第二十六話 ~入学前~ 混じりモノ
「ラランは混じりモノ・・・か・・・」
母マリアにラランを部屋に連れて行くように命じて、一人になるとトーマスはどっと自室の皮張りの椅子に腰を下ろすと頭を抱えた。
いつもの部屋の風景が灰色になってるような陰鬱な気分になった。今日解決した難解な魔族の呪いを解き、誇らしい気持ちも嵐のようにどこかへ飛んで行ってしまった。
「なんということだ・・・よりにもよって何故・・・・」
ため息を大きくついて、手のひらで顔を覆う。
”混じりモノ”とは、魔法が使える一族の中で理由が不明な異なる魔法特性を持つ者の事を指す。
生まれつきもしくは十歳までには徐々に変わってしまうものが対象であり、思春期以降に魔法特性が変わるものは混じりモノとは言わない。
不貞行為、呪い、因果応報、隔世遺伝・・・混じりモノになる様々な理由があるがあまり良い方に取られることは少なく、噂や好奇の目で見られることが多かった。
また原因がわからないことが多いため、不思議で不気味な現象であることもより一層人々の関心と興味を引くことになった。
理由のわからないことを人々は喜ぶのはいつの時代も同じだった。
混じりモノは年代や地域によっては穢れた存在、不幸の象徴として扱われることも多く、人間扱いされることすらない場合があるため、”モノ”などという無機質な表記をされることが多い。
自分の身内から混じりモノが出た場合、家族は動揺し、戸惑い、疑う。
子が混じりモノなら、両親はそれぞれの不貞を。
孫に現れれば、先祖がかけたのではないかと呪いを。
商売をしていれば、商売敵が子供に呪いをかけたのではないかと・・・。
災いの蕾になることもあれば、疑心の種にもなる。
そんな存在が魔法で栄華を極め、人々から尊敬と羨望の眼差しを向けられるエーベルス一族、それも自分の娘に起ころうとは・・・・。
ラランが魔法を使えないほうが余程よかった。
魔法を学ばせたから?それとも、先日の悪魔退治で呪いももらったのか・・・?
いや、もしかしてマリアは別の男と・・・・?
これまで混じりモノの多くが直面した不安と疑心にトーマスも同様に対峙することになり心は重く沈んだ。そして、なぜこんな事態になったのか、これからどうするべきかを考えた。
一人でどれくらい悩んでいたのだろう。
混じりモノの治療をしてきたこともあるが、まさかわが子が・・・・。
今までおてんばで、素直で、まっすぐで・・・可愛くてしょうがなかったララン。
どんなことを経験させようか、プレゼントは何を喜んでくれるか・・・
ついさっきまでそんな気持ちでいっぱいだった自分の頭と心が、スッと冷えていくのを感じた。
トーマスは大きく息を吸い込むと、立ち上がり上着を羽織ると邸内にある自身の診療所へ向かう。
混じりモノの治療方法を探し、治療するために。
その瞳は冷たく強い意志を持って鈍く光りを帯びていた。
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