第7話 ライカは美少女?
ライカは祠の周りを注意深く見て回る。
ビンゴだ。もう1つあった。
壊そうと、手でツボを持ち上げる。
裏に何か書いてある。いや刻印か。
帝国の双剣マークに十字架。間違いないこれは帝国のチャーチル教会の刻印だ。
チャーチル教会は帝国の滅亡でも目指しているのか。帝国は戦争が続いて国力は落ちている。チャーチル教会は支持者も多い。フェンリルなどを凶暴化させて各地で問題を起こし、帝国の求心力を失わせてからクーデターでもするつもりなのか。
全貌は見えないが、ずいぶんときな臭くなってきたな。
ツボを剣で割ると広間の瘴気も薄くなったように感じる。
ライカはへっへっへと舌を出しながら、かまってほしそうな顔でこっちを見ている。
フェンリルが起きるまでライカと遊びながら休もう。
◇
数十分経っただろうか。フェンリルの耳がピクピクと動き目をさます。
「起きたか。フェンリル調子はどうだ。」
『ああ、待ってくれ。』
どうやら元気そうだ。
光がフェンリルを包み込む。フェンリルが人間に変化した。
これで話しやすい。と言いフェンリルが背伸びした。
なるほど。たしかに念話は直接脳に響くからこちらも疲れる。気を使ってくれたのだろう。
「すまん。かなり傷つけてしまった。体調はどうだ。フェンリル。」
「傷は問題ない。救ってくれてありがとう。本当に助かった。」
フェンリルが深々と頭を下げる。
「頭を下げないでくれ。それで意識は保てそうか。」
「ああ。問題ない。頭の中にかかっていたモヤもなくなった。感謝する。」
見ている限りだと、元気そうだ。よかった。
「犯人は、帝国の教会だと思う。丁寧にツボの裏に刻印がされていた。証拠を残すとはバカなやつだ。」
「そうか。だから結界内にも入ってこれたのか。納得がいった。奴らの良いように利用されるところだった。」
教会の人間は光魔法を使える人間が多い。光魔法は結界をすり抜ける事ができたのだろう。
「時間を要してしまったから、戻ろう。早く帰らないと皆、狼になるのだろう。」
と言い、戻ろうと階段に向かって歩きだす。
「待ってくれ。青年よ。」
どうかしたのか。
「予からお願いがある。ライカを連れて行ってはくれんか。」
確かにライカはかわいいが、兄やフェンリルたちと暮らしたほうが幸せではないか。
手を顎に当てて悩む。
ライカを見るとしっぽを振っている。これは着いてきたいということか。
「オレは旅人だ。それでもいいのか。」
「ああ。この村はまた教会によって危険にさらされる可能性もある。青年は強い。ライカを連れて行ってくれ。」
頭を下げられると弱い。
「わかった。ライカに聞こう。ライカ、一緒に来るか。」
ライカがワンッと高い声で鳴いた。尻尾はちぎれるんじゃないかという勢いで振っている。
「ライカも賛成みたいだな。青年。先程ツボが入っていた祠を開けてくれ。」
祠の扉を開ける。
覗いて見ると奥に光っているものが見える。
これは…指輪か。
「その指輪は契約の指輪だ。」
「オレとフェンリルが契約するのか。」
「違う。青年とライカが契約するんだ。」
ライカは犬じゃないのか。
たしかに犬の強さではないと思っていたが。まさかフェンリルだったとは。
「ライカはフェンリルだが、少し変わっていてな。ライタたち人狼は満月の日だけ、狼になるが、ライカは逆。つまりライカは基本的に犬型だが、満月の日には一日、人間の姿になる。ライカは我が一族にとって特別なんだ。青年よろしく頼む。」
オレは頷き、指輪をはめた。
「ライカこれからもよろしくな。」
指輪が輝く。
何だこの全身に力がみなぎる感覚。
ライカの心音が聞こえる気がする。
これが精霊フェンリルと契約するということなのか。
「青年の魔力がライカの栄養だ。もちろん食事も取るが。青年が危険に陥るとライカから力を借りることもできるだろう。」
あれ、そういえばライカは満月の日には人間に戻るって言ってなかったっけ。
ライカを見ると、光に包まれている。
犬の格好から人の形に変化している。
驚いた。そこに現れたのは全裸の美少女。
変化した後だからか服は着ていない。
銀髪に銀色の目。人間でいうと15歳位に見える。身長は150センチくらいか。オレの胸の位置くらいある。
胸はすごく大きいが全身が細い。シイナとは大違いだ。
しなやかな筋肉に見えるのはフェンリルが人間に変化したから。
「服を着てくれ」と言いマントを外して渡そうとするとライカが抱きついてきた。
「ご主人様。ライカですっ! これからよろしくおねがいしますねッ! 」
コラッ裸のまま抱きつくな。
尻尾はないが、もし犬の状態だったら絶対に尻尾を振っているだろう。
「青年はウブだな。ライカは人間の血も入っておる。人間の子どもは作れるぞ。」
オレにも昨日まで彼女はいた。フェンリル親に子作りなんて言われたら照れてしまうな。
「ご主人さまウブってなんですか。」
ライカはキョトンとした顔で聞いてくる。そんな言葉知らなくていいです。
ライカにマントを被せる。
これで気が散らずにフェンリルと話せる。
「よろしく頼む。青年よ。そろそろ戻ろう。直に夜になる。」
◇
フェンリルとライカと共にダンジョンを走って上がる。
フェンリルがいると一切魔獣が攻撃してこないのは。さすがは精霊だ。
入り口まで戻ると、もう夕方だ。太陽は1時間も経たずに沈むだろう。
そこにはライタ含めて村人全員が集まっていた。
「よくご無事でカノンさん。そして頭領も無事で何よりです。」
ライタが嬉し泣きをしている。
フェンリルがライタを撫でる。
力になれて本当によかった。
立ち話もなんだ。家に向かおうとフェンリルが言い、家に向かった。
「皆に伝えねばならん。ライカは青年と共に旅をすることになった。」
村人はザワつく。
服を着たライカがライタに抱きつき泣いている。
「お兄ちゃん。今までありがとう。」
ライタはライカの頭を優しく撫でた。
「いつまでも泣くんじゃない。ライカ。一生の別れじゃないんだ。それに話をせねばならぬことがある。」
フェンリルは帝国の教会が仕掛けた罠でおかしくなっていたこと。ライカを安全のためカノンに任せること。村としては結界をより強固に張り直し、警戒しながら人に迷惑をかけぬように過ごすこと。を伝えた。
「青年。これが、今回助けてくれたお礼だ。」
フェンリルは袋いっぱいの金貨と木箱を机に置いた。
「こんなに受け取れませんよ。」
「いいのだ。どうせ我らにお金は必要ない。色々と人間には必要だろう。取っておけ。」
ありがとうございます。と言い袋を受け取る。
促され木箱を開ける。
そこには、笛らしきものが入っていた。
「これはなんですか。」
木箱に入っているんだ。ただの笛ということはないだろう。
「これは人間には聞こえないが、ライカや人狼には聞こえる音を発する笛だ。精霊族が認めた証でもある。持っていて損はない。」
「ありがとうございます。大切に使います。」
お礼を言い笛を首にかける。首に掛けられるように 紐を通してくれている。
「名残惜しいが、時間ももうない。出ていってもらおう。青年、いやカノン、娘を頼む。」
フェンリルは優しい目母親のような目をしていた。
勿論だ。と言い、フェンリルと握手をする。
ライカとカノンは歩き始める。
村人たちは手を振っていて、ライカは見えなくなるまで振り返り手を振り続けた。
「それでご主人様。これからどこに向かうの。」
「そうだな。まずは北にある商人の街サンタルークを目指そう。たっぷりとお金と食料をもらったし、数日野宿をすればたどり着くだろう。」
「うん。わかった。野宿も楽しみ♪」
犬の姿をしたライカもかわいいが、話し相手が居るのは移動も楽しいな。
カノンとライカは薄暗い森の中を北に進む。
後ろでは狼の遠吠えが聞こえいた。
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