第8話 団長エドガーの災難Ⅱ春の夜の夢

 翌日、小さな街にカノンとライカは到着した。ライタから教えてもらった一番近い街だろう。


 カノンは商会に行く。


 目的はルノガ―将軍に手紙を送るためだ。


 内容はシンプルで誰が見ても不審に思わない内容にしないと密告の意味がない。戦時中も暗号文で状況を逐一報告していたから、暗号を作るのはお手の物だ。


 密告をしなくても良いのだが、帝国が教会に乗っ取られるのが良いことだとは思わない。戦争が始まったのもチャーチル教会が帝国に圧力をかけたからだ。教会がトップになった暁には、もれなく戦争が始まるだろう。元騎士だからと巻き込まれるのはゴメンだ。


 「オレは疲れました。帝都を去らせていただきます。門出を女神も祝福している気がしています。お世話頂いたこと感謝しています。カノン」


 教会の人間が検閲したとしても内容としては違和感がないはずだ。


 暗号の前半は何も意味はない。大事なのは後半だ。


 女神は教会を指していて、祝福は嫌なことを指すとルノガ―将軍と以前に取り決めをしていた。


 ルノガ―将軍であれば、教会で何か不穏な動きがあると感づいてくれるはずだ。





 騎士団長エドガーは数日後、謁見の間に呼び出された。


 ついに勲章と報酬が貰えるとソワソワしていた。


 あれから父上の機嫌はすこぶる悪く、実家には一度も戻らずシイナの家に転がり込んでいた。シイナは胸は慎ましいが、なかなかにいい女だ。これからもかわいがってやろう。


 謁見の間の前で、No.7シイナ、No.8クロスナー、No.9フラメルが先に集まっていた。


 「ついにこの日が来たな。カノンの件、教会から既に金はもらった。後ほど、分配しよう。」


 皆ニヤニヤしている。勲章と報酬が楽しみだ。


 


 謁見の間前の兵士に話しかける。


 騎士団長のエドガーだ。王様に呼ばれてきた。


 兵士が扉を開ける。


 王が言った。


 「よく来たな。頭を上げろ。」


 できれば下を向いていたい。なぜならニヤケ顔が止まらないからだ。


 「この度は戦争での活躍。ご苦労じゃった。予は嬉しく思う。さっそくだが、勲章授与と報酬を授ける」


 ついに来たぜ。早くしろよおっさん。さすがに王様におっさんはまずいか。言葉に出してなくてよかった。


 「N0.1エドガー団長には功二級金騎士勲章。No,6カノン。No.7シイナ、No,8クロスナー、No,8フラメル功三級金騎士勲章を授ける。また、エドガーには金貨500枚を。他の騎士には金貨400枚を報酬として与えよう。」


 やった。ついにオレも貴族の仲間入りだ。これで将軍への道も開ける。貴族の息子だから団長なんてもう言わせない。後は父上が将軍を引退すれば、騎士団の将軍だ。金だってたんまりもらえる。これで女を侍らせるぞ。


 皆も喜んでいるだろう。顔を見なくても分かる。


 カノンにも授与されるのは納得できないが、もうアイツはいない。その分も団長のオレがもらえたりして。


 王様が自らの手で一人ずつ胸に勲章をつけてくれる。


 「「「「ありがたき幸せ。」」」」


 勲章はもらった、お金は後日か。今日もらって豪遊したい。


 王様が全員勲章を付け玉座に座る。


 「お金は今すぐにでも渡したいのだが、その前に一つお願いがあっての。カノンから将軍ルノガ―宛に手紙があったのじゃ。お前たちはカノンが降りた場所を知っておろう。カノンを探し出し、城まで連れてきてほしい。」


 「お言葉ですが、それは冒険者ギルドの仕事ではないでしょうか。」


 なぜカノンをオレたちが探さなければならないんだ。意味がわからない。


 「ふむ。貴族として始めての任務じゃ。実績を作りやすいと思ったが、やりたくないみたいだな。どれ騎士団の第一小隊にお願いするとするか。」


 たしかに、カノンを連れてくればまた報酬も貰えるし、貴族として国に貢献した実績にもなる。


 これはチャンスだ。少し褒めればカノンも騎士団に戻ってくるだろう。


 戻ってきたら、奴隷のようにこき使ってやる。


 「いえ。是非とも第二小隊の我々がカノンを連れてまいります。」


 「わかった。カノンを連れてき次第、報酬を渡そう。約束する。」


 お礼を言い、謁見の間を出た。


 「団長。金が貰えないなんて聞いていねえぜ。報酬を見越して高級ホテルに泊まってるんだ。困るぜ。それにカノンを連れてくるなんて面倒な仕事受けるなんて納得できねえ。」


 クロスナーは怒っている。


 「まあそう怒るなクロスナー。教会の金で足りるだろう。それにカノンを連れてくるだけでまた報酬が貰えるんだ。悪い話じゃない。それにカノンから手紙が届いたと言っていたが、勲章と報酬が貰えた。オレたちが追放したことが罰せられない証拠だ。」


 確かにとクロスナーは頷く。


 クックックオレの策略どおりだ。迎えに行くのは面倒だが、それだけでオレたちはもっと出世できる。オレが騎士団長のエドガー様だ。将来の将軍様だ。黙って従え! 


 父上が謁見の間から出てきた。


 「エドガーか。それにお前たちもこの度は帝国のためによく尽くした。これからも一層励め。」


 「ありがとうございます。父上様。」


 「うむ。それに実家にも顔を出せ。母が心配していたぞ。」


 なんだ今日は素直に褒めてくれるじゃないか。


 「ええ。勿論です。今日は顔を出します。」


 「いや、それはカノンを連れて戻ってからで結構だ。今からさっそく向かってくれ。急を要する。」


 話の風向きが悪い。なぜカノンのためにオレたちが急がなくちゃならないのだ。


 ボサッとするなと言われて、城を追い出された。


 扱いには納得できねえが、カノンを連れてくる簡単な仕事だ。1日で終わるだろう。


 いじめて、命乞いさせてから連れてこよう。


 文句を口にしながらも第二小隊の四人は馬車に乗り込む。


 このとき、エドガーたちは気がついていなかった。カノンを見つけることの大変さとこの後に待ち受ける悲劇を。

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