第6話 声の元へ


 オレはライタに呼ばれて目を覚ます。


 「起きろ。朝食の時間だ。」


 アアと言い、先日、食事をした家に移動する。


 食事を食べながら、昨晩の話をする。


 「なあ。この村に祠はあるか。」


 ライカがオレを鋭い目で見る。


 「昨晩、念波で助けてくれと声が聞こえてな。勘違いだったら良いんだが。」


 パンとスープの質素だが美味しい食事だ。人狼は良いものを食べているな。


 「そうか。お前に助けを求めたか。」


 どうやら。当たりだな。


 「カノンが昨日言ったとおりだ。頭領が助けを求めたのだろう。」


 「なるほど。詳しく説明してくれ。」


 ライタが説明してくれた。


 数ヶ月前、帝国の騎士と思われる人物がこの村に忍び込んだ。痕跡を見ると祠に入ったらしいが、宝具を取られた痕跡はなかったらしい。そこから頭領の様子がおかしくなった。満月じゃない日でも狼のままで意識も混濁しているみたいだ。迷惑をかけたくないからと祠にこもっているらしい。


 最近は意識がない状態が続いているらしく、話しかけても何も反応しないそうだ。


 

 なるほど。そういうことか。助けを求めたのは頭領で当たりだ。


 「ああ。間違いなく頭領だろうな。だが、オレたちにはどうしようもなくてな。調べたりしていたのだが、万策尽きていたんだ。祠はダンジョンになっていて魔獣も出てくる。カノンも危ないだろう。助けてくれるのはありがたいが、無理をするな。ただの旅人には頭領のいる最下層まではたどり着くこともできない。」


 「問題ない。オレのことは大丈夫だ。一食一晩の恩もある。剣はあるか。」


 素手でダンジョンに入るなんて自殺行為だ。


 ライガが着いてこいと言い、奥の部屋に入る。


 その部屋には剣や盾、槍に斧。様々な武器が丁寧に整理されている。


 「どれでも好きなもの使ってくれ。森で倒れていた冒険者からもらったものだ。死者に装備は不要だろう。」


 カノンは目ぼしい剣を手に取る。


 ふむ。帝国騎士の支給される剣よりいい。


 軽いし、強度も十分だ。


 今の冒険者からもらったというのは多分嘘だな。こんなに良い剣を持っている冒険者は森で倒れて死んでいる訳はない。


 「この剣と盾を借りよう。祠のダンジョンについて説明してくれ。」


 「ああ。地下五階に頭領がいる祠がある。ダンジョンの作りは複雑だ。後、敵は蜘蛛が多いがそこまで強くはない。毒が厄介だ。毒消しポーションをもっていけ。」


 地図はあるかと聞くが首を横に振られた。


 「わかった。大丈夫だ。解決できるかどうかは約束できないが、行ってみる。」


 ライタが心配そうにカノンを見ている。


 「助けてくれるのは嬉しいが、大丈夫なのか。心配だ。」


 「ああたどり着くことは問題ないだろう。案内役がいれば助かるが…」


 そう言うとライカがカノンの足を甘噛してズボンを引っ張る。


 連れていけということか。だがダンジョンは危険だ。


 「案内ならオレがしたいのだが、今日は満月だ。オレもいつまで正気を保てるかわからない。ライカは何度も頭領のところに行っている。ライカが案内をするのが最適だと思う。」


 そうだな。だったら大丈夫か。


 頼むぞ。ライカ。


 

 祠の奥をサクサク進む。


 ライカが先を歩き、オレを導いてくれる。


 途中で、何度も蜘蛛が襲いかかってきたが、簡単に片付ける。


 ライカも戦闘ができるようだ。


 駆け出し、噛みつく。前足でひっかく。


 それだけだが十分に強い。


 エドガーより強い気がするな。


 それにしても嫌な予感がして立ち止まる。後は階段を下れば地下五階に着くはずなのだが…


 変な汗がにじみ出る。


 この予感が当たらないと良いが。


 止まっているとライカが心配そうにふり返る。


 待たせてすまなかった。さっさと進もう。



 地下五階に降りると、そこは大きな広間だ。


 奥には祠と頭領が見える。


 この大きさは狼じゃない。フェンリルだ。5メートルを超える大きさだ。立派な銀色の毛。大きな尻尾。なんて美しい生き物だろう。


 結界が張られていて近づくことはできない。

 

 「おい、大丈夫か。頭領だな。ライタに言われて助けに来た。」


 フェンリルが目を開けて念話で話しかけてきた。


 『すまない。人間よ。』


 「問題ない。どうすれば助けられる。」


 『分からない。それに結界も持たない。意識をうまく保てないんだ。余を殺せっ! 』


 驚いた。助けには来たが、殺しに来たわけじゃない。


 『このままでは数日のうちに意識が無くなるだろう。今日は満月だ。村を飛び出し近くの街をおそってしまう。もう時間がないんだ。』


 「諦めるな。まだ分からない。近づいて確認する。結界を解いてくれ。」


 『わかった。結界を解こう。もし余が暴れだしたら、その時は殺してくれ。』


 帝国の騎士が来てからおかしくなったとライタが言っていた。なにか仕掛けられた可能性が高い。


 それを破壊できれば、恐らく大丈夫だと思うが…


 結界が消える。


 フェンリルの元へ走り、確認する。体に外傷はない。


 おそらく何か仕掛けられたな。


 「恐らく何か仕掛けられているみたいだ。呪文の印や新しく置かれたものはないか。」


 『わからない。恐らくないと思うが。』


 ライタは祠の中の扉を開ける。


 中にはツボが置いてあった。


 変な魔力を感じる。


 これだ。


 「このツボは前からあったのか。」


 『いやそのようなツボは初めて見た。』


 わかった。壊しても文句言うなよ。


 剣でツボを壊した。



 壺が割れると瘴気が上空へ登ってたち消える。


 「これでもう大丈夫だ。ツボから瘴気を感じたがそれもなくなった。」


 『いや…間に合わない…もうダメだ…殺せ…』


 フェンリルの目が充血し、ワォォ-ンと遠吠えをする。


 まずい。正気を失ったか。


 殺るしかないのか。


 ライカが心配そうな顔でカノンを見上げる。


 そうだな。できるかわからんが、気絶させてみよう。


 フェンリルの鋭い爪がカノンに襲いかかる。


 盾で受ける。


 なんて重さだ。持っていかれる。このまま気絶させるなんて無理だ。


 カノンはその場で踏ん張り耐える。


 多少弱らせよう。後で怒るなよっ


 カノンはフェンリルの横っ腹を斬る


 剣が優秀だ。傷はつけられた。


 ライカも戦闘に参加してくれている。


 フェンリルがオレに攻撃したところのスキを突いて、飛びかかり噛みつく。


 攻撃は盾でなんとか抑え込む。


 カウンターで剣で斬る。


 何度もこのパターンを繰り返す。


 一回でも防御をミスったら死ぬな。


 オレは笑みが溢れる。


 やるかやられるか。生きていることを実感する。


 少しずつであるが弱ってきている。


 スピードも落ちてきている。


 次に決めるか。


 フェンリルの尻尾での攻撃を待つ。



 何度も、盾でフェンリルの攻撃を耐える。


 こい。はやくこい。

 

 フェンリルが尻尾でオレを払おうとする。


 ―――今だっ


 尻尾をジャンプして避ける。


 もう一ジャンプして顔の前に飛び頭を掴む。


 くらえっ


 『サンダーボルト』


 魔法が脳に直撃したんだ。これで終わってくれ。


 フェンリルは動かなくなった。


 どうやら気を失わせることに成功したようだ。


 念のため、持ってきた縄で縛っておこう。暴れられたら一瞬で解かれるだろうが、やらないよりかはましだろう。


 ライカが足元に駆け寄る。


 オレはライカを抱き寄せ撫でる。


 「よくやった。ライカ。」


 ライカはワオンと声を出した。


 フェンリルが気絶しているうちに、他にもツボが仕掛けられていないか探っておこう。

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