第10話 団長エドガーの災難Ⅳ暗雲が漂う

 俺達は街道に出てから、昨日まで滞在していた村に一時間かけて戻ってきた。


 約束通り、今日は俺の奢りだ。団長である俺様の器の大きさを見せつけてやらないとな。


 大盤振る舞いだ。酒池肉林のごとく朝まで楽しんだ。


 都合よくシイナが先に寝る。と言い先にホテルへ帰っていったから、俺様は朝まで女を数人侍らせて楽しんだ。


 翌日、目が覚めると頭が痛い。完全に二日酔いだ。


 時計を見ると昼をもう過ぎている。


 どうやら寝すぎてしまったようだな。


 気がつかぬうちにシイナはどこかでかけているみたいだ。寝たときには横にいたのだが。


 まあいい。


 まずは部屋に全員を呼ぶか。作戦会議だ。



 三人を部屋に集めて作戦会議を開く。議論すべきポイントはあの森に行くか。行かないかだ。


 フラメルが手を上げて発言する。


 「あそこにカインの足跡があったから行くべきです。夜じゃなければフォレストウルフごときに遅れを取ることはないでしょう。見張りの必要も日が出ていれば必要ないですから。」


 フラメルの野郎、インテリぶりやがって、態度は鼻につく。それに、最後の発言は余計だ。


 ただ、フラメルの言うとおりだ。俺達が遅れを取るわけがない。


 俺達は最強の帝国騎士団なんだ。負けるはずがない。


 ここは団長らしくかっこよく俺様が最後を締めるか。


 「フラメルの言うとおりだ。俺達は天下の騎士団だからな。敗北の二文字はない。それにあの森の中に間違いなくカノンはいる。足跡を見て確信した。襲ってきたらサクッとフォレストウルフをやっつけてカノンを捕縛しよう。」


 他の三人は俺の意見に頷く。


 クックック。どうだカノン。これがリーダー様だ。戻ってきたら奴隷のようにボロ雑巾にしてやるぜ。お前をいじめられると思うと楽しみでよだれが出そうになる。


 「団長、俺は行くことには賛成だ。だがどうしても気になる。あいつらフォレストウルフにしては強かったぜ。大丈夫かよ。」


 クロスナーが発言した。


 たしかに気がかりではある。帝国内にフォレストウルフ以外のウルフは分布していないはずだ。父上から教えてもらったから知っている。あんなにフォレストウルフの動きが速いわけはないが…気にしなくてもいいだろう。


 フォレストウルフなんて所詮は魔獣ランクはEクラスだ。


 俺達に負ける道理はない。


 「大丈夫だ。俺達は暗くて視界が悪かったから遅れを取っただけだ。陣形をしっかりとすれば大丈夫だ。なんだ、クロスナーお前もしかしてもうビビったのか。」


 ビビってねえよとクロスナーが叫ぶ。


 クロスナーは扱いやすくていいぜ。


 「よしっ。全員一致だな。ちんたらしていたら日が暮れちまう。帝国に報告だけしてさっそく向かおう。」



 何日も同じ村から帝都への報告を送っていれば、遊んでいると捉えられかねない。


 父上には盗賊が村を襲い撃退していたため時間が経った。村人を見捨てられなかったと報告には書いておく。


 これで俺様の評価も上がるだろう。完璧だ。


 ギルドに報告書を渡しに行くと、受付の女が俺に連絡が届いていると言った。


 急いで紙を開けて、内容を確認する。


 『エドガー急げ。王様は遅いと激怒している。遊ぶ暇があったらすぐにカノンを連れてこい。出来ぬなら貴族の資格を剥奪すると言っている。』


 内容を見た俺は青ざめた。


 非常にまずい。貴族の資格を剥奪するなんて、そんなの脅迫じゃないか。俺達だって少しは息抜きをしたが、一生懸命カノンを探してるんだ。


 ここまで言われる筋合いはない。


 怒りがふつふつと湧いてきた。


 怒りに身を任せて、紙をクシャクシャに握りつぶす。


 ふざけんじゃねえぞあのじじい。


 貴族の資格が剥奪されることをクロスナー達に言ったら、カノンを探すどころじゃなくなるな。俺様のせいにされても困る。


 これは俺様がもみ消そう。幸い見た人間は俺様しかいないのだから。バレることはないさ。





 ギルドを出ると、そこには俺様がもどってくるのを三人は待っていた。


 クロスナーが遅かったじゃねえか団長と言う。


 「ああ。すまない。受付の女が遅くて、手間取ってな。」


 絶対に先程の件はこいつらには言えない。


 「団長。そろそろ定期連絡が帝都から届いてもいいころだろ、まだカノンの情報は来ねえか。」


 こういう時はクロスナーは鋭い。これが野生の勘ってやつか。育ちが悪い証拠だ。


 「いや。来ていなかった。定期連絡が来ていないと言うことは、間違いないだろう。あの森の中に潜んでいる。決まりだな。さっそく向かうぞ。」


 三人は頷く。


 俺様がリーダーシップを発揮して、なんとしてでもカノンを捕まえてやる。金貨500枚にチヤホヤされる生活がすぐそこだ。


 ああこれからが楽しみで笑いが止まらい。


 「よしっ。日が暮れる前に行くぞ。」


 俺様が高らかに宣言する。夜じゃなければウルフごときに遅れを取るなんてありえない。


 襲ってきたらウルフを倒す。そして俺様の手でカノンを捕まえてやるぜ!


 四人は再びカノンを降ろした場所に向かった。この時、既に歯車はずれているとは一行は微塵にも思っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る