第二十四話 ~入学前~ 秘密の復習

 闇の魔法が初めて成功した日、ラランは部屋に戻り自分のやったことを必死に思い出し理解しようとしていた。

自分の部屋には、光の魔法使いの本が大切に本棚に飾られている。

思い描いていたのは、光の魔法を駆使して人々を救い、皆から感謝される姿だった。

だけど、今日自分が成功したのは闇の魔法。

魔法が出来たことは喜ばしい。だけど、どうして正反対の魔法なのだろう。


 神話に出てくる魔法使いの中にも闇の魔法使いはいた。

勇者と共に悪を倒す大切な仲間として存在していたが、その魔法は人々から尊敬されるものとは言い難かった。

魔法の性質は悪魔達の使うそれに近く、相手を呪い、攻撃し、永遠を与える命を奪う魔法が多かった。性質が近い分弱点を見つけることができたのも闇の魔法使いがいたからこそだったのだが一般人なら二の足を踏むような内容の種類の魔法が多かった。それに加えて神話や伝記に出てくる闇の魔法使いは、陰鬱で暗く影のあるような描き方をされていることが多かったため、憧れの存在としても眉をひそめるような外見だった。。

中には意地悪な目つきの悪い、それこそ悪魔に近い形で描かれているものもあった。

ラランの大好きな絵本にも闇の魔法使いはいるが、お姫様に意地悪をする魔女のような姿をしていた。

自分がこの魔法使いと同じ魔法を使ったと思うと、嬉しさも吹っ飛び、恐ろしさと悲しささえ覚える。

「どうしてコッチかなぁ・・・」

絵本を開き、闇の魔法使いを眺めそっと本を本棚に戻すと、ベットに寝そべってうーんと考える。

だけど、過去に戻れる訳でもなく、考えるよりもう一度やってみたほうが早いと思い直し飛び起きる。

そのタイミングでドアがノックされる。

コンコン

「ララン様、起きてらっしゃいますか?お食事の時間ですよ?」

ドアの向こうからドロシーの声がする。

もう夕食の時間なことに驚き、どうしようか悩んでいるうちに、

なんとなくバツが悪くて、そのままじっとして寝たフリをすることにした。

「寝てらっしゃるのかしら・・・。

ララン様、お腹が空いたら降りてきてくださいましね!」

ドロシーは大きな声でドアの向こうでラランに向かって話かけると、どうやら戻っていったようだった。

(ドロシーったら、これじゃ寝てても起きちゃうでしょ・・・)

ラランは、ドアに近づいて誰もいないことを確認すると自分の部屋の中で忍び足をして、机に向かい教科書を開く。今日ギリアムから習ったところを復習することにした。


 息を整えて、目を閉じる。

そして今日教えてもらったことをよく思い出す。

ギリアムの言葉、教科書の言葉・・・・。

身体の中から感じる魔法の力を感じ、手のひらに集める。

こうして魔法の言葉を唱える・・・

「・・・蛍」

・・・・何も起こらない。

力を感じても、それが光になって出てくることはない。

「はぁ・・・・やっぱりダメか・・・。」

小さくつぶやいて、気を取り直す。

自分は闇の魔法は使えない確証が欲しかった。

昼間はいろんな魔法を使いすぎて、魔法の力が濁ってしまったのかもしれない。

絵具でいろんな色を混ぜると、黒くなる。

もしかしたらそんな事と同じかもしれない。


「フー・・・・」

息を大きく吸い込んで、もう一度基本の姿勢を取る。

力を巡らせて発現しないで欲しいと思いながら魔法を唱える。

「影のうしろ・・・」

手のひらから小さな闇の魔法の玉がラランの生まれる。

ラランがゆっくり目を開いて魔法の玉を目で追う。


黒い玉はフラフラと生まれて部屋の隅に向かってふわふわと飛び出す。

魔法の玉が向かう先に気が付いたラランは思わず声を出す。

「あ・・・ダメだよ!!」


バチン!

魔法の玉は、部屋の隅にいたクモを包むと、弾けるように音を立てて消えた。


クモは黒い灰になり、サラサラと消えた・・・・。


「・・・・ゴメン・・・なさい」

ラランはクモに謝った。

「ごめんなさい・・・」

次の謝罪の言葉は、もう自分で何に謝っているのかわからない。

ただうつむいて涙がこぼれるのを止められなかった。

泣いている間に窓の外はすっかり夜が更けていた。

ラランはこのまま夜の中に自分が溶けて真っ暗になってしまった気がした。







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