろう。


 道中、魔獣も見かけたがライカが先に走って狩ってくれる。


 人間と比べられないくらい耳が良いのだろう。


 索敵能力が高い。


 半分は進んだだろうか。後数時間で着くと看板に書かれている。


 夜中に行くのも訳ありだと思われる。


 今日はここでライカと野宿しよう。


 ライカがいれば、警戒せず寝れる。火を焚かなくても抱くと温かいしモフモフが気持ちいい。安眠できる。

 誰にも気づかれず、襲われないで熟睡できるのは旅する上ですごいメリットだ。


 ライカを抱きしめ、仮面を外し、眠りにつく。

 

 明日には冒険者だ。



 街に入る前に仮面を付ける。


 ノース鉱山のギルドには人はまばらだ。田舎のギルドなんてこんなものなのだろうか。いや、街中に鉱夫はたくさんいた。この街では冒険者の数が少ないのだけだろう。


 バレないと良いが。


 「すみません。冒険者登録したいのですが。」


 「はい。少々お待ちくださいね。」


 受付の女性の胸元を見ると、名前がニーナと書かれて副マスターと書かれている。


 バレないでくれ。


 「こちらの紙を書いてくださいね。名前と職業を書いて、水晶で能力値を測れば終わりです。」


 名前をライカと書く。バカ正直にカノンと書く必要はない。


 職業を書くところで、筆が止まる。


 オレの職業はなんなのだろう。


 帝国騎士か。書けるわけがない。騎士と書いてもいいが、騎士は上位職だ。


 目立ってしまう。


 「ライカさんはテーマ―じゃないんですか。ウルフに首輪付けて連れていますし。」とニーナが言った。


 「ええ。そうでした。テーマ―ってあまり有能職でないので、なんて書こうって悩んでました。」


 「嘘を書いちゃだめですよ。ライカさん。」


 ニーナさんが優しく笑う。


 そうですね。と言い、職業欄にテイマーと書く。

 

 最後は水晶だ。自分の力をかなり抑えて水晶に手をかざす。


 これで誤魔化せてくれ。


 水晶を見るとランクは全てEクラスと表示されていた。


 「ライカさん。能力はEクラスです。魔獣は強いので無理はしないでくださいね。冒険者だけが仕事のすべてじゃないので。」


 ニーナさんは優しい。


 「ありがとうございます。無理せず、頑張ります。」


 そう言うと、後ろから声をかけれた。


 「おい、ニーナそんな能力の低いやつ、断っちまえよ。」


 振り返るとギルドマスターの名札を付けた男がいた。サンドラと書かれている。


 「そんなひどい事言わないで下さい。サンドラさん。ノース鉱山のギルドは入会を断る決まりないじゃないですか。」


 ニーナさんが庇ってくれている。良い人だ。


 「そんなんだから、ノース鉱山のギルドは舐められるんだよ。俺も早くサンタルークに戻りたいぜ。」


 そう言うと、男は舌打ちして去っていった。


 「ごめんなさいね。ライカさん。ギルマスが失礼なこと言って。」


 「いえ。オレの能力が低いから悪いので、頑張ります。ギルドとダンジョンの説明してくれませんか。」

 

 「はい。勿論です。」そう言うとニーナさんは説明してくれた。


 鉱山の中にダンジョンがあり、階層は地下40階まで。敵は一番強いボスでもCランク程度であるが、今のライカさんだと厳しいから、十階より下には行かないほうが良いと言われた。


 夜になると、敵の動きが活発になりダンジョンを出てくるから、18時には門が閉められて、ダンジョンの出入りができなくなるらしい。


 「ご丁寧に説明していただきありがとうございます。」


 決まりだ。明日からダンジョンに籠もろう。


 お礼を言って、ギルドを出る。


 ギルマスのサンドラは嫌なやつだ。皆ギルドの職員は制服を着ているのがルールなのに、ギルド職員の帽子でなく教会の神父が被る黒い帽子をかぶっているのは気になる。


 こんな田舎まで教会も悪さはしないだろう。考えすぎか。


 今日は宿に泊まって、明日からダンジョン攻略だ。どんな魔獣が出てくるのだろう。


 カノンは久しぶりにワクワクしてなかなか寝付くことはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る