第11話 団長エドガーの災難Ⅴ敗北

 俺達は再び森に入る。まだ日は落ちていない。今度こそ大丈夫だ。


 武器を構えて警戒したまま進んだが、野営したところまではスムーズに行けた。


 道具を回収できてよかった。金はなくなっていたが、まあいいだろう。


 カノンを捕まえれば金貨500枚貰えるし。


 今度こそ油断しないぞと思っていたが拍子抜けだ。


 「ウルフも出て来ないし、カノンでも探すか。」


 皆が頷く。


 その時、また声が聞こえる。昨日のウルフだ。


 「また来たのか。」


 「うるせえ。かかってこい。今日こそ返り討ちだ。俺達は帝国騎士団だぞ。」


 「自分の実力も弁えぬ愚か者どもよ。今度こそ許さぬ。」


 ウルフが十体くらいか。飛び出してくる。


 「陣形崩すな。フラメル。サポート! 」


 格好良く、フラメルに指示を出す。

 

 「分かった。」フラメルがバフをかける。


 ウルフは集団で狩りをしてくるから、フラメルを守るようにシイナ、クロスナーを配置した。完璧な布陣だ。


 「出てこいよ。親玉。返り討ちだ。」


 オレは前に出る。オレが親玉を倒してやる。


 フェンリルが目の前に現れる。


 でかい。


 昨日は暗くて分からなかったが、でかすぎる。


 俺様に勝てるのか。


 いや勝てるはずだ。帝国騎士団の団長なのだから!


 先制攻撃だ。


 フェンリルに斬りかかるが、躱される。


 くそっ。なんで当たらないんだ。


 連続で剣を振るが、一発も傷をつけられない。


 振り返り、フラメルに伝える。


 「おい。フラメル。バフちゃんとかけろ! 」


 「何重にもかけてますよ! 」


 フラメルが怒鳴るように返事する。


 そんな馬鹿な。戦場ではもっと早く動けていたぞ。


 体が重く感じて、早く動けない。


 「目を逸らす余裕などないだろ。」


 フェンリルの巨大な尻尾が俺の胸にめり込む。


 衝撃とともに吹っ飛んだ。


 痛え。なんて力だ。


 鎧が割れている。くそっ。こんなに強いとは思わなかった。


 立ち上がりながら、シイナたちを見ると苦戦しているようだ。


 複数匹に群がられていて、傷だらけになっている。


 一匹たりともウルフを倒せていない。


 そんなバカな、いつもなら、全部倒して、俺を助けに来ていたじゃないか。


 クロスナーが叫ぶ。


 「団長。話が違うじゃねえか。こいつらめちゃくちゃ強いぞ。どうする。引くか。」


 帝都の魔獣なんて余裕って言ったのはクロスナーお前だろ。


 「馬鹿野郎。踏ん張れ! 俺達帝国騎士団に二度の敗北はない! 」


 それでも、現状厳しいのは事実だ。


 よしっ。俺様が本気を出すぜ。


 俺様の必殺技<十文字斬り>を放つ。


 縦と横に素早く斬る必殺技だ。


 今まで戦場で何人もの敵を倒してきた。


 くらえっ


 フェンリルは避けない。


 もらった!!!


 フェンリルに剣が当たるが、少し血が出ただけで、首を横に振っている。


 「効かぬな。そんなものか。カノンとは大違いだな。」


 くそっ。なんで全然攻撃が通らないんだ。


 それにカノンだって。


 「くそっ。カノンを知っているのか。やはりここにいたんだな。」


 「ふん。お前に説明してやる義理はない。ここで死ぬんだからな。」


 しまった。


 フェンリルが前足で攻撃してくる。


 フェンリルの前足が俺様の顔にヒットした。


 兜が飛ぶ。頭から血が流れているのが分かる。


 痛え。痛えよ。ママ。


 くそっ。なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。なんでなんだよ。


 「お前たちザコは良い。親玉を全員で叩くぞ。」


 そう叫ぶが三人から返事がない。


 ふり返る。三人とも傷だらけで逃げ出している。


 「待てっ! 勝手に引くな! 負けちまうぞ! 」


 声は聞こえているはずだ。


 それなのに団長を置いて逃げるなんて。あり得ない。


 なんでだよ。今までこんな危機的状況でも俺様の指示で切り抜けてきたじゃないか。


 ムカつく奴らだ。俺様が引っ張っていたから貴族にもなれたのに。


 「どうやら。仲間にも見捨てられたようだな。かわいそうなやつめ。」


 フェンリルごときに同情されるなんてムカつく。


 シイナ達に群がっていたウルフたちも追うのを辞めて。俺様に近づいてきた。


 「やめろ! 来るな! 卑怯者め! 一対一で戦っているだろう! 」


 近寄るウルフを剣で攻撃するが、一向に当たらない。


 くそっ。完全に囲まれた。


 絶体絶命じゃないか。


 「昨日も注意したのにも関わらず覚悟は出来ているんだろう。」


 そう言うと、ウルフが俺の死角から噛みついてくる。


 痛い。


 激痛だ。意識が飛ぶそうになる。


 ウルフを離せるように、剣を振るが当たらない。


 後ろを攻撃するために振り返って攻撃したら。前から攻撃される。


 「卑怯者め! お前たちに誇りはないのか! 」


 「そんなものない。お前たちが憎い。」


 くそっ。一対一ならなんとか逃げられたかもしれないが、これだと逃げることも出来ない。


 腕に噛みつかれて、盾も剣も落としてしまった。


 俺様はこんなところで死ぬのか。なぜ。背に腹はかえられない。


 「ま、待ってくれ。俺様は、いや俺はカノンに命令されて来ただけなんだ。」


 ほうと言い、フェンリルが指示を出して、ウルフの攻撃が止まる。


 クックック。単純なやつらだ。


 騙してやる。


 「カノンに何を命令されたんだ。」


 「それは…その。」


 なんて言おう。


 「カノンが村を襲えって言ったんだ。俺達は人質を取られていて、嫌だけど戦わないといけなかったんだ。」


 同情するだろ。ほらっ許せ。バカ犬ども。


 「そうか。お前たちがカノンの昔の仲間か。」


 「ああそうだ。」


 そう言うと、後ろから思いっきり首を噛まれた。


 痛い。痛すぎる。これは死んでしまう。


 「裏切った馬鹿者たちでよかった。痛い目に合わせても罪悪感を抱かない。」


 「待ってくれ。命だけは。なんでもするから。」


 「そうか。なんでもするか。だったら死んでくれっ。」


 ウルフが俺に群がり全身を噛む。


 鎧も噛みちぎられ、服もちぎられた。


 くそっ。くそっ。


 「ふざけんな! 」


 全裸になった俺様は素手でフェンリルに殴りかかる。最後の意地だ。


 拳は空振り、フェンリルの尻尾が頭に直撃した。


 俺はそこで意識を失った。



 シイナ、クロスナー、フラメルは街道に逃げ帰っていた。


 「危なかった。団長大丈夫かな。状況を判断できない団長が悪いが、置いてきたことは悔やまれるな。」


 クロスナーが肩で息をしながら言った。


 シイナが噛まれて血が出ている腕を抑えながら言う。


 「あれはしょうがないわ。事故だったのよ。」


 どうしようか。想定外だ。


 「どうする。村に戻るか。助けに行くか。」


 クロスナーが質問するが、助けに行っても助けられないだろう。


 そのまま回復をフラメルにしてもらって数分は経っただろうか。


 結論が出ずにそこに佇んでいると、フェンリルがエドガーを口で咥えて現れた。


 「こいつは帰してやる。食うにも値しない。もし一歩でも森の中に入ってみろ。次はないぞ。」


 三人は頷く。


 エドガーを雑に落とすと、フェンリルは帰っていった。


 シイナはエドガーに駆け寄る。意識はないし、血だらけだ。それに服を着ていない。


 「とにかく、村まで撤退しましょう。」


 シイナはマントをエドガーにかけ、クロスナーがエドガーを担ぐ。村に戻るまで三人は一言も発しなかった。

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