第12話 団長エドガーの災難Ⅵシイナの思惑

 ウルフに負けシイナたちは宿に戻った。


 ボロボロになったエドガーを嫌がるフラメルに任せて宿を出た。


 目的は教会に報告しにいく。私は俗に言う二重スパイだ。


 教会に帝国騎士団の情報を逐一報告し、帝国の転覆のために内側から工作している。


 教会の扉を叩く。ノックする回数で要件を決めている。


 今回は報告するべきことがある。五回ノックする。


 「よく来たなシイナ。入れ。」


 神父様が扉を丁寧に開けて部屋に案内される。


 「それで、報告はなんだ。シイナ。」


 「エドガーたちはウルフ相手に再び撤退。心身ともに弱っている状態です。いつでも殺せますが、どうしましょう。」


 「まあ待て。あれでも将軍の息子だ。下手に動くと将軍ルノガ―に感づかれる可能性もある。じわじわと攻略すべきだ。」


 たしかに、それもそうだ。


 「もっと騎士団を追い詰めて、教会に依存させよう。それから駒として使ってやれば良い。」


 「分かりました。私はいつもどおり、足を引っ張りながらうまく教会に頼るように導きますね。」


 「いつも助かるよシイナ。今日は礼拝も終わって、他に誰も来ない。どれ、近くに寄りなさい。」


 「分かりました。クロスなーとフラメルに怪しまれてもいけないので早く済ませてくださいね。」


 シイナの服に神父が手をかけた。





 シイナはギルドに寄って帝都に報告した。


 どうせエドガーから行けと命じられるのは分かっている。


 カノンの強い抵抗にあって、一時撤退。ルノガーが負傷したと嘘の報告をしておいた。


 宿に戻る。


 エドガーは意識を取り戻したようだ。


 クロスナーもフラメルも敗北が受け入れられないのだろう。心ここにあらずだ。


 「エドガー大丈夫なの。無事でよかった。ごめんなさい。どうしても助けられなくて。」


 「ああ。シイナ大丈夫だ。怪我がひどく一週間はこの街に滞在することになりそうだ。」


 「大丈夫よ。帝国には私が報告してきたわ。」


 「そうか。ありがとう。クロスナー、フラメルも部屋で休め。シイナには話がある。残ってくれ。」


 そう言うと、クロスなーとフラメルは部屋から出ていった。




 「シイナ。よかった。お前だけは信じていたよ。クロスナーもフラメルも裏切り者だ。」


 どうやら、クロスナーが撤退を決めたと勘違いしたらしい。


 本当は私が提案したんだけど。


 「裏切り者なんて言ってはだめよ。あなたは帝国騎士団の団長なんだから。」


 そう言うと、エドガーの頭を胸に抱き寄せる。


 「ううう。怖かったよ。」


 エドガーが泣き出す。正直気持ち悪い。


 「そうね。エドガーは立派よ。」


 よしよしと頭を撫で褒めておく。


 エドガーは実力はないが、騎士団では一番の権力者だ。


 まだ利用価値はある。


 安心したようでエドガーは寝始めた。




 シイナは孤児院で育った。その後、貴族に奴隷として買われ、馬車で運ばれている時に、盗賊に襲われた。


 なんでもするから命だけは助けてくれと言い、女ということもあり、なんとか助けてもらった。


 盗賊たちはガサツだが、うまく頭領に取り入り、それなりの生活を送っていた。昼は懸命に掃除や家事をして、夜は頭領を慰める。


 頭領の女として他の盗賊は手を出してこなかったし、色々な戦い方や武器の扱い方を教えてもらった。


 なんとか生き抜いてきた。生きる術をここで学んだ。




 だが、その生活も長くは続かなかったのだ。


 近隣の街からの報告があったのだろう。帝都の騎士が盗賊討伐に来たのだ。今まで強いと思っていた盗賊たちも全員殺された。


 私も盗賊の仲間と見なされ、殺されそうになったが、人質に取られてひどい目に合っていたと泣いていると、帝都騎士を騙せて保護された。


 そこから教会に預けられてからも、やることは盗賊の時と変わらなかった。


 権力者に取り入り、良い立場で生活を送る。


 戦争が始まりそうな気配があると、騎士団を受けさせられた。


 教会のお偉いさん曰く、教会の策略で戦争を起こし数年長引かせることで帝国の力を奪う。弱りきった帝国の実質支配を教会が奪うという計画らしい。


 そんなこと私に言って良いのかとも思ったが、どの権力者もベッドの中では自慢そうに語ってくれた。


 騎士になってからは厳しい訓練が待っていたが、盗賊時代に教えてもらったことが役に立った。


 騎士の情報を教会に報告し、教会から得た情報で、騎士として優位に立ち回った。


 徐々に序列も上がっていき、No.7まで駆け上がった。


 帝国のお偉いさんにも気に入られて取り入った。このまま私が教会も帝国もどちらも牛耳ってやる。そう思っていた。



 戦争が始まると、戦場は想像よりも悲惨だった。


 すぐに死を覚悟した。牛耳る作戦なんて考えは初日で吹き飛んだ。


 戦場から逃げ出せば、帝国からも教会からも刺客を放たれるだろう。色々と知りすぎた。


 戦場生き延びる事を考えた時、利用できそうだったのがカノンだった。


 カノンはあまりしゃべらないし、貴族の出身だからいけ好かないと思っていたが、彼に付いていけば死なないことくらい分かった。圧倒的に強かったからだ。


 これからどうしようか。と思っていた私にも運が回ってきたらしい。


 カノンの彼女になると戦場でも何度も彼が傷つきながら助けてくれた。


 それから戦争が続いた二年間。カノンがいなければ何回も死んでいただろう。


 戦争が終わりそうと教会からの情報を得ると、少しずつエドガーにすり寄った。彼は将軍の息子だ。実質無能なのだが、団長として評価されるはずだ。


 カノンはエドガーから疎まれている。これからはエドガーにすり寄った方が得策だろう。カノンを追放する作戦にも乗り、これからはルノガーに取り入ろうと思っていた。


 だけど、エドガーは想像よりも無能だった。


 ウルフ相手に負け、少しずつ立場が悪くなるだろう。


 そろそろ頃合いね。


 異常な環境で育ったからから私にサディスティックな一面があることに気がついた。


 エドガーは十分甘やかしてきた。そろそろ突き放す。ペットにするの。


 私がエドガーを従わせるわ。


 それにしても計画を大幅にずらしたカノンには腹が立つ。


 カノン待ってなさい。捕まえて、ペットにしてあげるから。


 そう考えるとシイナは笑いが止まらなかった。

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